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【著者に聞きたい】宇野常寛さん『リトル・ピープルの時代』

産経新聞 10月2日(日)7時55分配信

 ■普段は評論を読まない人に

 「文学の役目は、世界の構造に対する新しいイメージを提示することだけれど、まったく現実に追いついていないでしょう。いまはポップカルチャーの方が先に行ってしまっている」

 タイトルは、村上春樹の近刊『1Q84』に出てくる言葉からとった。読み方は人それぞれだろうけれど、本書は「リトル・ピープル」を、以下のように評する。

 国家や歴史が、個人の人生においても“大きな物語”を語り得た「ビッグ・ブラザーの時代」は過ぎ去った。貨幣や情報のグローバル・ネットワークが世界をつなげてしまったいま、私たちは新しい想像力を必要としている。そんな状況下で人々が《自らの人生を意味づけようとする欲望》を、村上春樹は「リトル・ピープル」として描いた。

 という具合に、第1章は《国内における市場的評価と海外における文学的評価を併せ持つ稀有(けう)な作家》である村上春樹の達成と挫折(!?)について分析が繰り広げられる。だけど、ふむふむとうなずいていた読者は次の一文でひっくり返るはずだ。

 《ビッグ・ブラザーとはウルトラマンであり、リトル・ピープルとは仮面ライダーである》。しかし、そうしてテレビ番組のヒーローが論じられる第2章こそ著者の真骨頂。ポップカルチャーをモノサシに、現代社会をどう読み解くかについての手がかりが次々に提示される。

 「3、4年前に話をいただいたときから、10年や20年のトレンド時評ではなくて、もっと長いスパンで、これからを占えるものを書きたいと思っていました」。構想は二転三転したが、東日本大震災を経て、やっと考えがまとまった。「自分たちの世界に内在するけれど、世界そのものを内側から壊してしまいかねないもの」というイメージを深く掘り下げる。

 「評論も、表現として強度もあって、読書体験としてわくわくするものでなきゃいけないと思っています。普段は評論を読まない人に、その面白さを伝えたいですね」(幻冬舎・2310円)

 篠原知存

                  ◇

【プロフィル】宇野常寛

 うの・つねひろ 昭和53年、青森県生まれ。カルチャー誌『PLANETS』編集長。文学、アニメ、マンガ、メディアなどを幅広く論じる批評家として活躍。著書に『ゼロ年代の想像力』。

最終更新:10月2日(日)7時55分

産経新聞

 

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