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九州電力と佐賀県知事との不透明な関係が「やらせメール」問題の大きな原因だった――。九電の委託を受けて玄海原発をめぐるテレビ番組などの実態を調べた第三者委員会がそう報告し[記事全文]
これは、まずい。さすがに、野田首相もそう気づいたのだろう。埼玉県朝霞市での国家公務員宿舎の建設を、見直すことを示唆した。週明けに現地を見て、最終的に判断するという。大震[記事全文]
九州電力と佐賀県知事との不透明な関係が「やらせメール」問題の大きな原因だった――。
九電の委託を受けて玄海原発をめぐるテレビ番組などの実態を調べた第三者委員会がそう報告し、関係の透明化を求めた。
テレビ番組は6月末に佐賀県内で放映された。点検中の玄海原発2、3号機の再稼働に向けて、政府が県民に説明する内容だった。九電の幹部は社内や関連会社の社員らへ、この番組あてに運転再開に賛成するメールを送るよう求めていた。
第三者委は、番組の5日前に九電幹部と懇談した古川康知事が「再開容認の立場からもネットを通じて意見を出して欲しい」などと発言したことが決定的な影響を与えたと認定した。
懇談は知事公舎で行われた。知事の住まいであり、だれもが招かれる場所ではない。脱原発派の市民に「賛成派とも反対派とも面会しない」と県庁での応対を断ったのと比べ差がある。
3月11日の大震災後、各地の知事たちはいずれも、原発の再稼働に慎重な姿勢をとった。
古川知事も県議会で、再稼働について「今の段階でいつごろに判断するということを答えるのは大変難しい」と慎重な考えを表していた。
九電側への言葉について知事は「私はやらせメールというものは要請したことがない」と反論している。しかし、一般論を話したとしても、発言を電力会社がどう受け止めるか、重みを考えるべきだった。
それは、原発立地県で電力会社と知事は長い年月にわたり、原子力推進で協力関係にあったためだ。
だが、政府や電力会社が信じ切っていた安全神話は、3月11日の災厄で根底から崩れた。
知事と電力会社との姿勢も、一から変わる必要があった。政治家として原発容認の考えをとるにしても、住民にも電力会社にも同じ態度で説明しなくてはならない。電力会社も住民の声を本気で聴くことが、今後の電力安定供給につながる。
玄海原発プルサーマル計画をめぐる05年の佐賀県主催の討論会でも、九電は県の要請を受けて台本を用意し、社員ら7人に予定の質問をさせていた。
同じような「やらせ」は伊方(愛媛県)、女川(宮城県)、浜岡(静岡県)、泊(北海道)の原発にかかわる催しでも、経産省の担当者から電力会社に指示されて横行していた。
大きな事業の前に住民の声を聴くのは、民主主義の経験から編み出された工夫だ。先に結論ありきは実りをもたらさない。
これは、まずい。さすがに、野田首相もそう気づいたのだろう。埼玉県朝霞市での国家公務員宿舎の建設を、見直すことを示唆した。週明けに現地を見て、最終的に判断するという。
大震災の被災者、原発事故の被害者が住まいの確保に、いまも苦労している。復興のための増税をこれだけ議論しているときに、どうして?
多くの人々がこんな疑問を抱いていた。首相はきっぱりと、建設中止を決めるべきだ。
ことの発端は、おととしの事業仕分けにさかのぼる。格安の国家公務員宿舎について「宿舎が真に必要な公務員に限定し、原則として賃貸とすべきだ」との意見が出た。その結果、新築を凍結して、宿舎のあり方を検討することになった。
そこで財務省は5年間で21万8千戸を18万1千戸に減らす計画をつくった。朝霞などは建てるが、東京都心の幹部用は廃止する内容だ。昨年末、財務相だった野田首相がこれを認めた。
朝霞は13階建て2棟で850戸。75平方メートルの3LDKで、主に単身者用だという。総事業費は105億円にのぼる。自民党政権時代の09年春に工事契約が結ばれており、建設をやめれば違約金が生じるという。
先週の国会で、野田首相は「変更するつもりはない」と答弁した。安住財務相は「周辺の宿舎の売却で差し引き10億から20億円のプラスが生まれる。これを復興財源にあてる」と繰り返した。
これらの答弁に、問題の本質がくっきりと浮かんでいる。それは「官の論理」そのものだ、ということだ。
大震災があっても、「決まったことだから」と何ごともなかったかのように巨費を投じて計画を進める。億単位の違約金を払ってでも建設を取りやめ、残りのお金を復興費用にあてるべきだとは考えない。
その揚げ句、新築と売却の差額の話を持ち出して、復興に貢献していると胸を張る。事業仕分けでの「原則として賃貸に」という指摘など知らん顔だ。
およそ、「民の視点」は、どこにもない。
民主党政権は政治主導を掲げて、極端な官僚排除に走り、混迷を深めた。野田首相がそれを反省し、官僚の力を上手に引き出す路線をめざすのはいい。
だが「官の論理」に安易に乗って、操られていないか。朝霞宿舎はその象徴に見える。
この見直しを単なる公務員宿舎問題にとどめず、政権を覆う「官の論理」を押し返す第一歩にしてほしい。