それだけではない。
「市役所などは週に5日間開くことができなくなり、毎週1日は職員を無給で自宅待機させている。サンフランシスコ市役所では職員の40%がレイオフ(一時解雇)された」(伊万里氏)という。こうした公共サービスのカットや停止が全米各地に広がっていることから、米国民は一層ドル不信を強めているのだ。
ニクソン・ショックを契機に世界は変動相場制に突入、米ドルは基軸通貨として君臨し続けてきた。あれから40年。「アメリカの権威」が暴落の瀬戸際まで追い込まれている。
さらに欧州ではギリシャ危機に端を発したユーロ危機が再燃、中国の成長にも陰りが見えてきた。いま世界同時不況の警告サインがうなりを上げ始めている。一体、世界はこれからどうなってしまうのか。
「投資家がドルを売り浴びせるのは、アメリカ経済が大きく後退すると見ているから。アメリカはリーマン・ショック後に大胆な財政政策や金融政策で市場にカネをばらまいて景気を下支えしてきたが、これが効かなくなってきた。
そこへ債務問題や米国債の格下げ問題が発生し、緊縮財政へ舵を切ったため、米国経済の低迷は必至だと考えられるようになっている」(クレディ・スイス証券チーフエコノミストの白川浩道氏)
国内外から突きつけられたドルへの「ノー」に対して、オバマ大統領ら連邦政府は「米国債は安全だ」「格付け会社は2兆ドルも計算間違いをしていた」と火消しに躍起だが、それも〝無駄足〟ということ。世界は「米国債の安全性」よりも「アメリカの成長性」に疑問を抱いているからだ。
職も貯金もないアメリカ人
実際アメリカ経済の惨状は目に余るものがある。日本ではほとんど報じられていないその実態をいくつか紹介しよう。
■アメリカではいま大量のレイオフが復活している。『チャレンジャー・グレイ・クリスマス』のレポートによると、この7月だけで労働力削減数は6万6414人。前月よりも60%も増加した。医薬品、コンピューター、小売りなど、これまで労働力削減が少なかった産業でレイオフが起きたことがその理由。
■しかも一度解雇されると、〝復活〟するのが非常に困難。『ナショナル・エンプロイメント・ロー・プロジェクト』によると、求人広告の多くは「現在雇用されていなくてはならない」という条件付き。そのため失業者は長期にわたって職を得られないでいる。約630万人が6ヵ月以上も失業中で、このままレイオフが続けば貧困が蔓延し、破産が増加すると予測されている。
■さらに『ウェルズ・ファーゴ・セキュリティーズ・エコノミクス・グループ』の報告によると、平均的労働者は20週間職探しをした後、労働市場からドロップアウトしている。つまりは多くの人が政府や友人・家族の援助を受けていることになる。
■結果、アメリカ人は「ギリギリの生活」を強いられている。『ナショナル・ファウンデーション・フォー・クレジット・カウンセリング』のレポートによると、「予期せぬ1000ドル(約7万7000円)の出費が起きた時どうするか」という調査で、その額を預金口座から引き出せるのは、回答者の36%だけという結果だった。
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