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遺伝性肝臓病:iPS遺伝子治療…マウスで成功 英研究所

 欧米に多いα1アンチトリプシン欠損症という遺伝性肝臓病の患者の細胞から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作り、病気の原因となる遺伝子を改変後に同じ病気のマウスに移植する遺伝子治療に、英サンガー研究所の遊佐宏介博士研究員らが成功した。同症は治療が難しく重い肝硬変を招く。日本にはほとんど患者はいないが、この方法を応用すれば他の遺伝病の治療法も開発できる可能性があるという。論文が英科学誌ネイチャー電子版に13日、掲載される。

 遊佐さんらは患者の皮膚細胞からiPS細胞を作成。そのDNAの一部にある原因遺伝子を、亜鉛を含む特殊な酵素で切断し、目印を付けた正常な遺伝子に置き換えた。目印は付けたままだと別の病気になる可能性があるため、認識するピギーバックというたんぱく質で消去した。これを肝臓細胞に成長させ、マウスの肝臓へ移植すると機能が回復した。

 iPS細胞を使った遺伝子治療は、ある種の重症貧血の動物実験で成功例がある。狙いの遺伝子だけを改変するのが難しく、正常な遺伝子まで傷つけて、別の病気の原因になるという問題点があるが、今回はそうした点を解決できた。論文共著者のバイオベンチャー・ディナベック(茨城県)の房木ノエミ・細胞工学グループリーダーは「iPS細胞は増殖しやすいので、遺伝子治療後の移植に使える正常な臓器組織をたくさん作ることができる。目的の遺伝子だけを改変するので安全性も高く、他の遺伝病でも応用できそうだ」と話している。【野田武】

毎日新聞 2011年10月13日 2時00分

 

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