2011年8月17日 22時10分
東京電力福島第1原発事故で立ち入りが制限された福島県の警戒区域(3キロ圏内を除く)への一時帰宅が、今月下旬で一巡する。希望した9市町村の約3万4000人がつかの間の時を我が家で過ごしたが、変わり果てた故郷の姿に「もう帰れない」と落胆した人も多い。警戒区域の住民は戻れる日のめどさえ示されず、避難先で過ぎていく時間に焦りを募らせている。【町田徳丈、蓬田正志】
第1原発の半径20キロ内は4月22日に警戒区域に指定され、3キロ圏外で5月10日から一時帰宅が始まった。会津地方に避難する島田武さん(69)は7月上旬に浪江町に戻ったが、自宅は地震で屋根が壊れて雨漏りし、クローゼットの中の喪服や布団は水浸し。帰った後の生活が頭に浮かばなかった。「これ以上時間がたったら、住めなくなっちまうよ」とため息をつく。
7月末に帰宅した楢葉町の猪上(いのうえ)幸四郎さん(64)は、冷蔵庫内の食物がすべて腐って悪臭を放っていた。家の中もかび臭かったが、放射能が心配で窓を開けられなかった。周辺は雑草が腰まで伸び、まるでゴーストタウン。「顔を合わせれば自然とあいさつを交わす素朴な田舎だったのに。帰りたい気持ちが萎えた」。2巡目の一時帰宅に参加するつもりはないという。
多発する盗難被害も避難先の住民たちを不安にしている。県警によると、一時帰宅者の被害申告数は今月12日までで547件。うち7割の390件が現金や貴金属などの空き巣被害。県警は幹線道路に検問所を10カ所設け250人態勢で警戒しているが、区域に通じる道に柵を置いているだけの所もある。
一時帰宅では事足りず、そこから自宅に戻る住民もいる。50代の男性は柵をどけて細い山道を通っては、家財道具を持ち出している。「避難所を出てアパートに落ち着くと、いろいろ必要なものが出てくる。仕事も失い、新たに買う経済的余裕はない」。一緒に行ったことのある40代の男性も「一時帰宅が7月下旬と遅い時期だったので、窃盗被害に遭う前に貴重品などを持ち出したかった」という。2人とも「自分の家のもの以外は持ち出していない」という。
災害対策基本法は、警戒区域に許可なく立ち入り、退去に従わない者に対し、10万円以下の罰金か拘留を科すとしている。だが今回の震災で検挙者は出ていない。県警は「住民を検挙すると反発されてしまう」と、自宅に戻る人を見つけた場合は「次回は正式な一時帰宅で立ち入る」と始末書を書かせ、口頭注意にとどめている。始末書の提出はこれまで約50件という。
一時帰宅の2巡目は9月以降に始まる予定。1巡目は袋一つに入るだけの物しか持ち出しが認められていなかったが、自家用車での帰宅が認められる見通しだ。