民主党の前原誠司政調会長は11日、韓国訪問を終えて帰国した。10日の金星煥(キムソンファン)外交通商相との会談では、日韓間の経済連携協定(EPA)交渉について「李明博(イミョンバク)政権の間の妥結を望む」と迫るなど「政党外交」で存在感を発揮。外交経験の乏しい野田佳彦首相や玄葉光一郎外相をサポートする狙いがあるが、旧日本軍の元従軍慰安婦をめぐる新たな対応もにおわせ、政府の公式な外交と食い違う「二元外交」を懸念する声も出ている。【野口武則】
10日の会談では、金外交通商相が元慰安婦の賠償請求権に関する政府間協議を改めて求めたのに対し、前原氏は国家賠償問題は既に解決済みとの日本政府の立場を主張したうえで「人道的観点から知恵を出し合い、静かな環境で議論したい」と今後の対応に含みを残した。会談後は記者団に、政府の出資金と募金で元慰安婦への償い事業を行い07年に解散したアジア女性基金を例に挙げてみせた。
前原氏は今月5日、訪韓を翌日に控えた玄葉氏に「解決済みと言い切るのではなく、余韻を残した方がいい」と助言していた。中国、北朝鮮との関係をにらんで日韓連携を強化すべきだというのが前原氏の持論。日韓EPA交渉を李大統領の任期(13年2月まで)と絡める踏み込んだ発言も、韓国の国会議員選挙と大統領選が予定される来年は反日世論が高まる懸念もあるため、その前にめどを付けたいとの判断からだ。
ただ、9月の政調会長就任直後に訪問した米ワシントンの講演では武器輸出三原則や国連平和維持活動(PKO)の武器使用基準見直しを表明。これも野党時代からの持論だが、政府・与党内や関係国と十分に調整しない「前原流」の危うさも印象づけた。
玄葉氏の直後に同じ韓国を自ら訪問したことには、玄葉氏への対抗意識を指摘する見方もある。
外務省の政務三役経験者は「前原氏が目立つと、外相の存在が薄くなる。自重した方がいい」と二元外交を危惧するが、前原氏は「外交は政府が一義的に行うべきもの」と言いつつも、政党外交をさらに強化する構え。党政策調査会のメンバーには「得意な国を作るべきだ」と外国とのパイプ作りを勧め、自らはロシアとの議員外交を手がける方針を示している。
毎日新聞 2011年10月12日 東京朝刊