核酸の分子構造 我々はデオキシリボ核酸(D.N.A.)の塩の構造について提案をしたいと思う。この構造はかなり生物学的に興味のある奇抜な構造を持っている。核酸の構造については、すでにPaulingとCoreyによって提案されている。彼らは原稿を発表する前に我々に見せてくれるように取りはからってくれた。彼らのモデルは、繊維の軸の近くにリン酸があって外側に塩基がある3本の鎖の織り合ったものである。我々の意見では、この構造は2つの理由から満足すべきものではない:(1)我々はX線写真によって見られる物質は自由な酸ではなくて塩であると信じる。特に負に荷電した軸近くのリン酸がお互いに反発し合うであろうから、酸性水素原子無くしては何がその構造を支えているかが不明確である。(2)ファンデルワールス距離のいくつかの値が小さすぎる。Fraserによって他の3本鎖構造も報道機関を通して発表されている。彼のモデルではリン酸は外側にあり、塩基は内側でお互いに水素結合でくっつきあっている。前述したこの構造はどちらかというと明確でなく、だから我々はそれについてコメントを控える。我々はデオキシリボ核酸の塩について劇的に異なった構造を示したい。この構造は図に見られるように2本の螺旋状の鎖がそれぞれ同じ軸に対して巻き付いている。我々はふつうに化学的な仮定をすると、すなわち、それぞれの鎖がβ-D-デオキシリボフラノース残基が3'5'結合でくっついたリン酸ジエステルグループを含んでいる。2本の塩基ではなく鎖が一対の繊維の軸に垂直なものによってくっついている。それぞれの鎖は右巻き螺旋であるが、対であるので2本の鎖の中で原子の配列は反対方向に並んでいる。それぞれの鎖はFurbergのモデル1におおざっぱに似ている;塩基が螺旋の内側にありリン酸が外側にあるという点において。糖とその近くの原子の相対的配置はFurbergの'基本配置'に近く、糖がくっついている塩基に対してだいたい垂直になっている。z方向に関して毎3,4Åごとにそれぞれの鎖に残基がある。我々は同じ鎖の隣り合った残基間が36゜の角度であると仮定をし、それによりこの構造はそれぞれの鎖で10残基、34Åごとに繰り返されている。繊維軸からのリン原子の距離は10Åである。リン酸が外側にあるので、陽イオンは簡単にリン酸に近づくことが出来る。この構造は開いているものであり、含水量はどちらかというと高い。少ない含水量では塩基が傾いて構造はよりまとまったものになるであろう。この構造の奇抜な特徴とは2本の鎖がプリン塩基とピリミジン塩基によってつなぎ合わさっているという様式だということである。塩基の面は繊維の軸に対して垂直である。それらは一つの鎖の一つの塩基が他の鎖にある一つの塩基と水素結合で対を作ってくっついていて、そしてそのふたつは並んで同じz縦座標に横たわっている。接合が起こるためには対の一つはプリン塩基でもう一つはプリミジン塩基である必要がある。水素結合は次のように起こる;プリンの1位置とピリミジンの1位置;プリンの6位置とピリミジンの6位置。もし塩基が最もそれらしく思われる互変異性体をとる事を仮定するのなら(エノール配置よりはケト配置である)、特定の塩基の対のみがくっつき合うことが出来ることが分かる。これらの対は;アデニン(プリン)とチミン(プリミジン)、そしてグアニン(プリン)とシトシン(ピリミジン)である。言い方を変えれば、アデニンがどちらの鎖からでも対の片方となるのなら、これらの仮定に基づけばもう一方のほうはチミンでなければならない;同様にグアニンに対してはシトシンである。一つの鎖における塩基の配列はどの様にしても制限されることはない。しかしながら、もし特定の塩基対のみが形成されるのならば、一つの鎖の塩基配列が示されたならもう一方の鎖の配列は自動的に決定されることになる。アデニンとチミンの総量の比率とグアニンとシトシンの総量の比率は、一対のデオキシリボ核酸において常にとても近い値であると実験的に確認されている。この構造をデオキシリボースの代わりにリボースを使って作ることは不可能であろうと思われる、なぜなら余分な酸素原子のせいでファンデルワールス距離が近すぎるようになるから。デオキシリボ核酸についてすでに発表されたX線データは我々の構造に対する厳格な証明としては不十分なものである。だから我々が言える限りでは、それは実験データと大体において矛盾が無いが、しかしもっと確かな結果に対して検査されなければ証明されていないものであると考えなければならない。これらのいくつかは続いて書いてあることで与えられる。我々はこの構造を考えついた時に出ている結果の細部にわたっては、主に発表されている実験データや立体科学論については完全には、検討しなかった。我々が仮定した特定の塩基対がすなわち遺伝物質に対する可能な複製機構を提示していると言うことは我々の注意から逃れ得なかった。この構造をどうやって作るかという状況や縦座標を共有する原子群のセットを含む構造の完全な詳細は、どこか他の機会に発表されるであろう。我々は特に原子間の距離についてDr. Jerry Donohueに色々な忠告や批評をいただいたことを感謝する。また我々は一般自然学におけるLondonのKings大学のDr. M. H. F. Wilkins、Dr. R. E. Franklinそれに彼らの共同研究者達の未発表な実験データや考えに刺激されている。我々の一人(J. D. W.)はNational Foundation for Infantile Paralysisからの人々に助けを得ている。
 

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