一回目は、懐かしさを感じた。
二回目に、違和感を覚えた。
三回目を、彼は拒絶した。
自身を守るために、『それ』を、認めなかった。
世界で一番強い姉が、俺は世界で一番嫌いだ。
俺は世界が一番好きなのは『白』だ。
生まれてきた時からずっと好きだった。
すべてを無に還す原初の色。
何物にも染まらない清らかな色。
けれど――例外だってある。
世界で一番有名な忌々しいIS(クソ人形)。白の名を冠するなどおこがましい、馬鹿姉の愛機。
「なんでここにいる」
空には大して興味がない。地に足の着いた生き方でいい。
それなのに俺はこんなところにいる。
「答えろよ」
「……一夏」
俺の人生にあんたは必要ない。
俺はあんたなんかとは一切関わらずに生きていくんだ。
そう決めたのに。
「答えろっつってんだろ!」
「!」
「どうして……どうして俺はIS学園(こんな所)にいるんだ!」
これは羨望と嫉妬を取り違えた、一人の少年の物語だ。
Infinite Stratos -white killing-
第1話:ビギニング
「ちょっとよろしくて?」
「…………あ?」
織斑一夏が声を出したのは、授業が始まる前にクラス担任である織斑千冬を罵倒して以来だった。
教室に入ってきた彼女を見るなり、一夏は大声で彼女に暴言を浴びせかけたのだ。
そのこともあってか、教室内は非常にぎすぎすとした空気が流れていた。元凶である一夏にも多少の責任感はあるらしく、授業中も口を慎んでいる。
しかし問題事はあちらから勝手に歩いてきた。
「まあ! なんですかその言い草は! このセシリア・オルコットに話しかけられるだけでも」
「口上はいい。要件を話してくれ」
次の授業はISの空間移動についての講座だった。テキストを読み直すのに忙しいのか、一夏は話しかけてきた女子生徒に見向きもせず応答する。
「な、な、なんですかその態度は……!」
「……なあ、円状制御飛翔(サークル・ロンド)って何だ? 俺こんな言葉知らない」
「はい!? 大分基本的な知識が抜け落ちているのですね……」
こん、と軽く彼女は咳払いし、
「いいですか、円状制御飛翔(サークル・ロンド)というのは、複数の機体が互いに円軌道を描き――まあわっかになって追いかけっこしてるみたいなものですわ。で、その状態で射撃を行い、それを不定期な加速をすることで回避するのです。そして速度を上げながら、回避と命中の両方に意識を向けることで、射撃と高度なマニュアル機体制御の訓練になるのですわ」
「つまり何? 訓練の一種ってコト?」
「そういうことですわね」
へーと頷き、一夏は参考書をまためくり始めた。
「じゃあこれは?」
「ああ、それは……」
と、結局休み時間は全部イギリス代表候補生セシリア・オルコットによる個人授業によって埋められましたとさ。
「……織斑君、先生が入ってきた途端無表情になるのやめようよ。怖いって」
「これはアレだ、自己防衛のため心を閉ざしてるんだ」
「何が君の心を侵食しているんだ……」
両サイドの女子と一夏の会話より抜粋。
「納得いきませんわ! あんなズブの素人をクラス代表になんて!」
セシリアはたまらず吼えた。クラス代表を決めるに当たり、クラス内の女子が一夏を代表として推薦したのが原因だ。
クラスの看板となるわけなのだが、ISを実際に動かした経験はなし。知識も拙い。
代表どころか落ちこぼれまっしぐらなあんちくしょうを代表になど――言ってること自体は正しいのだが、そこにセシリア独自の価値観・倫理観が混ざってしまっていた。
「こんな極東の猿などにクラス代表を任せるなど恥さらしもいいところですわ!」
「ちなみに極東ってのはあくまで英国から見た位置の話だからな」
「問題ありませんわ。私はイギリス代表候補生ですもの」
「なーるほど。そりゃ丁度イイ」
で、当の本人はといえば、先ほどの授業のノートを何度も読み直し、復習に余念がなかった。
「……怒るに怒れんな」
「……なんというか、非常に敵対心を削がれる光景ですわね」
千冬とセシリアの呟きが重なる。
すると議論が詰まってしまったのか、教室に沈黙が下りた。
「――先生」
「なんだオルコット」
痺れを切らしたのか、セシリアは椅子から立ち上がると――人差し指を一夏にビシリと突きつけた。
「決闘ですわ!」
そう言い切る。復習中の一夏ポカン。
「……えっ、オルコットさん? 今なんとおっしゃいましたか?」
「決闘ですわ! 強い方がクラス代表ということにすればよろしいでしょう?」
それこそズブの素人に頼むコトじゃねえだろ! と思わず反論しかけると。
「――まあ、先ほどまでのあなたを見ている限り、すぐには無理でしょうね。先生、一週間ほど時間をおきましょう」
「うむ、織斑、異論はないな」
「異論しかねえよクソ姉」
顔を引きつらせながら、一夏は嫌悪感を隠さないまま言葉を続ける。
「実力主義の時点で何かちげーだろ。強けりゃ人の上に立てんのか? 仮に俺がセシリアに勝ったとしても、それは相性とかコンディションとかの問題かもしれない。その後の、クラス代表としての戦いで俺がコンスタントに戦績を弾き出せる確証は? 大体俺はISを動かしたことすら――」
バシン! と出席簿が一夏の脳天に投擲され、咄嗟の参考書ガードによって弾かれた。
「……教育者のすることかよ」
「では決闘は一週間後、第三アリーナで行う!」
「マジでやんのかよ!?」
こうして一夏の意見はすべからく無視され、一組のクラス代表決定戦が控えられることとなった。のだが――
「イヤだイヤだ。おうち帰りたい。ブレブレの最新刊読みたい」
「あーボルキュス戦ね。デルフィングの追加装備いかついよ」
「何それkwsk」
本人のやる気は一向に向上しなかった。
――システム異常なし(オールグリーン)。
――登録操縦者No.001『織斑一夏』のパイロットデータをインストール。
――コア内にバグgtsを確rt認rhd。;pi排除thr開op始……失s敗。バkyuグの増hryj大を確ui認。
――異常発生異常発生登録操縦者No.001を確認する度、未確認のノイズが発生。異常発生。異常異常異常異常異常意y増いじゃfはgwhgrthyれhじぇ会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏
――プログラムを認証。承認、理解。存在意義を固定。
――そう、私は。