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[29861] 【実験】IS -white killing- 【一夏改変モノ】
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:d7c0128b
Date: 2011/09/21 19:05
この小説は最近話題のライトノベル・アニメ作品『インフィニット・ストラトス』の二次創作です。

基本的なテーマは


・主人公をもっと強く

・白式やべえマジ可愛い

・別に一夏シスコンじゃなくてもよくね?

・むしろ仲悪くてそのことを千冬姉が気に病んでたら萌えるよね


みたいな感じです。

基本的には原作をぶち壊し気味です。オリ設定やら人格改変やらがちょいちょいあります。

誤字脱字・訂正や批判などもあると思いますが、その辺りは感想などでご指摘いただけると幸いです。

ではどうぞお楽しみください。



小説家になろう様の方でも掲載しています。




[29861] 1.ビギニング
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:d7c0128b
Date: 2011/09/21 19:05




 一回目は、懐かしさを感じた。

 二回目に、違和感を覚えた。

 三回目を、彼は拒絶した。


 自身を守るために、『それ』を、認めなかった。







 世界で一番強い姉が、俺は世界で一番嫌いだ。



 俺は世界が一番好きなのは『白』だ。

 生まれてきた時からずっと好きだった。

 すべてを無に還す原初の色。
 何物にも染まらない清らかな色。



 けれど――例外だってある。



 世界で一番有名な忌々しいIS(クソ人形)。白の名を冠するなどおこがましい、馬鹿姉の愛機。

「なんでここにいる」

 空には大して興味がない。地に足の着いた生き方でいい。


 それなのに俺はこんなところにいる。

「答えろよ」
「……一夏」

 俺の人生にあんたは必要ない。

 俺はあんたなんかとは一切関わらずに生きていくんだ。

 そう決めたのに。

「答えろっつってんだろ!」
「!」



「どうして……どうして俺はIS学園(こんな所)にいるんだ!」








 これは羨望と嫉妬を取り違えた、一人の少年の物語だ。








 Infinite Stratos -white killing-

 第1話:ビギニング








「ちょっとよろしくて?」
「…………あ?」

 織斑一夏が声を出したのは、授業が始まる前にクラス担任である織斑千冬を罵倒して以来だった。
 教室に入ってきた彼女を見るなり、一夏は大声で彼女に暴言を浴びせかけたのだ。


 そのこともあってか、教室内は非常にぎすぎすとした空気が流れていた。元凶である一夏にも多少の責任感はあるらしく、授業中も口を慎んでいる。


 しかし問題事はあちらから勝手に歩いてきた。


「まあ! なんですかその言い草は! このセシリア・オルコットに話しかけられるだけでも」
「口上はいい。要件を話してくれ」

 次の授業はISの空間移動についての講座だった。テキストを読み直すのに忙しいのか、一夏は話しかけてきた女子生徒に見向きもせず応答する。

「な、な、なんですかその態度は……!」
「……なあ、円状制御飛翔(サークル・ロンド)って何だ? 俺こんな言葉知らない」
「はい!? 大分基本的な知識が抜け落ちているのですね……」

 こん、と軽く彼女は咳払いし、


「いいですか、円状制御飛翔(サークル・ロンド)というのは、複数の機体が互いに円軌道を描き――まあわっかになって追いかけっこしてるみたいなものですわ。で、その状態で射撃を行い、それを不定期な加速をすることで回避するのです。そして速度を上げながら、回避と命中の両方に意識を向けることで、射撃と高度なマニュアル機体制御の訓練になるのですわ」
「つまり何? 訓練の一種ってコト?」
「そういうことですわね」


 へーと頷き、一夏は参考書をまためくり始めた。


「じゃあこれは?」
「ああ、それは……」

 と、結局休み時間は全部イギリス代表候補生セシリア・オルコットによる個人授業によって埋められましたとさ。






「……織斑君、先生が入ってきた途端無表情になるのやめようよ。怖いって」

「これはアレだ、自己防衛のため心を閉ざしてるんだ」
「何が君の心を侵食しているんだ……」

 両サイドの女子と一夏の会話より抜粋。





「納得いきませんわ! あんなズブの素人をクラス代表になんて!」

 セシリアはたまらず吼えた。クラス代表を決めるに当たり、クラス内の女子が一夏を代表として推薦したのが原因だ。

 クラスの看板となるわけなのだが、ISを実際に動かした経験はなし。知識も拙い。
 代表どころか落ちこぼれまっしぐらなあんちくしょうを代表になど――言ってること自体は正しいのだが、そこにセシリア独自の価値観・倫理観が混ざってしまっていた。

「こんな極東の猿などにクラス代表を任せるなど恥さらしもいいところですわ!」
「ちなみに極東ってのはあくまで英国から見た位置の話だからな」

「問題ありませんわ。私はイギリス代表候補生ですもの」
「なーるほど。そりゃ丁度イイ」


 で、当の本人はといえば、先ほどの授業のノートを何度も読み直し、復習に余念がなかった。

「……怒るに怒れんな」

「……なんというか、非常に敵対心を削がれる光景ですわね」


 千冬とセシリアの呟きが重なる。

 すると議論が詰まってしまったのか、教室に沈黙が下りた。


「――先生」
「なんだオルコット」

 痺れを切らしたのか、セシリアは椅子から立ち上がると――人差し指を一夏にビシリと突きつけた。

「決闘ですわ!」

 そう言い切る。復習中の一夏ポカン。

「……えっ、オルコットさん? 今なんとおっしゃいましたか?」

「決闘ですわ! 強い方がクラス代表ということにすればよろしいでしょう?」


 それこそズブの素人に頼むコトじゃねえだろ! と思わず反論しかけると。


「――まあ、先ほどまでのあなたを見ている限り、すぐには無理でしょうね。先生、一週間ほど時間をおきましょう」
「うむ、織斑、異論はないな」

「異論しかねえよクソ姉」


 顔を引きつらせながら、一夏は嫌悪感を隠さないまま言葉を続ける。


「実力主義の時点で何かちげーだろ。強けりゃ人の上に立てんのか? 仮に俺がセシリアに勝ったとしても、それは相性とかコンディションとかの問題かもしれない。その後の、クラス代表としての戦いで俺がコンスタントに戦績を弾き出せる確証は? 大体俺はISを動かしたことすら――」


 バシン! と出席簿が一夏の脳天に投擲され、咄嗟の参考書ガードによって弾かれた。

「……教育者のすることかよ」
「では決闘は一週間後、第三アリーナで行う!」
「マジでやんのかよ!?」


 こうして一夏の意見はすべからく無視され、一組のクラス代表決定戦が控えられることとなった。のだが――





「イヤだイヤだ。おうち帰りたい。ブレブレの最新刊読みたい」
「あーボルキュス戦ね。デルフィングの追加装備いかついよ」
「何それkwsk」


 本人のやる気は一向に向上しなかった。













 ――システム異常なし(オールグリーン)。


 ――登録操縦者No.001『織斑一夏』のパイロットデータをインストール。


 ――コア内にバグgtsを確rt認rhd。;pi排除thr開op始……失s敗。バkyuグの増hryj大を確ui認。


 ――異常発生異常発生登録操縦者No.001を確認する度、未確認のノイズが発生。異常発生。異常異常異常異常異常意y増いじゃfはgwhgrthyれhじぇ会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏





 ――プログラムを認証。承認、理解。存在意義を固定。



 ――そう、私は。







[29861] 2.コンディション
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:d7c0128b
Date: 2011/09/24 21:35
「あと一週間か……」

 廊下を、足を引きずるようにして進む影が一つ。

「クソッタレ、たったそんだけで、どうにかなるもんじゃねえだろ……」

 心身共に疲れきった、織斑一夏だ。








 Infinite Stratos -white killing-

 第2話:コンディション








 世界がぐらぐらと揺れている。一夏は割と本気で気分が悪かった。

「クソッタレ。平均ぐらいなら体出来上がってると思ってたんだが……」
「平均ごときであのトレーニングをこなせるものか」

 部屋のドアを開き、そのままベッドに倒れこんだ。

「どうせならもっと鍛えておくべきだった」
「後悔先に立たずとはよく言ったものだな。ほれ、飲み物」

 手渡されたペットボトルのキャップを開け、中身を一気に流し込む。

「――げぼっ! 運動直後の人間にウィルキンソンはねえだろ!」
「ははっ。気づかないお前が悪い」

 カラカラと笑い、箒――一夏のルームメイトである、篠ノ之箒は、今度こそスポーツドリンクの入ったコップを持ってきてくれた。
 中身はぬるくて気遣いが染みる。箒自身もホットココア入りのコップを手に持っていた。

「あー、冷たいのが飲みてー」
「私の体温で温まったのでは不満足か?」

 スポドリ噴いた。

「まさかの秀吉方式だと!?」
「もちろん収納場所はここ――」
「うわあヤメロ胸部をちらっと見せるな滾る昂る漲るぅぅぅぅぅぅ!!」

 シーツを握りしめながら、男子高校生がベットの上で悶えております。
 はたから見れば気持ち悪い光景だが、箒はそれも笑って受け流した。

「冗談だ。お湯で粉末ドリンクを溶かしたのだ」
「はー、はー、はー……ですよねー」

 心臓に悪い冗談である。
 一夏は一旦ベットから立ち上がり、制服の上着を脱いでハンガーにかけると、そのまま壁に寄りかかって箒を見つめた。


「直に会うのは――」
「久しぶりだ」


「声を聞いたのは――」
「昨日ぶりだ」


 的確に一夏のセリフを潰していく箒。
 まるで猫のような笑顔に、一夏は黙り込む。なにこの幼馴染。しばらく会わないうちにたんと手ごわくなってらっしゃる。





 ここで、少し整理しよう。

 織斑一夏と篠ノ之箒は6年ぶりに再会した幼馴染だ。……実際に面と向かって再開するのは、という限定的な条件こそつくが。
 理由は簡単で、箒が引っ越してしまう際、一夏の方から連絡用の電話番号を教えておいたのだ。


 以来、ほぼ毎日、二人は連絡を取り続けていた。

 携帯電話を買えばそちらでの電話、メールへと変わっていき。

 悩みの相談、定期考査の結果、その日あった出来事――話のネタは尽きなかった。



 そうやってずっと連絡をとり続けていたからか、久しぶりの対面だというのに二人の対応は柔軟にして軽快。何年もやってきたかのような(一応、実際にそうなのだが)、お互い気心の知れた仲なのだ。





「そういえば一夏」
「ん?」


「中学3年間、彼女とかできなかったのか?」


「ん、あー」

 唐突な質問に思わず言いよどむ。そのあいまいな反応を見て、箒は、一瞬で先ほどまでの落ち着いた表情や態度を引っ込めた。
 どうも二人は恋愛に関するトークはあまりしていなかったらしい。

「できたの?」
「えっ、あの、箒さん? 一瞬で表情が消えうせましたが、私何がしでかしましたか?」
「いや……私は『大人』だからな。気にしないさ。ははは」

 その割には、手がガタガタ震えてココアがこぼれていた。

 マジ余裕ねぇ。

「……明日、武道場に来い」
「は?」

「いいから来い! さもなくば――彼氏ができてしまえ!」
「えッ、ちょ……何その不吉すぎる言葉!?」

 そのまま箒は布団の中にもぐりこむと、押し黙ってしまった。









 話は変わるが、織斑一夏がIS学園へ入学することになったのはある事情がある。


 本来は女性にしか扱うことのできないはずの超兵器……『IS(インフィニット・ストラトス』の起動に成功してしまったからだ。受けるはずだった藍越学園とIS学園を間違えるという、小学生でもやりそうにないミスのせいで。


 まあ一夏は過去は振り返らない主義なので気にしていない。この主義、TPOによって都合よくコロコロ変わるので注意が必要である。



 ――が、そんな主義の一夏でも、気にかかっていることがいくつかある。



(アイツ、元気かな。箒と違ってガチで連絡取れてないからなぁ)

 箒が一夏との会話を『放棄』……ゲフンゲフン打ち切った後、一夏は放課後の『特別鍛錬』でかいた汗をシャワーで流していた。

 冷たい水が自分の体を伝っていくのをぼんやりと見ながら、一夏はある少女を思い出した。小5からの付き合いか。よく中華料理(酢豚)をご馳走になったとある少女。

 水が伝う。体を――本人は平均並みと言っていた、『あまりにも鍛え上げられすぎた肉体』を。

(それと)

 一夏が抱えているもう一つの事案。


(初めてISを動かした時。俺は、)


 彼の手が受験用訓練IS『打鉄』に触れた瞬間感じた、あの感覚。


(俺は、どうして――)









 ――――懐かしいなんて、思ったのだろう。





















 外部の振動を確認……観測より、『私』は輸送されているものと判断。


 登録搭乗者No.001『織斑一夏』と『私』の接触は間近と予測。


 ……プログラムのエラーを放置。『私』は『私』。『私』の存在意義は彼と共にある。


 ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと――逢いたかった。



 やっと逢えるね、一夏。




[29861] 3.ファーストコンタクト
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:d7c0128b
Date: 2011/10/01 00:28
 昔、ある男が言った。


『ISと戦闘機が戦ったらって? 話にならねェよ。確かに戦闘機は速ぇし、火力も悪くない。けど、機動が違いすぎんだよ』




 IS(インフィニット・ストラトス)の登場を皮切りに、社会は女尊男卑の風潮へと押し流されていった。

 それによって多くの男たちが被害を受けた。空への夢を諦めさせられたもの。理不尽な恥辱を味わされたもの。

 それでも、女性のすべてが男性の敵となったわけでは――ない。



「止めろよ」

 声が聞こえる。

「何よ、男のクセに口出しする気?」
「関係ねえよ、そんなの。俺の■■が、暴力を振るわれている。それを止めるのに、男も女も関係ねえだろうが」

 大切な人の声が。










「――自分の『彼女』に手ェ上げられて黙ってるほど、男(オレ)は大人しくねえよッッ!!」










 恥ずかしいセリフを吐く奴だった。バカな奴だった。無鉄砲で、無茶で、けれど無垢なんかじゃなくて、人間らしく歪んでいた。今思い返しても、彼ほど人間くさい人間に会ったことはない。

 だからこそ自分は惹かれたのだろうか。

(もう……一夏のバカァ……けど、だぁいすき)

 少女は寝ぼけ眼を擦り、再び抱き枕を抱きなおすと、まどろみの中へ落ちていった。










 Infinite Stratos -white killing-

 第3話:ファーストコンタクト




 翌日。

 山田教諭は焦っていらっしゃった。眼前の席に座る織斑一夏は、あたふたとする自らの副担任を――正確に言えばたゆんたゆんと揺れているけしからん二つのぱいおつを――じっくりと舐るように観察しているだけ。無論数秒後には担任の出席簿の一閃にあえなくダウンしたが。

 何があったのかといえば、山田先生がISによる生体機能補助を女性ものの下着に例えたことが原因である。周囲の女子はどうも落ち着かなさそうに自分の胸部を腕で隠し、教室の中の空気は激しく微妙だった。

「先生」

 その空気を払拭するべく、一夏はそっと手を上げた。

「は、はいっ織斑君! 何でしょう!」

 立ち上がり、目を細めて、告げる。





「そもそも先生には、サイズの合うブラジャーあるんですか?」





 一夏の発言に教室の空気が凍りついた。

 いや気持ちは分かるけど。あの牛並みの乳がどこに収まるんだっていう疑問はクラスの女子全員の謎だったけど。



 いくらなんでも直に質問するのは、ねーよ。





「あ、オーダーメイドなんですよ、コレ」
『『『答えちゃったァァァァァァァーーーーーーーーーー!!?』』』





 恐るべし織斑一夏。
 恐るべし山田真耶。
 恐るべしIS学園。

 少女たちは進学先ミスったとばかりに顔を引きつらせた。
 そしてクラス担任も、呆れと溜まった鬱憤を晴らさんとばかりに出席簿を通常の三倍の威力で副担任と唯一の男子にぶちかましたという。















 授業終了後、一夏はうんうんと頷いていた。
 机の上に広げられているのは授業内容を書き込んだノートと電話帳並みの教科書。

 休み時間ということもあり、幾ばくか一夏に話しかける女子も増えてきた中――進行形で言えば6名の女子に囲まれているのだが――教科書をパタンと閉じ、ふうと一息。




「日本語でおk」

「言うにこと欠いてそれか貴様」




 ホントどうしようもない言葉だった。
 想像の斜め上を行くダメ人間っぷりに思わず箒はため息をつく。

 そんな空気の中に、無遠慮な、クラス担任の言葉が差し入った。

「……ああそうだ、織斑。お前のISだがな……学園で用意することになったらしい。ワンオフ機だ」

 教壇から降りることなく、半ば目を逸らすようにして、千冬は告げる。

 周囲がどよめく。一夏自身も少なからず驚いていた。
 ISというのは地球上に467機しかない。

 何故か。――開発者である篠ノ之束博士がそれだけ作って失踪したからだ。

「それを聞いて安心しましたわ」

 どこからともなく、イギリス代表候補生セシリア・アルコットが現れる。一夏への言葉に耳を傾けていたらしい。

「クラス代表を決める決定戦、わたくしと貴方では勝負が見えていますけど、さすがにわたくしが専用機、貴方が訓練機ではフェアではありませんものね」

 お決まりのように人差し指を突きつけ、自身ありげな笑みを浮かべた。


(――ああ、『こういうの』がのうのうと存在しているのは、あの人のせいなんだ。この女尊男卑の風潮だって。あの人が、世界最強の戦乙女がいなければここまでひどくなかったのに……ッ!!)


「本来ならIS専用機は国家、或いは企業に所属する人間にしか与えられない――が、お前の場合は状況が状況なのでな。データ収集を目的として専用機が用意される」


 と、ある一人の女子生徒がおずおずと手を上げた。


「あの、織斑先生? 篠ノ之さんって篠ノ之束博士の関係者なんでしょうか?」
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 その返答にクラス中が騒然となる。



 箒は――――




「まあ、そうだな。もっとも私はあまりISについて詳しく知らないんだが……」




 ――――苦笑い、しただけ。


(意外だな)
 

 一夏の知る箒は、もっと直情的な人間だった。触れられたくない身内のことについて聞かれたら――昔の箒なら、怒鳴り返していただろう。あの人は関係ない、と。

「大人になったねェ……」
「当然だろう。いつまでも子供じゃいられないんだ」

 思わず漏れた一夏の呟きに、箒は軽くはにかんで答えた。

 ――付け加えるような小さな言葉を、誰が聞き取ることができただろうか。




「仕方ない。私は『大人』だ。『大人』なんだ……ッ」











「何があったのだ、一夏……?」

 剣道場に、箒の呟きが漏れた。他の剣道部員も凍りつき、『それ』を呆然と見つめている。

「……箒」
「…………」

「やっぱ俺、剣道向いてねえよ」

 一夏の手に握られた、竹でできた刀のようなもの。竹刀、という名称なのだが……短すぎた。一応彼の腕力を考慮して三九(118センチ)を手渡されていた。の、だが。


 真ん中からへし折れていた。


「打ち込み用の人形も壊しちまったし、いくらの賠償?」
「いや、待て、一夏。お前……」

「気づいたらこのザマだ。いつもやり過ぎる」

 一発の面打ちが、打ち込み用の人形を破砕し、竹刀を折った。

 どれほどの踏み込みで、どれほどの威力で、それは放たれたのか。


「俺は……気づいたら、こうなんだ」


 悲しげに呟いて、折れた竹刀を丁寧に床に置いた。そしてそのまま防具を脱ぎに更衣室へ歩いていく。


(誰だ……俺をこんな風にしたのは)


 その問いに答えられる者は誰もいない。











 時は流れ一週間後。


 一夏は箒と共に、第三アリーナのビットで待機していた。
 自身の専用ISが運ばれてくるというのだが……

「……遅いな」
「もうあっちは待機してるぜ。待たせるなんて我ながら紳士的じゃねえ」

 二人してため息をつく。会場に詰め掛けた多数のクラスメイトの目の前だ。下手な戦いはできない。

「織斑くん織斑くん織斑くんっ!」

「名字で三度も呼ばないでください」

 その時、向こう側から、1組の副担任である山田先生が駆けてきた。

「織斑君のISが届きましたよ!」

「だから、織斑って呼ばないでください」

 鬱陶しそうに告げながら、一夏は一歩前に出た。ビット搬入口が開く。
 真耶は「じゃ、じゃあ一夏君……?」と戸惑い、箒は入ってくるそれを凝視していた。


 現れたのは、『白』。

 すべてを無に還す原初の色。何物にも染まらない清らかな色。

 この世全ての純白を掻き集めて詰め込んで濃縮して圧縮して、それでいてばら撒いて見せ付けて散布して解放したような。

 そんな、『白』――人がちょうど入れるような空間を開放し、それはただ一夏を待っていた。



「えっと、時間がないので『初期化』と『最適化』は試合中に済ませてください、『一夏君』」
「分かりました、『真耶』先生」


「ふぇぇぇぇぇぇ!?」
「仕返しですよ、先生。だから箒サンすみませんそんな目で見ないで」

 圧倒的な威圧感に冷や汗をかきながら、一夏は逃げるようにしてISへ身を預けた。

 ガチャンガチャンといかにもメカニカルな音がして、一夏の体を固定する。そこからパイロットの生体データを認証、あらゆる状況に対応すべく感情のパラグラフデータに体調のコンデショングラフ等、数多くのデータを当てはめていく。

 その過程の中で。



 偶然にも生まれたバグが、一夏の中へとゆっくりと滑り込んでいき――――

 

 瞬間。





「――――ッッッ!! グゴッ、があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!??」





 一夏の全身を激痛が貫いた。

 神経を迸る痛みに歯を食いしばり、苦し紛れに体を無理に動かす。

 結果、拘束具を引きちぎり、カタパルトの床や壁に激突しながらも一夏はアリーナへと飛翔してしまった。

「一夏ッ!? オイ、一夏! 一夏ぁああああああああああああ!!」

 箒の絶叫が響き、真耶は呆然と口を開け。



 その様子を管制室から見守っていた織斑千冬も同様に絶句し。



 一夏の体がアリーナに躍り出た瞬間、決闘開始のブザーが鳴った。











 昔、ある女が言った。


『唯一ISが使える男子と代表候補生が戦ったらどうなるのかって? 話にならないわよ。確かにあいつは、根性あるし、筋も悪くない。けど、経験が違いすぎンのよ』






 その女は、中国代表候補生にして一夏の幼馴染は、知らない。

 織斑一夏が自身も知らないうちに積み上げてきた修練を。

 織斑一夏が受領する専用IS内部に現れた正体不明のバグを。



 唯一ISが使える男子が、空を切り裂き飛翔した。


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