はじめに
ここでは、あえて日本の新幹線方式の優位性を指摘しながら「高速鉄道の本来あるべき姿勢」について検討してみよう。
高速鉄道建設の経験やノウハウをもたない高速鉄道導入国において、勢い高速鉄道を導入した場合、たとえ車輌は走行可能であってもそれを支える軌道施設の建設経験やノウハウ、各種走行データの蓄積等がないと、とんでもない事態に陥ることになると、この欄で指摘してきた。それはあえて言うならば、韓国の高速鉄道(TGV)建設の進捗状況にはっきり現れている。
ことのそもそもの発端(すなわち高速鉄道建設の大幅な遅滞)は韓国とフランス間で結んだ受注契約にありそうだ。そこには車輌の導入契約だけで、軌道建設などは韓国側の分担であったきらいがある(契約書を閲覧等できるわけではなく、推測に基づく)。元来、フランス側としても、車輌の受注が主な目的であり、軌道を含むインフラ(土盤、高架、トンネルなど)全般には関心がなかったものと思われる。
また、つい最近の報道によると、韓国独自の技術(国産化率87%)により、最高時速350kmを達成したとの報道(2002年3月13日)があったが、ここにきての開発(1996年から開発に着手)発表は、少し唐突に思える。なぜなら、韓国高速鉄道契約はフランスのTGVとの契約であるからである。たしかに、当初契約では、46編成のうち、フランス側12編成、残りの韓国側34編成が技術提携により韓国で製造されるとなっている(参照上記写真:「上」の車輛は仏・アルストム社の技術供与で、韓国国内で製作した初期運行用「KTX」。「下」は韓国国産技術で製作したロテム社の「G7」高速鉄道)。この報道を見る限り、ただ単に、フランスのTGV車輌を導入しただけでは、どうにも合わない不具合が存在したことを、うかがわせる色合いが強い。
≪本欄初稿:2002年 当時≫

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それはさて置き、本題の「高速鉄道の本来あるべき姿勢」に入ろう。
この問題を理解する手がかりは、台湾高速鉄道における日本の新幹線方式とフランスのTGV方式との受注競争に見ることができる。それはくしくも、ドイツ高速鉄道(ICE)の脱線・転覆事故、さらには台湾大地震等の外部要因があったことは否定できないが、日本の新幹線方式が台湾当局に受け入れられたこととは、偶然の一致とは思えない。そのことはこれまで培ってきた、新幹線の「安全第一」、「定時性」、「大量輸送」という、概念が広く認められた証左といえる。
1.「新幹線」と「TGV」の違い (参照:新幹線とTGVの諸元比較)
では具体的に、「新幹線」と「TGV」の違いを検証してみよう。一般にいわれる新幹線方式の優位性を以下に述べると、
@発車時と停車時における加速性と減速性に優れる
A最大軸重が軽いため(動力分散型)軌道施設建設費の軽減を計れる
B総合運行管理システム化による安全走行が可能
ーーなどが挙げられる。
まず第一の、「発車時と停車時における加速性と減速性に優れる」である。
韓国高速鉄道(写真は「天安駅」)
これはTGVのような「動力集中方式」(機関車型)と新幹線に見られる「動力分散方式」(電車型)とからくる、違いである。日本のような人口密集地で、しかも駅間距離が比較的短い区間を高速で運行するためには、長年培った東海道本線における通勤電車方式が最適であると、いうのが新幹線関係者等の当初からの一致した見解である。
その方式が、東京〜新大阪間の年間乗降客1億3,000万人(一日平均約36万人)という、超過密ダイヤをさばく要因となっている。ちなみに、新幹線はそれによって、3分30秒ヘッド(注1)が可能となった(一時間に12編成が発車可能、将来的には品川駅の増設により、15編成が発車可能)。この「発車時と停車時における加速性(注2)や減速性の優位」は、また新幹線方式の特徴である「こだま」、「ひかり」、「のぞみ」などの、走行別車輌の編成を可能とした、点が指摘できる。
【写真説明】 わが国の「東海道新幹線」は開業3年目にして単年度黒字、開業8年目にして累積収益額が建設投資額(約3,800億円)を上回っている。また駅周辺の開発も在来線との併設などにより、かなりの収益効果をあげている。駅数も少なく、時間当たりの便数も少ない、仏・「TGV」方式での運営が今後どれほどの収益性を生み
だすか注目されるところである。
(注1:一時間12本の列車ダイヤだと、最大5分間隔となる。しかし実際には、始発の東京駅では到着電車がホームに進入するとき、ポイントの関係で発車電車が出発した後に、ポイントに入れる最小の時間が3分30秒となる。)
(註2:仏・TGVの加速度は0.8km/h/s程度。これに対して、新幹線は初期における「0」系でも1.0km/h/s、後継車輌では1.6〜2.0km/h/s、「700」系では2.6km
/h/s−−ほどある。)
◇ ◇ ◇
この方式が、あったがゆえに、3分30秒ヘッドの過密ダイヤが組めたのも事実である。したがって、この方式以外に、大量輸送をさばけるものはなく、結果的に、TGV方式では大量の人員を輸送することは難しい。
次ぎに、第二番目の「最大軸重が軽いため軌道施設建設費の軽減を計れる」という問題である。
一般に、電車方式よりも、機関車方式のほうが軸重が重く、新幹線が11トンに対して、TGVは17トンである。これによって、橋梁や高架橋などの構造物に対する重荷重のため、TGV方式のほうが建設費が余分にかかるといわれる。たしかに、最近できあがった韓国高速鉄道のトンネルや高架橋などをみる限り、当初予算よりも大きくオーバーしていると思われる節がある(結果的に、割高といわれる新幹線方式であるが、営業開始期間までの金利等を考慮すればかえって安上がりかもしれない)。また、列車の前後に、軸重の重い機関車を装備するため「スネーク振動」現象(註)をもたらし、低速でのカーブ地点での脱線事故につながりやすい。
(註:京釜高速鉄道でも、当初からこの「揺れ(スネーク)現象」の存在が指摘されている。) |
≪参考図書≫
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2.システムからくる輸送力不足の懸念
最後は、三番目の「総合運行管理システム化による安全走行の可能」である。このシステム化がここでのテーマである「高速鉄道の本来あるべき姿勢」という、新幹線運行管理システムに凝縮されている内容である。
高速鉄道を他国(特に高速走行の経験のない諸国)に導入することは、すなわちそれを開発した国の高速鉄道に対するポリシー(安全性・高速性・定時性などの既に確立した要素)を第三国に移転することである、ともいえる。
ところで、日本の新幹線の優位性の根源は何かといえば、それは「安全走行」に対する各種の制御システムにあるといえる。その典型が@「ATC」(自動列車停止装置)の導入、A中央総合指令所の設置による運行管理のコンピュータ化、B運転時間帯と保守作業時間帯とを法律に則って分離した「新幹線運行特例法」などに代表される法的規制の導入ーーにあるといえる(詳細は省略)。
さらに、もう一つの特徴として、新幹線独自の「複線一方向方式」というものがある。この方式は片方向で最大、毎時12列車(往復で24列車)の運行が可能である。一方、TGVなどが採用している「双単線方式」では、昼間行われる路盤や架線などの保守・点検などのため、20kmごとに「亘り線」を入れて単線運転を行う必要があるため、その間は、毎時双方向で6列車しか運行できない、ことになる。
輸送力確保のため韓国高速鉄道は、2輌の動力車と18輌の客車(935人)で構成される。しかし前後の機関車2輌に客車9輌2編成の合計18輌が連結するため動軸数が足らず、機関車連結部客車の1/3が動力車となる(その後の情報では、各編成の機関車2輌、したがって4輌の動力車が編成されているようだ)。20輌編成で総延長は388mほどになる。
ここで、韓国高速鉄道で、一つ気にかかるのが、軌道構造が全線バラスト方式となっている点である(註)。日本の新幹線のうち、東京〜新大阪間もやはりバラスト方式であるが、これはその後、スラブ方式となった他の新幹線路線(山陽[岡山〜博多]、東北[一部(10%)バラスト区間]、上越、長野など)と比べても、路盤の保守・管理・維持が容易でない、ことで知られている。
(註:鉄道庁が最近、国会建設交通委所属の開かれたウリ党の趙慶泰・議員に提出した「高速線氷雪被害防止対策研究」報告書によると、2003年の冬、高速鉄道の試験運行期間中、氷雪による落石、列車部品破損などが全部で32回もあったことが明らかになった。この中、西海岸高速道路区間で、交通渋滞で立ち止まっていた車両の前面ガラスが、鉄道からの落石で破損して、人命被害となりかけた事例もあった。そのため、今冬の高速鉄道が通過する鉄道周辺の橋梁と道路155カ所、無停車駅舎内施設と人命に対する“人災”の可能性が予想されている。同報告書は、冬季の高速電鉄運行区間周辺事故を防ぐために、△通過駅構内に砂利スクリーン設置、△合成樹脂散布を通した砂利飛散防止などの措置を提案して、これのために予算が156億〜394億ウォンに達するものと推定した。しかし、鉄道庁は予算上の理由で対策樹立を先送りしている。ーー(出所:韓国「世界日報」、2004年10月1日・要約)
まして、これを新幹線のように夜間の時間帯に行うのではなく、昼間の列車走行時間帯に行うフランスのTGV方式(双単線方式)で、果たして十分な輸送力が補えるかという問題である。さらに将来的には、光州や木浦などを結ぶ湖南線などの高速鉄道乗り入れも考えられ、その場合の、輸送力の増強も計る必要にせがまれる(地図参照)。
(なお、当座の運行区間として利用される「大邱〜釜山」間の在来線区間は、今回〔2002年8月末〕の台風で京釜線を走る鉄橋が流失するなど被害が出ている。今後、電化し高速鉄道を乗り入れる予定であるが、在来線の橋梁などは金属疲労も激しくかなりの補強が必要とされるのではないか。
【韓国高速鉄道の運行仕様】
2004年4月に開通が予定される韓国高速鉄道の運行仕様等が明らかになった。それによると、ソウルを起点にした平日では、@「京釜線」が66運行、A「湖南線」が22運行。週末と休日が92運行となる。したがって、「京釜線」が15〜20分、「湖南線」が40分間隔の運行となる(この運行頻度は当初の予想と同程度となる)。またこれまで、「天安〜大田」間で行われていた試験運行を、8月から「ソウル〜大田」間に延長、さらに11月からは「ソウル〜釜山」間(「大邱〜釜山」間は在来線区間となる)での全区間の試験運行が実施される。一方、「ソウル〜釜山」間の高速鉄道が開通することによって、従来の特急である「セマウル」「無窮花」などの運行量は現行の25%ほどに減便される。
ところで、この京釜高速鉄道は「ソウル〜釜山」間の全線が開通する2010年前後までは、「大邱〜釜山」間は在来線を走行する。したがってこの区間は、従来からの@普通列車A特急(25%に減便)B貨物列車--などが輻輳して走ることになる。果たして、15〜20分間隔で高速鉄道が運行できるのであろうか(註1)。
(註1:この「京釜高速鉄道」は全線が開通するまで、高速運行は「ソウル〜大邱」間にして、「大邱〜釜山」間の輸送は特急列車の運行頻度を増便して輸送したほうが、「京釜線」全体からみた総合輸送量という観点からは、望ましいように思われる。わが国の「東北」「上越」新幹線においても、当初、「大宮〜東京」間は在来線を使用していた。検討の価値はあろうかと思われるが。)
3.建設資金の早期償還がポイント
韓国と台湾で始まった高速鉄道建設は、それぞれ2005年を前後して、韓国側は暫定区間ではあるが、営業を開始することになる。台湾新幹線は1997年から35年間の建設・運営と、50年間の駅周辺開発権を事業会社(台湾高速鉄道公司)に与えている。総事業費は約4,600億元(約1兆6,000億円)、開業後5年間の保守業務の指導・管理が契約に含まれている。また、最終資本金1,321億台湾元(約4,500億円)のうち一割を日本企業が出資することで合意。しかし、軌道・駅舎・車輌基地などの構造物は別途発注であり、全体システムとしての整合性が発揮できるかが気がかりである。
一方、韓国高速鉄道は、1992年に設立された韓国高速鉄道建設公団(KHRC)が@新線および在来線との連絡線建設など、A高速列車46編成の受領試験ーーなどを経て、完成後の資産と債務はKHRCからKNR(韓国国鉄)へ一括移管され、以後、KNRの管理運営下におかれる。総事業費は約18兆4,358億ウォン(1兆8,000億円)、そのうち45%は政府資金、残りの55%は韓国高速鉄道公団が、民間金融機関からの借り入れとなる。 (下記の表参照)
京釜高速鉄道の工費と工期(計画)
路 線 |
区 間 |
キロ(km) |
工期(年) |
工費(約億円) |
キロ当り(億円) |
第一期 |
ソウル〜大邱 |
330 |
11 (注1) |
13,000 |
39.3 (バラスト) |
第二期 |
大邱〜釜山 |
110 |
8 (注2) |
6,000 |
54.5 (バラスト) |
(注1:工事着工年を天安〜大田間(57.2km)の試験線着工年の1992年とし、工事終了年の2003年としている。)
(注2:工事着工年を第二期工事着工の2004年とし、工事終了年の2012年としている。)
(注同:その後、2010年の全線完工時における総工費は約2兆1,000億円になるとの試算もある。)
(※:なお、工期・工費については修正値(註3)に基づいている。)
(註3:当初の建設費は5兆8,462億ウォン(5,846億円)という、かなり低めに見ていたようだが、やはり欧州勢が
採用するUIC(国際鉄道連合)基準ではコスト高とならざるを得ない(註4))
(註4:いずれにせよ、今後における高速鉄道の建設コストは途上国といえども、それほど安くはならないであろう。
中国における「北京〜上海」高速鉄道(約1,300km)においても、1兆5,000億円ほどが見込まれているが、そんな
低コストでは難しいであろう。)
【韓国高速鉄道「KTX」、経営は赤信号=利子さえも返済できない可能性】
韓国高速鉄道「KTX」の開業以来の運行実績が明らかになった。それによると、平日の乗車率は「京釜線」が62.6%、「湖南線」は38.3%で、平均すると50.4%にすぎない。当初は、1日平均15万人の利用を見込んでいたが、実際には半分しかない。
このままの乗車率が続くと、2004年度の収入は6,300億ウォン(約630億円)ほどにとどまる、との試算もある。当初計画では1兆1,084億ウォンほどの収入を想定していた。したがって、営業費用(1兆956億ウォン=約1,100億円)の支払いすら難しくなる。10兆2,692億ウォン(約1兆270億円)の負債から生じる、6,075億ウォン(607.5億円)の利子さえも返済できない可能性も出てくる。
台湾高速鉄道の工費と工期(計画)
路 線 |
区 間 |
キロ(km) |
工期(年) |
工費(約億円) |
キロ当り(億円) |
台湾高速 |
台北〜高雄 |
345 |
5 (注1) |
16,000 |
46.3 (注2) |
(注1:工事着工年を2000年とし、完工を2005年としている。)
(注2:路盤については全線ほぼスラブ形式となっている。)
(参照):本欄「台湾(台北ー高雄)高速鉄道の進捗状況」
これまでの新幹線建設の工費と工期
路線名 |
区 間 |
キロ(km) |
工期(年) |
工費(約億円) |
キロ当り(億円) |
東海道 |
東京〜新大阪 |
515.4 |
5.6 |
3,300 (注1) |
6.4 (バラスト) |
山 陽 |
新大阪〜岡山 |
160.9 |
5.0 |
2,200 (注1) |
13.7 (バラスト) |
同 |
岡山〜博多 |
392.8 |
5.1 |
6,900 (注2) |
17.6 (スラブ) |
東 北 |
東京〜盛岡 |
496.5 |
19.7 |
26,600 (注2) |
53.6 (スラブ) |
上 越 |
大宮〜新潟 |
269.5 |
11.0 |
16,300 (注2) |
60.5 (スラブ) |
(注1:1960年代〜70年代に、建設着手した東海道・山陽新幹線(新大阪〜岡山)は、やはり物価等の関係で
安上がりにできている。)
(注2:東北、上越新幹線の工期・工費が大きいのは、当時の経済事情(工事の一時凍結)、ならびに山間・豪
雪地帯である上、そのための設備上(雪害対策など)、路盤をスラブ形式にしたためである。)
以上のように、高速鉄道の特徴である「高速性」「定時性」「安全性」などをいかんなく発揮できる高速大容量輸送機関としての使命を果たす媒体として、日本の「新幹線」方式が、唯一であることを証明してきた。わが国の新幹線は開業三年目で黒字化をなし、その後の民営化においても、JR各社における有力な収益源となっている。工期の短縮を通して、より早い建設費の償還をいかに達成するかに、今後の高速鉄道等の大規模施設の「建設・運営・引渡し」(BOT)方式に課せられた使命がかかっているといえるのではなかろうか。
| 以上のように、高速鉄道の特徴である「高速性」「定時性」「安全性」などをいかんなく発揮できる高速大容量輸送機関としての使命を果たす媒体として、日本の「新幹線」方式が、唯一であることを証明してきた。わが国の新幹線は開業三年目で黒字化をなし、その後の民営化においても、JR各社における有力な収益源となっている。工期の短縮を通して、より早い建設費の償還をいかに達成するかに、今後の高速鉄道等の大規模施設の「建設・運営・引渡し」(BOT)方式に課せられた使命がかかっているといえるのではなかろうか。