彼は先刻、といってももうおよそ半日近い以前から、そこに横たわったきり動かない。それはちょうど、うちすてられた屍にも見える。
しかし、彼は生きていた。
そのあかしに、伸ばされた四肢が、かなりな間遠ではあるが、ときどきぴくりと痙攣するように動く。
だが、その他に彼の生きていることをあかしだてる動きはまったくない。ひきしまった筋肉をまとった胸板はわずかな動きさえみせず、長い睫毛をたくわえた瞼はいっこうに開く気配をみせぬ。
その場所には、彼の他に生きている者はいなかった。
頭を欠いているもの、四肢のねじ切れたもの、男とも女ともつかぬ肉の断片になってしまったもの――そうした生まれもつかぬ無残なありさまとなって、つめたく酷薄な金属の床にうちすてられていた。そこは、また、血煙がうすぐらく立ち込め、なんとはなしに、彼らの無念の声、生者をうらやむ怨嗟の声が渦巻いているかのような不気味な様子であった。
そうした死者の声に抗うかのように、彼の身体がよわよわしく震えた。恐るべき死者の声、はいよる常闇の死から逃れようと、その腕がゆるゆると伸ばされた。
しかし、そこで彼の力は尽きてしまった。彼はまた全身を震わせ、がっくりとなり、そのまま動かなくなってしまったのだ。
彼は、傷つき弱りはてたすがたを無防備にさらして、見るも無残な屍と血煙にまみれたまま、緩慢で恐るべき死を迎えようとしているのだった。
もはや彼の運命は定まったかのように見えた。
だが、その刹那――
彼の目前で光がはじけた。
みるみるうちにその場所をまっしろに染め上げ、そして、その光がおさまったときには、そこにはもう、彼の姿を見つけることはできなかった。
そこには、ただ、ものいわぬ屍とその声を代弁するかのような禍々しい血煙とが残されているだけであった。