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くらし

基準値超える放射性物質 過度に怖がらず冷静に 

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 葉物野菜や原乳、そして水道水から基準値を超える放射性物質が検出されている。国は「一時的に摂取しても健康に害はない」と強調するが、消費者の不安は消えない。危険か安全かといった極端な二者択一の思考に走ると、冷静さを失いかねない。甲南大学理工学部の秋宗秀俊准教授(原子核物理学)に現状の認識と心構えを聞いた。(黒川裕生)

 「被ばく=がん」と誤解している人は少なくない。

 1シーベルト(1000ミリシーベルト)で約10%の人ががんや白血病などで亡くなることは分かっている。ところが低量被ばくだと、死亡との因果関係が分からない。

 私は仕事柄、実験で年間1ミリシーベルト程度の放射線を20年間にわたって浴びているが、健康に問題はない。専門家としては許容量だと認識している。

 野菜や水で摂取制限が指示された。

 「摂取しても直ちに影響はない」という国の見解は信用していい。「基準値の○倍を検出」と報道されると確かにショックは大きいが、特に水は基準値そのものが非常に厳しく設定されている。健康への影響を考えるには体内に取り込まれた「量」を考えねばならない。「○倍」といった伝えられ方を過度に怖がらないでほしい。

 福島県産の一部の野菜が摂取制限されたが、今流通している分に関しては洗ったり湯がいたりすれば問題ない。心配なのはこれから栽培される農産物だ。土壌から放射性物質を吸い上げると、どれくらい汚染されるのか分からない。洗っても湯がいても除去することは難しい。

 水道水をめぐっては、日本産科婦人科学会が、母体や赤ちゃんへの影響を否定する見解を発表した。

 子どもは細胞分裂が活発で、影響を受けやすいのは間違いない。だが何度も繰り返すように、現時点では直ちに健康を害するような数値は出ていない。あくまで「避けるに越したことはない」というレベル。パニックに陥って体調を崩したり、神経質になりすぎて不幸にも流産したりするなら、普段通り野菜や水を摂取する方がリスクははるかに低い。

 あまり報じられていないが、高齢者は若者や子どもに比べ、放射性物質を恐れなくてよいことも知ってほしい。新陳代謝が頻繁でないため、影響を受けにくく、がんにもなりにくいからだ。

 福島第1原発から約800キロ離れた松江市でも微量の放射性物質が検出された。

 原発を中心とした○キロ圏内などという同心円を過信しないことだ。風向き次第では放射性物質が飛んでくる可能性があり、関西にとっても決して人ごとではない。

 放射性物質が付着しやすい土やほこり、雨には気をつけること。放射線量は原発周辺だけでなく、全国各地で可能な限りきめ細かく測定した方がいい。原子炉は今も熱を出し続けており、冷却作業がかなり長期化することも覚悟しておかなければならない。

 被害状況を示す際、米・スリーマイルアイランド(1979年)や旧ソ連・チェルノブイリ(86年)と比較される。

 原発事故後、東北や関東地方の大気中で観測されている放射線量は、確かにこれまでの安全基準を吹き飛ばすほど衝撃的な数値だ。だが現時点では「確実に命の危険がある」とされる数値(5シーベルト)にはほど遠い。当然注意はすべきだが、必要以上におびえることはない。

 ゼロリスクの社会などあり得ないことを肝に銘じてほしい。対応が遅れたチェルノブイリなどと違い、私たちには蓄積された知識と冷静さという武器がある。

■ベクレルとシーベルト

 放射性物質が放射線を出す能力が放射能だ。放射能の強さや量を示す単位がベクレルで、1秒間に原子が1個崩壊すると1ベクレル。シーベルトは、人体が放射線を浴びた被ばくの影響度を示す単位。国や地域で異なるが、自然界から年間1・5〜7ミリシーベルトの放射線を浴びているとされる。電球に例えると、光の強さがベクレルで、電球に照らされた場所の明るさがシーベルトと考えればよい。

◆ 参考になるサイト ◆

■日本医学放射線学会

「妊娠されている方、子どもを持つご家族の方へ‐水道水の健康影響について」

「放射線被ばくなどに関するQ&A」

■日本産科婦人科学会

「東日本大震災に関するお知らせ」

→「水道水について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内」

【特集】東日本大震災

(2011/03/29 14:48)

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