フィリピンでは、ギャンブルが盛んだ。米国ラスベガスにあるようなカジノから、数字を当てる「フエテン」と呼ばれる庶民的ギャンブルまで多種多様だ。合法と違法を合わせた年間売り上げは700億ペソ(約1260億円)を超えるとみられ、国軍の年間予算を大きく上回る。このうち半分を占めると推定される違法ギャンブルには政治家や警察も絡んでいるとみられ、摘発は政争の具になっている。【マニラ矢野純一】
首都マニラから北に車で約2時間。ブラカン州にある薄汚いビルの2階に合法ギャンブル「フエテン」の抽選会場があった。大統領府傘下の慈善宝くじ協会が、全国各地でフランチャイズ方式で運営している。
フエテンは1~37の数字(40までの場合も)が書かれたピンポン球のうち、胴元が無作為で取り出す2個の数字を当てる単純なギャンブルだ。抽選前に販売人に手渡したチケットに書き込んだ予想が当たれば、賭け金の最大800倍の配当がもらえる。最低1ペソ(約1・8円)から賭けることができるので、一獲千金を狙って入れ込む庶民も多い。
フエテンを運営するポロシャツ姿の男(63)に案内され、抽選を見学した。協会から派遣された立会人が、大きな透明な容器に、番号を付けた37個のピンポン球を入れる。空気を送り込んで球をかき回し、上部の口から2個をはき出させる。これが当選番号だ。
1日の抽選回数は地域ごとに決められており、ここでは3回。実際はこれ以上の回数を協会に申告しないで違法に抽選を行う。この未申告分が、同じ「フエテン」ながら違法となる。その売り上げは「合法」の何倍にも上るとされ、全て運営者の懐に入る。
男は「規則に従って運営している。違法行為はない」と言って苦笑した。立会人も「全て公正、透明に行われている」と話す。
合法フエテンの月の売り上げは平均約5000万円。このうち半分は税金の支払いのほか、協会や自治体に「上納」する。残り半分は配当金とスタッフの給与に回すという。「胴元」の男の取り分は宝くじ協会の規定で売り上げの5%と定められているという。
だが、違法ギャンブルの全国調査を行っている「カトリック司教協議会」のクルス司教は「フランチャイズの胴元こそが、違法なフエテンの元締めでもある」と断言する。
この運営者の男に、違法なフエテンについて何度も尋ねると「末端のチケット販売員が、勝手にやっていることはあるかもしれない」と話した。
毎日新聞 2011年10月10日 東京朝刊