2011-09-26 16:22:26

精神科特例

テーマ:精神医療の荒廃

 精神科街角クリニックにおける薬漬け治療の蔓延の元凶は何なのかといつも考える。

 そして、最近、織田淳太郎氏の『精神医療に葬られた人びと』(光文社新書)を読んでいて、ふと思った。

 その中で語られている「精神科特例」について。

 街角クリニックといえども、2001年まで適用されていた精神科病院におけるこの「精神科特例」を無視して考えることはできないのではないだろうか、と。



「精神科特例」(昭和33年から平成13年まで、43年にもわたって継続されてきた)とは、端的に言ってしまえば、精神科における医者の数は他科の3分の1、看護師の数は3分の2でよい」とする法律である。

 数でいえば、最低、患者48人に対して医師1人、患者6人に対して看護師1人、ということになる。

 少ない人員で病院経営をしてもかまわない、その代わり、ということで国が打ち出した交換条件が、精神医療に対する診療報酬を低く抑える、というものだった。

 少ないスタッフで、より安く、「医療」を行う。ということは、数をこなさなければならないということで、つまり、精神科病院というところは、「薄利多売」を運命づけられているといってもいいのである。



2001年の改正医療法によって「精神科特例」は廃止され、多少の是正がなされたとはいうものの、是正対象の多くは公的病院に限られ、日本の精神科病院の多くが「私立」であることを考えれば、現状はそう変わってはいない。

(ちなみに、大学病院や総合病院などの精神科においては、他科と同等になった。すなわち、医師数48:1だったものが、16:1に、看護師数6:1が3:1に是正されたが、一般の精神科病院においては、医師数は従来通り48:1看護師数が6:1が4:1に変更になっただけである。)


精神医療の真実  聞かせてください、あなたの体験 

上の写真は、以前、このブログに登場してくれた女性が、ある精神科病院に入院したときのものだ。

こちらに背中を向けている髪の長い女性がそうである。

閉鎖病棟で、窓の外には鉄格子が見える。部屋は畳敷きで、隅に布団がたたまれていて、患者は雑魚寝をするのである。

彼女が入っていたのは6畳の部屋に患者が3人。場合によっては4人が押し込まれることもあったという。(4畳半に2人という部屋もあったそうだ。)


畳部屋? まずそれが最初に感じた驚きだった。これが入院生活か?

他科における入院といかにかけ離れていることか。


現在、日本の精神病床数は約35万床(すべての病床の21.7%を占める)と言われているが、こうした雑魚寝状態なら、いくらでも増やすことはできるだろう。

そして、彼女が入院していた1ヶ月のあいだ、医師が病室(というのもおこがましい)に回診にくることは一度もなかったという。

「精神科特例」による、医療の貧困、格差が如実にあらわれているといえるだろう。

この状態を目の当たりにすれば、そこが「治療の場」であると感じる人はほとんどいないに違いない。



要するに、「精神科特例」をつくった厚生省(当時)、国みずからが、こうした差別状況を作り出し、それを黙認してきたということだ。

国が率先して、精神障害者の待遇を「これくらいでよし」とし、「私立精神科病院」の経営をやりやすくさせ、代わりに診療報酬を低く定めて、病院側を「薄利多売」に走らせた。結果、「治療目的とは言えない」社会的入院が増加せざるを得ない状況を作ってきた。


日本の精神医療は「治療」ではなく「隔離・収容」の道を歩いてきたといってもいい


「隔離・収容」が主であるから、この国の精神医療というもののとらえ方には、「医療」という概念が抜け落ちているのである。「精神科特例」などという法律を作ること自体、国はそもそもからして、精神医療を「医療」としてとらえていないということだ。


 精神医療を「医療」ととらえてないとすれば、街角クリニックで行われる「治療」もまた「医療」から遠ざかるのは当然と言えば当然だ。

 精神科特例のもと運営されている病院において研修を積み、「隔離・収容」的思想の蔓延するなかで精神科医として多くのものを学んだ医師たちが、ひとり立ちをしたからといって、習ったことと違う「医療」を施すようになるとはやはり思えない(もちろん例外はいつの場合もあるが)。


精神疾患を抱える者たちは、精神科を受診した時点ですでに「医療」という物差しではない、別の何かで測られ、処遇される「運命」を背負わざるを得ない。

極論を言えば、国が精神医療を「医療」と見なしていないのである。

そのことの意味は非常に重い。

と同時に、それを許してしまう、許さざるを得ないような状況も確かにあるのが精神医療という分野なのかもしれない(が、これはまた別のところで考えようと思う)。


政府は今年7月、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病の4大疾病に、新たに精神疾患を加えて「5大疾病」とする方針を決めたが、このように「医療」として貧困で、他科との「格差」を内包する精神医療の現状で、いったいどう対処していこうというのだろう。

情報をお待ちしています。

kakosan3@gmail.com




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コメント

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1 ■酷いですよね。

精神科入院=鉄格子、隔離とは酷いですよね。とはいえ、私の通院先病院も5年前に新築するまで同じだったという話を聞きました。
しかも、1度も診察にこないなんて医療と言えるんでしょうか?

ちなみに、私の通院先病院も病院は新しくなりました。私が入院した時もベットや設備は素敵でした。ただ、担当医は、「忙しいから」という理由で
何時間も(2時からの診察というのに6時に来ることも平気でした。)待たされ、なおかつ
「お通じは?お食事は?睡眠は?」と医師から
尋ねられ、「はい。」というと診察終わり。(呆)
病状の説明もあったもんじゃないというのを
みんな平気で甘んじてましたから、どうかしてますよね。
しかも、病院は「病についての勉強会」とか
するのではなく、ご飯食べで、カラオケして
ぼーとしているだけ。^^;
健常者でも精神的に病みそうな環境です。
私の通院先の病院だけが、そうではなく
入院仲間に情報をしいれてもネットでみても
どこもあまり変わりがないようです。^^;


がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病の4大疾病と
同じように心を病んでいるとするなら
それなりに、病院の方針を考えるべきだと
思います。

2 ■思い出したこと

不勉強で、精神科特例がなくなったとは知りませんでした。この記事によると、私が入院した時はもう精神科特例はなくなっていたことになります。
でも、それにしてはひどかったなあ。

閉鎖病棟で急性期の人が多かったけど、常に看護師さんの数は足りてなかったような・・・。
夜は、看護師さんは交代で仮眠を取るので、眠剤を配る以外の時間は、ナースステーションが無人が当たり前でした。
仮眠してるか、巡室しているか、どちらかだったのかな。
ナースコールなんてないから、ナースステーションが無人はホントに困りました。
インターホンでもあればいいけどないから、ナースステーションのドアとか窓を力任せにノックして、奥のスペースで仮眠や休憩している看護師さんに気づいてもらうしかない。
「ドンドン」やってると自分が人間じゃなくなるみたいでした。情けなかった・・・

私が入院した病院の病室は畳敷きではなかったけど、本来6人部屋なのに8人部屋にされていたから、ベッドに寝た状態で思い切り手を伸ばしたら隣りの人と手がつなげるくらい狭かったです。

昼間ですら看護者の人手が足りないから、患者がお互いに助けていました。
病気のせいで配膳が待てない人がいて、そのままにしてると看護師さんが「人のを取った」と怒るから、そうならないように話しかけたりしてその人の気をそらして、その人が怒られないようにしてました。
だって、そんな理不尽な怒られ方、聞いてるだけでこっちまで辛いからです。

3 ■Re:酷いですよね。

>SACHIKOさん
 当事者の方がよく言うのは、精神的な病気になったことより、精神科病院に入院したこと、そのこと自体が深い心の傷になったということです。
 つまり、人間として、どう扱われるか、その扱われ方に問題があるということですね。
 医療どころか、あらたな病気を作り出してしまっていますね。 

4 ■Re:思い出したこと

>ほーむさん
 コメント、ありがとうございます。
 精神科特例が廃止になったあとも、相変わらずの病院はやはり多いようですね。

 患者が患者の面倒を見る・・・私がかかわり続けているハンセン病の療養所でも、かつては、同じようなことが行われていました。

5 ■無題

こういう事で金儲けしている人にすごく疑問を持ちます。
被害者の話で本を作って儲けて、被害者は助けないんですか?こういう形の人だけじゃなくて、精神病院の中で苦しんでいる人たちも居ます。

笠氏の事を入れたのも自分です。冷やかしではありません。私は精神病院から逃げて20年暮らしてきてますが、人格に問題のある親の事で困ったままの状態です。
私以外にも某巨大掲示板のスレでは親から逃げてる人たちのスレもあります。
言うと被害妄想にされそうで怖くて相談にも行けませんでした。
基本的人権に関する事なので、もっと国や行政が助けなければいけないと思います。
本当は一般の人にも道義的責任はあるはずです。国や行政に働きかけるという方向で助けてもらえますか?

今、親に居場所がわかったら、親から嫌がらせとも何ともよくわからない事をされ、それについては弁護士が内容証明を書くまでの事にもなったのですが、それをやったのは親以外にも利害がからむ相手が居たのですが、弁護士が相手方についたらそっちと訴訟じゃなくて交渉がしたいと言い出し、それを嫌がるならやめると、おりてしまったという状態です。
詳しくは、自分で作ったサイトに事情が載ってます。
少し前の記事に、不登校児を精神病院に入れなくて良かったという話がコメント欄にありましたが、うちの母親は養護教諭をやってた時不登校の生徒さんを精神病院に入院させていたそうです。私は不登校児ではありません。
親を専門家に診せよう色々な所に相談に行ってました。

まだ、説明の途中ですが、どこかで公開で質問できないでしょうか?

6 ■Re:無題

>なまえさん
コメント、ありがとうございます。
 なまえさんが作ったサイトを、まずは教えていただけませんか?

7 ■うつ病でも閉鎖病棟です

うつ病で入院する場合も、自殺の危険もあるので、閉鎖病棟になることが多いようです。
5大疾病として、精神疾患が追加されるのですね。
うつ病患者が更に多く作られて、薬漬けにされていくのが心配です。薬漬けのあげくに入院治療となり、固定客が増やされていくのかな・・・閉鎖病棟に入院したら薬をのむことは強制的に監視されます。
何か恐怖を感じます。

8 ■Re:うつ病でも閉鎖病棟です

>ふくちゃんさん
コメント、ありがとうございます。
 確かに、うつで街角クリニックを受診して、多剤大量処方の結果、治るどころか状態が悪化して入院を経験された方はとても多いですね。
 入院をすれば多くの病院の場合、人道的とはとても言えないような扱いを受け、状態悪化にとどまらず、心に傷を負うことも多々あります。
 まさに悪循環です。

9 ■無題

はじめまして、 donjinanと申します。
不躾ですが 投稿させていただきます。

5年前、ペグ・イントロンとレべトール(C型肝炎治療薬)の副作用で意識障害を起こし、精神病院へ救急搬送され 2週間意識がなく独居房で抑制されておりました。 その後大部屋へ移りトータルで1ヶ月半入院しておりましたが、退院後も大変な思いをしております。
ここでは書ききれません、 よろしければ私のブログ「現実」を読んでいただければ幸いです。

とんでもない精神科医、医師会、厚労省、どうにかしないと精神疾患で大変な思いをされている方々が危ない現状ではないでしょうか、 是非お読みになってください。

ご無礼お許しください。

10 ■裁判

今回の東洋医ブログは是非皆さん読んでください。
http://touyoui.blog98.fc2.com/blog-entry-65.html

11 ■Re:無題

>donjinanさん
コメント、ありがとうござます。
 「現実」、少し読ませていただきました。
 もうしばらく熟読のお時間をください。
 改めてブログのほうへお邪魔させていただきます。

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