精神病棟計画埋まらぬ溝 滋賀県、説明会で安全強調
重大事件を起こしたが、心神喪失や心神耗弱のため刑事責任を問えない精神障害者を治療する入院施設が、草津市笠山8丁目の県立精神医療センター敷地内に建設される予定だ。これに対し、近隣の住民から「一方的な話で納得できない」という声が上がっている。県は説明会に出向き、安全性を強調するが、住民は不信感を募らせる。当事者となる精神障害者の姿は見えないまま、溝は埋まらない。
■周辺住民、不安と不信
「多くの人が住む地域に、なぜ施設をつくるのか」。10月2日、建設予定地から約1キロの青山市民センター(大津市)で開かれた2回目の住民説明会には、約150人が集まった。草津市内からの参加もあった。「精神障害者の社会復帰のため必要」と理解を求めた岡江晃・県病院事業庁理事ら県側に対し、住民からは「安全だという説明は虚偽だらけ」という声が出るなど、やりとりは平行線をたどった。
入院施設は昨年9月、県が建設方針を決定。2005年に施行された医療観察法に基づき、23床を備えた病棟を13年春に開設予定だ。建設費の13億円は全額、国が負担する。
病棟の特徴は、厳重な警備体制と手厚いスタッフだ。玄関は二重扉で、病棟のある2階と1階の間も施錠、窓は強化ガラスで、高さ3メートル以上の柵を巡らす。「患者が無断で離院する恐れはない」と若林剛・病棟開設準備室参事は話す。
県が今年7月末から、建設予定地の南笠東学区(草津市)を最初に、同市と大津市の計8学区で自治会長や自治会役員を対象に行った説明会では、反対はなかった。住民からも「説明会を開いて」という要請があり、9月11日に青山学区で1回目の説明会を実施したところ、約300人が参加した。自治会への説明会では、最も参加者が多かった南笠東学区でその数は約20人だった。「住民の知らないところで決められている」と主催した男性の一人は言う。施設建設の反対を訴え、先月から始めた署名も2300筆を集めた。
医療観察法では、鑑定医による精神鑑定を基に、裁判官が入院を決定する。精神鑑定の専門家によると、対象となるのは被害妄想に影響を受けたり、無理心中を図った結果、子供が死亡したりしたケースなどで「治療で改善が見込める」場合に限られるという。また、これまでの判例では、改善の見込みがないとされる人格障害者などは刑事責任を問われており、入院対象者は「『危険な人』というイメージとはほど遠い」と指摘する。
とはいえ、医療観察法が2001年、8人の児童が死亡した大阪教育大付属池田小事件をきっかけに制定された経緯があり、住民の間では「怖い」というイメージが強い。県は「不安を解消するため」として説明会を開いているが、住民の不安を拭い去れていない。
年明けから始まる予定の工事は、今のところ変更の予定はない。住民説明会に参加した男性は「対話の県政と言いながら、建設を強行するのはおかしい。納得いく説明があるまでは、とうてい認められない」と話していた。
【 2011年10月10日 16時24分 】
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