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基準値の根拠を追う:放射性ヨウ素の暫定規制値のケース
2011/04/06 岸本充生
はじめに
福島原発事故のニュース報道などで様々な基準値や目標値が出てくるがその根拠を確かめることは意外と難しい。ぼくにとってその1つが、暫定規制値の値だった。事故を受けて、3月17日に厚生労働省から「放射能汚染された食品の取り扱いについて」と題して、原子力安全委員会により示された「飲食物摂取制限に関する指標」を暫定規制値とするという発表があった。そこで示された放射性ヨウ素の指標値(目標値)である甲状腺等価線量50mSv/年と、放射性セシウムの指標値(目標値)である実効線量5mSv/年は3月末に食品安全委員会において妥当であると判断された。各食品の暫定規制値はこれらの数値をもとに設定されたということであったが、その導出方法が追えず途方に暮れていたのだが、ようやく判明し、かつ、非常に驚いたので、放射性ヨウ素のケースを例にここにまとめておくことにした。
放射性ヨウ素
放射性ヨウ素の場合、「原子力施設等の防災対策について」の「飲食物摂取制限に関する指標について(リンク先108ページ)」に書かれているとおり、甲状腺等価線量50mSvの2/3が、飲料水、牛乳・乳製品、野菜類(葉物)の3つの食品カテゴリーに均等に配分、つまり、それぞれに2/9(=11mSv)が割り当てられた。1/3を残したのは3カテゴリー以外の食品の摂取が考慮されたからだ。この数字を年間摂取量で割ってBq/Kgに換算すれば暫定規制値が求められるはず…と当初は思っていたが、どうしても計算が合わなかった。ようやく3月末になってteam nakagawaのブログで計算に使ったパラメータを知ることができた。しかし、「時間とともに放射能が次第に減少することを考慮した式を用い」という部分がはっきり書かれていなかったため、計算を再現できなかったのだけど、ケミストの日常ブログでの明快な説明に出会って謎が解けた。と同時に、ぼく自身はもちろん、専門家の説明のほとんどが間違っていることも分かった。その計算式は厚生労働省の「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」の28ページに出てくる次のようなものだ。使用するパラメータは表1のとおり。
甲状腺等価線量=(甲状腺等価線量換算係数mSv/Bq)×(食品の放射線量Bq/kg)×(1日あたり摂取量)×[1-exp{-(物理的崩壊定数)×(摂取期間)}]/(物理的崩壊定数)
表1 計算に用いるパラメータ(team nakagawaブログより)
表2 計算結果(team nakagawaブログと独自計算)
暫定規制値の意味
これらの数字をもとに、暫定規制値は「一番小さい値を超えないように」決められるため、飲料水と牛乳・乳製品については乳児の値(表2の赤い数字)、野菜(菜類)については幼児の値(表2の赤い数字)をもとに、飲料水と牛乳・乳製品で300Bq/Kg、野菜(菜類)で2000Bq/Kg である。飲料水の暫定規制値は、この300Bq/Kg(成人を対象としたものであると説明された)に加えて、WHOが乳児のために設定した暫定規制値100Bq/Kg を追加した。しかし上の説明から分かるように、(成人の値だとされている)300Bq/Kg も実は乳児のパラメータで導出された値だったのだ。
さらに重要なことは、上の計算からも分かるように、食品の暫定規制値は多くの専門家やマスメディアが言っているような「1年間摂取し続けた場合の値」ではなくて、「1回のイベントで汚染された食品をその後摂取し続けた場合」の値なのだ。半減期に応じて汚染がどんどん減り続けることが前提なので、継続的な放射性物質の排出があるような場合には当てはまらない。乳児の暫定規制値の100Bq/Kg を1年間飲み続けたら、甲状腺等価線量135mSv/年になってしまう。これは、暫定規制値の計算が前提としている1回きりのイベントで100Bq/Kgになった場合の甲状腺等価線量である3mSv の44倍になる。逆に、1年間摂取し続けて当初通りの割り当て線量の11.1mSv になる飲料水の放射性ヨウ素線量は 12Bq/kg となる。他の数字も含めて表3にまとめた。下段の数値が、継続的に排出がある場合の許容線量限度(1年間)ということになる。
表3 「現行の暫定規制値」と「1年間摂取し続けた場合の線量限度」
数字の根拠を示す必要性
※ 本稿は4月6日時点での暫定的な結論であり、間違いが含まれている可能性もあることをお断りします。間違いがあれば指摘してほしいし、計算プロセスは再現できるようにすべて示していますので各自で検証してください。