【まさに】ハーレムな小説を書くスレ【至上】 15P

535 :『きれいなあきらたん』:2008/05/26(月) 00:38:52 ID:G3OB8H2n


海城 剛(かいじょう つよし)には、四つ年下の許嫁、小泉 晶(こいずみ あきら)がいる。



許嫁、といっても二人は微妙な関係で、剛は東京に、晶は岡山の山中に住んでいる。
幼い頃、それぞれの両親によって半ば無理矢理結ばれた許嫁の契り。
本人達は幼い頃から、そんな約束を聞かされ続けて育った。
しかし、二人が逢えるのは、毎年年末年始の帰郷で、剛が岡山に戻ってくるときのみである。



さてそれでは。

この話は、脳天気なファンタジーである。
まずはそれを踏まえていただきたい。

そして本題に入るにあたって、読者諸氏に、彼らが僅かの逢瀬をいかに積み重ねてきたかを紹介しよう。



剛5歳、晶1歳の冬。

「ばぶー、だー、」

まだ晶は赤ん坊で、喋ることは出来ない。


剛6歳、晶2歳。

「ちゃーん、だぁ、」

まだ喋れない。


剛7歳、晶3歳。

「にーに、にーに」

剛のことを、兄(にーに)と認識した様子。


剛10歳、晶6歳。

「つよにーたん!」

舌っ足らずな口調で、剛兄さん(つよにーたん)と呼びながら、彼の後ろをとことこついてくる。


剛12歳、晶8歳。

「つよしにいちゃん〜!」

手を掴んだり、抱きついたりと、スキンシップを取りたがる。


536 :『きれいなあきらたん』:2008/05/26(月) 00:39:35 ID:G3OB8H2n


剛13歳、晶9歳。

「つよしにいさん!!」

一度手を繋いだら、なかなか放してくれなかった。


剛14歳、晶10歳。

「つよし兄さん!」

直接的な接触はなくなったが、何かと行動を共にしようとする。


剛15歳、晶11歳。

「・・・剛兄さん」

何かの弾みで手が触れたりすると、顔を真っ赤に染めて照れていた。


剛16歳、晶12歳。

「剛兄さん・・・」

少し離れたところから、こっそりと見つめてくるようになった。


剛17歳、晶13歳。

「剛、兄さん・・・」

声をかけるのにも恥ずかしがっていた。


剛18歳、晶14歳。

「・・・・・・剛・・・兄さん・・・」

彼が海外の大学に入学すると知って、悲しみに落ち込んでいた。




そして4年後、剛は海外の大学を卒業し、日本に帰ってきた。




剛22歳、晶18歳。

「・・・んだよ、ゴルァ!」

グレていた。



537 :『きれいなあきらたん』:2008/05/26(月) 00:40:49 ID:G3OB8H2n



「よぉ、久しぶり・・・・・・」

剛は、帰国後いそいで許嫁である晶の元へ向かった。
岡山の山間部、すでに里だか山だか分からない、斜めに傾いた土地の上に立っている家だった。
彼が数年ぶりに彼女の家を訪れると、その玄関で出迎えたのは当の許嫁、晶である。
4年前、黒くて真っ直ぐだった髪は金色にウェーブして、清楚な少女らしいファッションは少し派手目のコギャルルックに。
穏和で明るかった表情は、今では激しい怒気に染め上げられている。

「テメェ・・・今頃、どのツラ下げてここに来やがった?!」

それでも、顔形や声など、この女が晶であることを確かに判別できる材料は残っている。


それに、剛は晶が好きなのだ。
好きな女を見間違うわけはない。


「いや、俺が入った大学ってさ、入学したら即シェルターに監禁されて、外界から遮断されちまうんだ」

剛はとりあえず、この4年、彼女に会いに来なかった理由を述べた。平たく言えば、いいわけである。

「手紙、なんで返事くれなかったァ!?」

火を吐くような声で、晶が言った。

「在学中の手紙は一切届かず、卒業後にまとめて渡されたんだよっ!!」

同じく剛も、火を吐くような声で答えた。
しかし同じ火炎でも、晶の火炎は一兆度の温度を誇るプラズマ火球、対して剛の火炎はせいぜいハバネロ食べて思わず吹き出した程度の炎である。
質が違う。

剛が押され気味に言い訳をしていると晶は、じわり、と瞳を潤ませ、そして玄関にいる彼を突き飛ばして駆けだした。

「もうオマエの顔なんか見たくねーっ!! でてってくれーーーっ!!」

晶はそう叫んで、山に向かって走り出す。
剛もそれを追って走り出した。

おそらく彼女の行き先は、山の中腹にある小さな池の畔。
幼い頃、二人がよく遊んだ、思い出の場所。




538 :『きれいなあきらたん』:2008/05/26(月) 00:43:29 ID:G3OB8H2n



はたして晶はその通り、その池にいた。
剛も少し遅れてそこに辿り着く。

「なぁ、晶、手紙返せなかったのは悪かったよ。ゴメン、謝る。だから、機嫌直してもらえないか?」

「うるせえっ! もう何も、言い訳なんか聞きたくないよっ!」

近寄る剛に押されるように、晶が僅かに後退り、池に近づいていた。
彼女が立っているのは池の畔、水面から少しだけ高く崖のように切り立った場所である。

そして、じりじりとあと数センチ、踵が崖の縁に近づいたとき、めり、と足場のひび割れる音がした。

「きゃあっ!!!」

どぼーーーーん!!

「あきらッ!!」

彼女の足場が崩れ、滑り落ちるように池に落ちた。
剛は慌てて、彼女を救うべく自らも池に飛び込もうとしたのだが。


ざばあああああああああああああああん!!!!!


唐突に、水面が高く隆起し、剛が飛び込もうとするのを遮った。
そしてその大量の水はざばざばと、まるで命ある存在のように形を変えていく。

『オンナヲ、イケニオトシタノハ、キサマカ・・・』

その池の水は、まるで巨大な人間の姿のように形を変え、さらに人間の声まで出して話しかけてきた。


これが、この池に住む『池の主』か!

剛は昔、晶の両親から聞いたことがある。
この池には、池の守り神である存在『池の主』が住んでいると。

『オンナヲオトシタノハ、キサマカ!』



読者諸君、忘れてはならない。
この奇譚、始めにうたったとおり、脳天気なファンタジィであると。




539 :『きれいなあきらたん』:2008/05/26(月) 00:46:47 ID:G3OB8H2n

剛はようやく、池の主の問いかけに、そうだ、と強く叫んで答えた。

『ナラバ、キサマガオトシタノハ、コノ{ 素直じゃない晶 }カ?』

巨人の右の掌から、ざばぁと水を弾いて現れたのが、先程誤って池に落ちた、金髪の晶である。
そして続いて、左手の掌から、もう一人の女の子が現れた。

『ソレトモ、コノ、{ 素直な晶 }ノホウカ?』

年の頃は先の晶と同じだが、髪は黒くスレた雰囲気もしない、清楚な女に育った晶である。

水の巨人は、二人の晶を手に持って、そのどちらかを剛に尋ねてきたのだ。

「オマエなんてもう、キライだーーーッ!!」
「剛兄さん!! あいたかった、ずっとあいたかったのっ!」

素直じゃない晶と、素直な晶。
金と黒、二人の晶は口々に、剛に向かってそう叫ぶ。

『サァ、キサマガオトシタノハ、ドチラノオンナダ?』



諸君、我々はこの話を知っている。
過去、幾度と聞いたおとぎ話、その度に我々は、同じ事を考えたはずだ。




巨人に聞かれ、剛は迷うことなく、答えの意志を決めた。
その答えは、読者諸君、君らとまるで同じはずだ。



というわけで、どうぞ、ごいっしょに。

さん、はい、



「どっちの晶も、俺の女だ!!」





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