国土交通省が次期臨時国会への提出を目指している「津波防災まちづくり法案」(仮称)の概要が判明した。高台に逃げるのが難しい住民が緊急避難する「津波避難ビル」を建てやすくするために容積率を緩和する特別措置を新たに設ける。甚大な浸水被害が想定される地域を都道府県知事が「津波災害警戒区域」や「津波災害特別警戒区域」に指定できる制度も創設し、安全に避難できない場合は病院などの建築を制限できるようにする。
国交省によると、従来の津波対策は、堤防などのハード整備に主眼が置かれていたが、東日本大震災の大津波で大規模に決壊、崩落したため、堤防だけで津波を防ぐ方針を転換。高台への避難路や津波避難ビルを整備して備える「多重防御」によるまちづくりを進めることにした。
法案では、市町村が津波の被害想定を基にして津波防災まちづくり推進計画を作成。津波避難ビルを建てやすくするため、容積率を緩和して最上階に避難場所や備蓄倉庫を余分に造れるようにする。
また、知事が指定する「津波災害警戒区域」では、市町村が避難路や避難施設を指定するなどして避難体制を強化。さらに重大な被害の恐れがある「津波災害特別警戒区域」に指定されると、津波に耐えられる建物がないなど安全を確保できない場合、病院などの建築制限をかけられる規定も盛り込む。
法案提出と並行して国交省は、津波避難ビルの強度基準を緩める方針だ。現行基準は、想定される津波の3倍の高さの波に襲われた際の水圧に耐えられなければならない。しかし、同省の委託を受けた東京大生産技術研究所が被災3県の建築物を調査した結果、防波堤などの遮蔽(しゃへい)物がない場合、浸水の高さの1・5倍の水圧に耐えられない建物が壊れたとのデータが得られた。同省は基準を引き下げる方向で検討する。
津波避難ビルは昨年3月時点で全国で1790棟が指定されている。地域によってばらつきがあり、国交省の担当者は「基準の緩和で避難ビルを指定しやすくなる」と話している。【樋岡徹也】
毎日新聞 2011年10月2日 5時00分