ちまたの旬な話題から、日本の未来像を問うテーマまで。


放射能という迷信

池田信夫blog
さっきの記事の続き。山本七平の日本人論は彼の宗教論とからんでおり、学問的には疑問もあるが、最近の反原発ヒステリーを分析するには適している。

彼が日本人の特徴として指摘するのは、物神崇拝の傾向である。キリスト教では、神は現実の世界から隔絶した超越的な存在だが、日本では霊魂は物質に「臨在」するとされる。それは生きている人間だけではなく、「御神体」や「三種の神器」のような物体にも宿る。「空気」はこのように物体に臨在する力である。

こうした伝統は現代にも残っており、公害をもたらす「悪い物質」とみなされると、安全基準を無視して徹底的に排除される。ごく少量のダイオキシンを除去するために全国のゴミ焼却炉が1兆円かけて廃棄され、健康被害があるのかどうかもわからないカドミウムを除染するために8000億円も費やされる。その費用対効果は問われない。有害物質は存在の許されないケガレだからである。

彼はあげていないが、放射能はこうした物神崇拝の最たるものだ。プルトニウムもセシウムも毒物ではなく、そこから出る放射線も自然界にあるものだ。問題は大量の放射線を浴びたとき発癌の確率が上がるだけで、福島原発事故で出た程度の放射線では健康に影響はない。

ところが「放射能から子どもを守りたい」と称して、放射能という有害物質があると思い込む母親が「子供の放射能基準をきびしくしろ」という運動を繰り広げている。国の決めている「生涯で100mSv」という暫定基準は、余命の長い子供ほど年間被曝限度は下がるのだから、子供はおのずから強く保護されるのだ。あと70年生きる子供なら、年間限度は1.4mSvで、これは日本全国の自然放射線量の平均だ。「母親の願い」で科学的な安全基準を変えようというのは、呪術的な思考である。

こういうとき「子供」とか「母親」というアイコンが使われるのも、反公害運動の常套手段だ。たしかに子供は細胞分裂が盛んだが、それを修復する機能も強い。だから癌は子供ではほとんど起こらないのだ。こうした感情的な議論は問題を混乱させるだけで、客観的な安全を確保する役には立たない。

山本は、こうした傾向を日本特有の「アニミズム」だとしているが、これはおかしい。物体に付随する「空気」が感情を呼び起こす現象は「スーパーセンス」と呼ばれ、世界各地で迷信の生まれる共通のメカニズムである。受動喫煙よりはるかに小さなリスクに大騒ぎして何十兆円もの除染を求める反原発運動は、科学の名を借りた迷信である。

このような「空気」が生まれるのは日本だけではないが、日本では「空気の支配」によって政府もマスコミも踊らされるのは、山本によれば長く平和が続いたため「合理的な意思決定が余り求められない」からだという。
中東や西欧のような、滅ぼしたり滅ぼされたりが当然の国々、その決断が、常に自らと自らの集団の存在をかけたものとならざるを得ない国々およびそこに住む人々は、「空気の支配」を当然のことのように受け入れていれば、とうてい存立できなかったであろう。(『「空気」の研究』p.79)
キリスト教が偶像崇拝を禁じ、唯一神の支配を絶対化するのは、こうした呪術的な信仰による対立・抗争を防ぐためである。ここでは神以外のすべての価値は相対的なので、現世の問題は論理で解決しなければならない。日本で非論理的な「空気」や迷信が根強く残っているのは、「極東の海に隔てられた別荘」で長い平和を享受してきたせいだとすれば、その呪縛を解くのは容易なことではない。

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