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2011年10月5日(水)付

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暴力団の排除―警察こそ前面に立て

公共工事の下請け、孫請けから排除され、組事務所を新たに開くことも事実上できない。組の名前が入った名刺の印刷はお断り。ホテルで宴会を開こうにも、暴力団とわかればキャンセル[記事全文]

TPP参加―丁寧な説明で再起動を

環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に日本も加わるかどうか。米国や豪州など参加9カ国は11月の大枠合意を目指しており、日本にとってもここが判断の節目となりそうだ。私たち[記事全文]

暴力団の排除―警察こそ前面に立て

 公共工事の下請け、孫請けから排除され、組事務所を新たに開くことも事実上できない。

 組の名前が入った名刺の印刷はお断り。ホテルで宴会を開こうにも、暴力団とわかればキャンセルされる。組員は銀行口座を開けず、子どもの給食代も引き落とせない――。

 となれば、ヤクザなんかやってられねぇ、となるだろう。

 社会・経済のあらゆる場から暴力団を締め出し、資金源を断つ。そのため市民や企業に決別を求める。威力を借りたり、活動を助長したりする目的で暴力団に利益を与えた場合は、指導や摘発の対象にする。その態勢が整いつつある。

 東京都と沖縄県で今月、暴力団排除条例が施行され、同様の条例が全国で出そろった。組員とわかれば契約を解除できる条項を設ける動きも広がる。

 この包囲網を、いかに強く丈夫なものにするか。

 「どんなケースが利益供与に当たるか」「暴力団関係者だとどうやって判断するのか」と、戸惑いの声は大きい。警察は実例を示して説明を重ね、恣意(しい)的な運用は戒めるべきだろう。善意の市民を不安にさせるのが目的ではないはずだ。

 他方、様々な利害やしがらみで暴力団と腐れ縁を続けてきた世界もある。そうした人はこれまでの「セーフ」は「アウト」になると覚悟した方がいい。

 ビートたけしさんは、週刊誌で芸能界と暴力団とのつきあいの一端を明かし、「これからは条例を盾に断れるんだから、ありがたい」と語っていた。

 芸能界以上に正念場を迎えるのは、実は警察だ。

 1992年の暴力団対策法の施行以降、「壊滅を」とかけ声を続けてきたにもかかわらず、暴力団の勢力は衰えていない。関係者と接触して情報をとる捜査手法も難しくなった。

 取り締まりがどうにも行き詰まる中、市民社会の側に責任を課した面がある。だが、暴力団対策の最前線に立つのは、やはり警察をおいてない。

 関係を絶とうとする市民を、脅しから守り抜く。福岡県では暴力団排除を進めてきた企業などを狙った発砲事件の犯人が、捕まらないままだ。事件解決にも全力を注がねばならない。どうせ警察は何もしてくれないと不信がぬぐえぬようでは、この作戦は失敗に終わる。

 追いつめられた暴力団が、闇に潜る恐れもある。居場所がなくなる者たちの受け皿をどうするかも、今後の課題だ。そうした動向を見すえつつ、対策を強めてゆかねばなるまい。

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TPP参加―丁寧な説明で再起動を

 環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に日本も加わるかどうか。米国や豪州など参加9カ国は11月の大枠合意を目指しており、日本にとってもここが判断の節目となりそうだ。

 私たちは、まず交渉に参加するよう主張してきた。TPPは成長著しいアジア太平洋地域の自由化の土台となる可能性がある。日本が不利にならないためには、ルール作りからかかわった方が得策だ。交渉に加わり、国益に沿わないと判断すれば協定締結を見送ればよい。

 政府は「6月に参加の是非を決める」としてきたが、東日本大震災もあって遅れている。その間、TPPについて様々な懸念が広がった。検討作業を軌道に乗せるには、今の交渉状況について政府が情報を整理・発信し、冷静に議論できる環境を整えることが第一歩となる。

 最大の課題は、コメなど高関税品目を抱える農業分野だ。

 TPPは「例外なき自由化」が原則だが、実際の交渉では各国とも関連業界の反発から、建前と本音がある。交渉の中心にいる米国は豪州との自由貿易協定(FTA)で砂糖などを対象から外しており、関税撤廃の原則である「10年以内」を超える段階的自由化にとどめた品目も目立つ。TPPでも同様の方針で臨んでいる。

 日本の農業関係者は「TPPに参加すると、すべての品目でただちに関税が撤廃されかねない」と危うさを訴えるが、正確さを欠く。大規模化など農業の強化策を早急にまとめ、交渉でそのための時間と条件を確保する。そんな戦略性を持ちたい。

 関税以外にも様々な懸念が聞かれる。「単純労働者が大量に入ってくる」「医療制度の抜本改革を強いられる」「環境保護が犠牲になる」「安全基準が緩い食品の輸入を迫られる」といった具合だ。社会的規制と呼ばれ、経済活性化が狙いの規制緩和論議とは異なる視点が求められる分野である。

 日本政府の通商担当者は、集めた情報をもとに「懸念の多くはTPP交渉でテーマになっていない」と反論する。その点でも、交渉状況や政府の考え方を丁寧に説明するべきだ。

 円高が定着し、空洞化への懸念が一層強まっている。TPPには、関税交渉以外にも貿易手続きの簡素化など日本からの輸出促進につながる項目が少なくない。

 「農業対製造業」という単純な対立の図式を乗り越え、産業全体の活性化にTPPを活用する道を探らなければならない。それが野田政権の使命である。

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