2011年10月10日03時00分
国家公務員給与の大幅削減に踏み切るか、微減にとどめるか。野田政権が対応を迫られている。前政権時代に国会提出された年収を平均7.8%引き下げる特例法案が与野党対立で成立しないままとなる一方、人事院は現行制度に基づき0.23%下げる勧告を出した。給与や勤務条件を労使交渉で決める「協約締結権」を公務員に回復させるかどうかもからむだけに、調整は容易ではない。
「8%程度減額する給与改定法案を提出している。成立に万全を期したい」。野田佳彦首相は5日の衆院復興特別委員会で、政権の対応を問われて答えた。人事院勧告については「関係閣僚によって協議している最中だ」と明言を避けた。
政権は4日、藤村修官房長官や川端達夫総務相、安住淳財務相、蓮舫行政刷新相らで国家公務員給与に関する関係閣僚会議を設置。特例法案の成立をめざすことを軸に調整を始めた。
政権が特例法案にこだわることには訳がある。平均7.8%の引き下げが実現できれば、年間約2900億円の「財源」が捻出できる。年齢、役職などによって個々の削減率は異なるものの、人事院勧告の0.23%では約120億円。東日本大震災の復興財源としてできるだけ歳出削減や税外収入の上積みを図りたい政権として、この金額の違いは無視できない。
ただ、法案成立のめどは立っていない。菅政権は6月、特例法案を国会提出した際、民主党最大の支持団体である連合に対して「人事院や人事院勧告を廃止し、公務員に協約締結権を回復させる」という内容の国家公務員制度改革関連法案の同時成立を約束した。しかし、自民党が「公務員への争議権付与につながりかねず、危険な内容だ」(参院幹部)と反発していることもあり、審議入りすらできていない。
その一方、人事院は9月末、民間企業の調査をもとに0.23%の勧告を内閣に提出。江利川毅総裁は勧告前に首相と面会し、「勧告を尊重しないと憲法違反になります」と訴えた。
この動きに対し、連合は「勧告は無視してもらわないといけない」(古賀伸明会長)と主張。前政権時代の約束履行を訴えている。
政権の選択肢は限られている。(1)人事院勧告を無視し、あくまで特例法案の成立をめざす(2)勧告を実施した上で、特例法案の成立もめざす(3)勧告だけを実施する(4)勧告内容を取り込んだ特例法案を出し直す――といったものだ。
今年度の給与を確定するには11月末までの給与法改正が必要で、政権は月内にも方針を決定する。政権内では苦肉の策として、10月下旬にも召集される次の臨時国会では特例法案だけの成立を図り、公務員制度改革関連法案は来年の通常国会に先送りする案が浮上。野党の軟化を促す手法で、「両法案を切り離して特例法案成立の合意ができればいい」(自治労出身の民主党議員)と期待する。
ただ、先送りする公務員関連法案の成立を野党も巻き込んでどう担保するのか、同時成立を条件とした連合が先送りを容認するかどうか。政権内では「勧告を無視して特例法案も通らなければ、結局何もしないことになる」(官邸スタッフ)との懸念が出ている。(今村尚徳、南彰)