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国際
【あめりかノート】ワシントン駐在編集特別委員・古森義久
■健全になった憲法9条論議
米国の学者らが日本の憲法を論じるのを聞いた。9月下旬、ワシントンの「ウッドローウィルソン国際学術センター」での「65年目の日本の“平和”憲法=変化の時か」という題のセミナーだった。
パネリストは4人の日本研究者だった。最初は日本の安全保障問題が専門のトーマス・バーガー・ボストン大准教授で、日本での憲法論議の変遷を詳しく解説した。改憲への反対が多かった時代から日本の安保環境や内政の変容で賛成が増えてきた経緯を説明し、予測をも開陳した。
「日米同盟の国際性や日本領土防衛の重要性への国民の認識を考えると、そう遠くない時期の改憲も可能でしょう」
2番目のクリス・ヒューズ英ウォーリック大教授は日本が自国周辺の防衛や国際安保活動への参加に憲法の解釈の変更と拡大とで対処してきた歴史を詳述した。その手法は限度に達したと述べながらも、改憲は難しいと予測した。
「ほぼ唯一の改憲シナリオは北朝鮮の攻撃のような外部からの衝撃でしょう」
次に、米国ウォッシュバーン大学のクレグ・マーティン准教授は法律家の立場から、憲法9条の「戦力の不保持」と「交戦権の禁止」は世界の異端だとする一方、日本は古代ギリシャの猛将ユリシーズが柱に縛られた状態だとも評した。そして明らかに改憲反対の立場を表明した。
「憲法9条は日本の国家アイデンティティーだといえます」
最後のサビーネ・フリューストック・カリフォルニア大教授はオーストリア人の女性だが、もっと過激だった。日本の改憲への動きはそもそも米国の圧力の結果にすぎないと断言する。米軍の日本駐留にも反対、自衛隊の主要任務も軍事ではなく自然災害への対処を優先させよ、と主張し、日本国民に提言した。
「日本や世界の平和という観点からは憲法9条に手を触れることは日本国民の利益に反します」
さて、こうした発言の後の質疑応答で韓国育ちだという大学院生風の女性から質問が出た。
「日本は憲法9条をなくすと、また軍国主義に戻るという懸念が韓国にはありますが」
すると、マーティン准教授が待っていたかのように応じた。
「米国は日本に改憲で集団的自衛権を行使できるように求めると、やがて後悔するかもしれない。悪魔がいったんビンから出ると、もう元に戻らないという例えがあります」
フリューストック教授も発言した。「日本に歴史教科書や戦争責任忌避の欠陥がある以上、確かに第9条に触ることには問題があります」
ところが会場から反論が出た。
「全世界の主権国家がみな保有している権利を日本だけには許してはならないというのは日本を国際社会のモンスターとみなすわけですね」
スタンフォード大学の研究員などを務めた日本外交研究学者のベン・セルフ氏だった。同氏は、日本だけにはいかなる軍事力行使も認めるなという主張は、日本国民を先天的に危険な民族と暗に断じ、永遠に信頼しないとする偏見であり、差別だと堂々と論じるのだった。憲法9条を絶対に変えるなという外部からの主張は「危険なイヌはいつまでも鎖でつないでおけ」というに等しい日本隔離だともいう。米国での日本憲法論議も多様で健全になったと感じさせられた。
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