きょうのコラム「時鐘」 2011年10月12日

 山あいの温泉地に、主催者発表で約5千人を集めたというから、アニメ人気恐るべしである

その世界に疎(うと)い身にも、金沢の湯涌温泉に時ならぬスポットが当たっていることくらいは知っている。そんなモデルになった地を訪れるのを「聖地巡礼」と称するそうである。いくら何でも大げさな。今どきの若者は聖地、巡礼という重々しい言葉を気軽に使う。けしからんと思う半面、自由な発想がうらやましくもある

聖地巡礼で、心はすがすがしくなるのだろうか。任侠(にんきょう)映画全盛のころ、見終わった観客の多くが肩で風を切り、勇ましいポーズを決めて映画館から出てきた光景を覚えている。誰もがしばしヒーローになったような余韻。あれと似た幸せな時間を味わうのだろうか

アニメの温泉街の最寄り駅は、実際は湯涌から遠く離れた、のと鉄道の駅がモデルだという。遠路をいとわず「巡礼」に励み、北陸の良さに触れてもらえれば、ブームも大いに歓迎したい

それにしても、アニメが生んだ不思議な巡礼に、年代の壁を痛感する。「近頃の若者ときたら」。万国共通、有史以来の嘆きだそうである。