Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
第3次補正予算、復興特区、復興庁――。東日本大震災の被災地の再出発を後押しする3本柱の概要が固まった。与野党協議を経て、政府は今月中に召集予定の臨時国会に法案を出す構えだ。[記事全文]
政府が機密情報の管理を強化する法案をつくり始めた。来年の通常国会に提出するという。ウィキリークスによる米国の外交公電の暴露に象徴されるように、ひとたび情報が流出すれば、[記事全文]
第3次補正予算、復興特区、復興庁――。東日本大震災の被災地の再出発を後押しする3本柱の概要が固まった。与野党協議を経て、政府は今月中に召集予定の臨時国会に法案を出す構えだ。
地元の要望や創意工夫を生かした街づくりのためには、自治体側が財源と権限を持つことが欠かせない。この原則はどこまで貫かれたか。
補正予算では、総額12兆円のうち1.9兆円程度を復興交付金とする。市町村が主体となる公共事業が対象で、道路整備や防災集団移転、学校・病院の整備など、5省が所管する40の補助金をまとめた一括交付金で、市町村が必要な事業を選んで予算要求する。関連事業の費用を上乗せする仕組みも設ける。自治体側の負担はゼロにする。
復興特区については、土地利用で農地と住宅地を一体的に見直すなど、省庁ごとの規制をワンストップで緩和できるようにする。被災地での投資や雇用、研究開発を促す税制も設ける。
来年の早い時期の発足を目指す復興庁は、復興交付金の配分や復興特区の認定にあたる。他の省庁への勧告権を持たせ、一段上の立場から調整する。
これらの新たな仕掛けが骨抜きにならないか。必要な仕組みが欠けていないか。自治体本位の制度になるよう、与野党協議などで検討を続けてほしい。
たとえば復興交付金である。補正予算への計上では各省からの要求を財務省が絞り込んだ。市町村の復興計画に応じて、対象外の補助金を加えたり、金額を上積みしたり、柔軟に見直すことが必要だ。省別や補助金ごとに限度額を設けないようにするのは当然である。
復興特区にも注文がある。あらかじめ規制緩和のメニューを限るのではなく、自治体側がやりたい事業から逆算し、妨げとなる規制を廃止・緩和していくべきだ。国と地方の間で設けられる協議会では、市町村ごとにきめ細かく要望を聞き、実現していかねばならない。
復興庁が、省庁間の連絡役にとどまらないようにすることも課題だ。自治体からの省庁への異議申し立てを受け付ける仕組みを用意するなど、勧告権を生かす工夫をしてほしい。
復興のための財源は臨時増税でまかなうだけに、自治体側も責任が問われる。防災対策を最優先に、もともと深刻だった高齢化・過疎化への対応をどう織り込むか。県単位での調整など広域の視点も忘れず、単なる復旧を超えた街づくりを目指してほしい。
政府が機密情報の管理を強化する法案をつくり始めた。来年の通常国会に提出するという。
ウィキリークスによる米国の外交公電の暴露に象徴されるように、ひとたび情報が流出すれば、瞬時に世界を駆けめぐる。政府が情報管理に万全を期すのは、あたり前のことだ。
しかしながら、私たちは新しい法案が大きな副作用をもたらすことを心配する。
たとえば、国民に知られては都合の悪い情報を、政府が隠す手段に使わないか。公務員の情報公開に対する姿勢を萎縮させてしまわないか。運用しだいで、国民の知る権利も、取材・報道の自由も侵しかねないことは明らかだ。
法案の下敷きは、尖閣諸島沖の中国漁船ビデオの流出事件を機に、政府が設けた有識者会議が8月にまとめた報告書だ。
それによると、国の安全、外交、治安の3分野で、国の存立に関わる重要情報を、担当大臣らが「特別秘密」に指定する。
特別秘密を扱えるのは、配偶者を含めて、犯罪歴や薬物の影響などを調べあげた上で、秘密を守れると認めた人物に限る。
国家公務員法の守秘義務違反の懲役は1年以下だが、特別秘密を漏らした場合は、5年か10年以下に強化する。
だが、そもそも「特別秘密」とは何か。その範囲が恣意(しい)的に広がらないか。公務員のプライバシーへの配慮は十分なのか。漏洩(ろうえい)をそそのかした者も罰することで、正当な取材活動が罪に問われないか……。
現時点では、詰めなければいけない点があまりも多い。
すでに防衛分野だけは、01年の自衛隊法改正で、特に重要な秘密を「防衛秘密」にして、漏らしたときの罰則を強化している。新聞記者に防衛秘密に当たる情報を提供した航空自衛隊幹部が懲戒免職になった事例もある。こうした運用の是非を、まず検証してみてはどうか。
国際テロ対策など、諸外国との情報共有が必要な場面が増えたことが、法案づくりの背景にあることは理解する。
だが、政府が新法を制定したいのならば、もっと本気で情報公開を進めることが不可欠だ。
まずは、国会でたなざらしにされている情報公開法改正案を早急に成立させるべきだ。知る権利の保障を明記し、情報開示をさらに進める内容に異論はないはずだ。さらに、懸案の官房機密費の将来の公開にも道筋をつけてほしい。
こうした情報公開を進化させる手立てを講じてから、管理強化の法案を検討すべきだ。