東京・八王子のスーパー警備員刺殺事件で逮捕された男が、刑務所から出所したわずか2カ月後に、かつて襲撃した交番を訪れ、強い殺意を示していた事実に、捜査現場は衝撃を受けている。満期出所者の再犯リスクに対する有効な手だてはなく、警察幹部は「殺人や殺人未遂罪で服役し、矯正施設が再犯の恐れが高いと判断した場合は、出所後の居住地の把握などができる制度を検討すべきではないか」と話す。
再犯防止のために、出所後の居住予定先などの情報を法務省が警察庁に提供する制度は、子供への暴力的性犯罪に限っては実施され、今回のようなケースは対象外だ。警視庁は男が矯正施設にいる当時の言動も調べているが、仮に施設側が再犯リスクが高いと考えても、満期出所する男の居住先などは警察には伝えられない。
今回のケースについて、中央大学の藤本哲也名誉教授(犯罪学)は「責任能力があるとして実刑判決を受けた場合は心神喪失者等医療観察法の対象外で、現行法では対応できない」と話す。米国では性犯罪者以外でも出所後の居場所を全地球測位システム(GPS)で監視するシステムがあるが、藤本名誉教授は「プライバシーや二重処罰などの問題がある」と指摘した上で、「再犯の恐れがあれば、出所時に住所を聞いておくと対応できることもある」と話す。
一方、元法務省矯正局専門官で大阪大学大学院人間科学研究科の藤岡淳子教授は「再犯リスクの高い受刑者はいると思うが、そうではない人の方が多い」とし、「外の世界に段階的になじめるような処遇プログラムを刑務所にもっと導入するなど、社会に戻りやすいシステムを作っていくことが再犯防止につながる」と指摘している。【内橋寿明、小泉大士】
毎日新聞 2011年10月12日 2時36分(最終更新 10月12日 3時21分)