空は黒く濁り大地は荒れ果てている、倒壊したビルに人の気配がない街。
まるで世界の終末のよう、ピンクの髪を二つに結んだ少女はその光景にぎゅっとポケットにしまっていたものを握り締める。
やがて爆発音が聞こえた、鹿目まどかはその方向に目を向ける。黒髪の少女が手にした銃でナニカに立ち向かっていた、それは歯車。
回転している逆さまの女性、顔は見えない。まどかは知らないが彼女こそ最強最悪の魔女、ワルプルギスの夜。たった一人の魔法少女だけで勝てる程、甘くはない。それでも黒髪の少女は銃で撃つ、狙い撃つ。
だがその攻防は終わりを告げた、魔女の反撃。圧倒的な力、吹き飛ばされる少女。まどかは思わず少女に駆け寄ろうとする、助けたい。
足は止まった、目の前に佇む白い小動物によって。何でこんな場所に、その疑問はすぐに氷解する。
《仕方ないよ、彼女だけでは荷が重すぎた》
知っているのだろうか、あの異形と戦う少女の事を。答えはイエス、そして小動物インキュベーターは告げる。運命に抗う力が自分に備わっている、と。
本当に自分にあるのだろうか、そんな力が。小さい頃から土いじりが好きでドリルで穴を掘っていた自分が、思い出す。夕日が暮れた公園で、出会った漢の言葉を。
「そうか、お前も……そのドリルは天を突くドリルなんだよ!」
熱い人だった、背中に羽織ったマント。頭にかけられていた橙色のサングラス、別れ際の言葉は今もまどかの胸に響いている。
――うまくは言えねぇ、けど! これだけは言える、ドリルはお前の魂だッ!
そうだ、最初から答えはそこにあったんだね。まどかはいつも持ち歩いてる小さなコアドリルをポケットから取り出して、頷いた。
「もう、迷わない」
《……だから僕と契約して、へ?》
小動物の声を無視してまどかは駆け出す、熱い気持ちを抱えながら。そんなまどかに呼応するかのように地下から小型のメカが突き破ってきた!
それは顔、額にドリル。まどかはコクピットにジャンプして乗り込む、ドリルを回す!
そして叫ぶ。
「ラガン・インパクトオォォォッ!」
ワルプルギスの夜に、ドリルが突き刺さった。爆発。
「え?」
《え?》
戸惑う黒髪の少女と小動物、当然だ。彼女等にしてみれば、まどかにこんな力があるなんて知らない。幾度繰り返してきた少女さえも、小動物はぽつりと宣う。
《わけがわからないよ……》
意見が合うのは癪だけど、黒髪の少女も今だけはインキュベーターに同意した。
そんな二人を余所にまどかは指を天へ差し、吠えた。
「私が穴掘りまどかよ!」
プロローグ『ドリルはお前の魂だッ!』