「作業員の死因の公表は控える」という、東電の情報公開姿勢への疑問
<木野龍逸>
10月6日に福島第一原発で、またひとり作業員が亡くなった。作業員の死亡は事故発災以来、これで3人目。最初は心筋梗塞、2人目は白血病だったが、今回 は死因が明らかにされていない。以前の2人についても、また今回についても東電は、福島第一原発での作業との因果関係はないと発表しているが、どうも不安 が拭えない。
福島第一の作業員死亡 事故後3人目「被曝と関連なし」(10月6日付 朝日新聞)
http://www.asahi.com/national/update/1006/TKY201110060618.html
当初、東京電力は、亡くなった作業員が所属していた元請け企業からの連絡を受けただけで死亡診断書は未確認とのことだった。今 日(10月9日)夕方の会見で東電の川俣氏は、死亡診断書を確認したかどうかという質問に対して、「ご遺族の意向もあるので、公表は差し控える」と回答し た。
以下に、10月9日夕方18時からの会見のやりとりを紹介する。
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Q)亡くなった方の死亡診断書の確認はしたか? 死因は?
A)ご遺族のご意向もあって、差し控える。元請けと話もしたが、ご遺族は急なことで動転されている。過去に
ご説明したと思うが、被ばく線量は低い。作業状況は1日数時間の作業、過酷ではないと判断。
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Q)夏の期間は数時間の作業で熱中症が出ている。過労ではないという判断はできないのでは?
A)亡くなったのは日付の一週間前の状況などを見ると、過酷ではないと判断している。
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Q)元請け企業はどこか? 何次下請けか?
A)元請けは大成建設。作業員はその関連企業。何次下請けかははわからない。
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Q)死亡の届け出は事故としてか?
A)警察等へ届け出はしているが、事故ではないと思う。保安院へは報告している。
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Q)今回は病名も明かしてない。なぜ以前は病名を出した?
A)以前は、基本的にはご遺族の同意をいただいている。
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Q)今回の死因は、病気にかかわる事柄か。死因と病名の因果関係は?
A)労働環境が起因していればそれなりに調査する。労基署、警察署などでも調査。今の時点で、そういう状況ではないということ。
死因さえ明らかにならない理由が、どうもよくわからない。遺族の意向はわかるが、死因を公表しても遺族の特定にはつながらないのではないか。作業と死亡との因果関係は、東電はないと言うけれども、判断するのは東電ではない。
8月に作業員が白血病で死亡した際、東電はやはり、作業との因果関係は求められないとしていた。理由は、作業は死亡前の7日間だけであり、その間の外部被ばくが0.5ミリシーベルトと低いことだった。しかし、8月に福島第一原発で作業する前の行動は公表されていない。
このため、仮に8月の作業が直接の原因ではないとしても、それ以前に他の原発で働いていた可能性もあり、広い意味で原発作業との因果関係が否定されているわけではない。また、仮にこの作業員が3月11日以降に福島に住んでいた場合、事故による影響も考えられなくはない。しかし東電は、因果関係もないので、これ以上の調査は不要だとしている。
このため日本弁護士連合会は、8月30日の東電の発表後、9月2日に会長談話として、「男性の職歴、生活歴、それから予想される被ばく線量を徹底的に調査し、男性の原子力発電所での作業と事故後の生活に基づく被ばくを併せて考慮し、急性白血病との関係を慎重に検討した上で、プライバシーに配慮しつつその検討結果を公開することによって、原子力発電所労働者の休憩時を含む労働環境の適正さを確保すること」を、東電に対して求めている。
東京電力福島第一原子力発電所作業員の急性白血病による死亡に関する会長談話
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2011/110902_2.html
この日弁連会長の談話について東電の松本氏は、9月30日の会見で、「亡くなった方に配慮して発表。(今後の調査をしないという)考えは変わらない」とコメントしている。
今回の発表内容は、5月に心筋梗塞で1人が亡くなった時、あるいは8月の白血病の時よりも、情報公開という点では後退している。日々の作業内容については公開されているとはいえ、例えば、年内に建屋内の汚染水をすべて処理するという目標は突然、OP3000という水位で管理することに変更されたほか(これは格納容器の修繕を当面はしないということになる)、敷地内の映像等、現場の様子は東電が公表情報を選択管理しているのは変わらず、3月11日の事故以来、大本営発表が続いている状況に大きな変化はない。
情報が出ているように見えて、その実、肝心な部分は不透明な状態が続いていることにより、発表されている内容についての疑念が払拭できない。現場の状況が事故収束、あるいは避難者への対応に関係していることを思うと、大本営発表にも似た情報公開の方法に疑問を感じざるをえない。本来であれば敷地内に第三者が常駐し、逐一、情報を確認すべきではないか。現在、保安院は人を置いているが、わずか3人程度。広大な敷地を監視するにはあまりにも少ないが、人数を増やす必要はないと考えているようなので、この部分に関してはアテにならない。今は、東電が誠実に情報を公開するようになってほしいと、願うことしかできない。
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投稿日: 2011年10月 11日. 投稿カテゴリー: FEATURE, 原発 関連, 最新ニュース, 木野龍逸.