「漏出した放射線の総量はウラン換算で広島原爆の20個分に相当」という指摘もある東電福島第1原発の事故から半年が過ぎた。水や土地や食べ物を汚染し、多くの人から故郷を奪った放射性物質の脅威。子どもへの影響は、この半年間の被ばく総量は。放射能汚染の現状と今後の見通しなどについて、震災後に取材した兵庫の専門家にあらためて聞いた。
(黒川裕生)
■子どもの被ばく量注視 秋宗秀俊・甲南大准教授
「過度に怖がらず、冷静に」「放射線量は全国各地できめ細かく測定を」(3月29日付)などと話した甲南大学理工学部物理学科の秋宗秀俊准教授(原子核物理学)は「当時は公式発表だけが頼りで、メルトダウン(炉心溶融)が起きていたり、何年も住めなくなるようなレベルで汚染されていたりするほど深刻な事態だとは思っていなかった。認識が甘かった」と反省する。
秋宗准教授は5月、福島第1原発半径60〜80キロメートル圏で放射線量を測定した。同じ敷地でも、建物の軒下など雨水がたまりやすい場所では4倍にも跳ね上がるなど、線量の濃淡があった。
「『知らないうちに大量被ばくしていた』という事態を絶対に避けること。前回も指摘したが、丁寧に計測を続けることが必要。すべてを疑ってかかり、大丈夫だとは絶対に思わない。どこにでもある郵便ポストなどに線量計を設置し、定期的に発表するのがいい」
大量の放射性物質が放出された結果、食品、土壌、水からの検出は個々に伝えられるが、半年間の内部被ばくの総量については、「影響の算出は相当困難」という。今後の対策としては「心配な人が自分で調べられるように、スーパーの食品売り場などに線量計を置くのはどうだろう。大切なのは、市民が知りたい情報にアクセスできる環境を整えること。他者ではなく、自分が調べることで得られる安心感もある」と提案する。
注視するのは子どもの被ばくだ。「放射線業務に当たる専門家は作業中はポケット線量計を身につけ、外部被ばく量を厳重に管理している。不安を拭い去るためにも、福島のすべての子どもにこれを持たせてほしい」と強調する。
■避難を考える状況、依然続く 山内知也・神戸大大学院教授
「子どもの屋外活動制限の年間積算放射線量は年1ミリシーベルトに」(5月24日付)と提言した神戸大学大学院海事科学研究科の山内知也教授(放射線計測学)。山内教授は4回にわたり「子どもは年1ミリシーベルトを厳格に下回る対処と、避難計画の見直し」を国に申し入れた。
「学校は子どもが安心して過ごせる場所であるべき」と山内教授。福島県内などで校庭の除染が行われたが、「校舎内に子どもがいるのに、その横で危険だからと除染作業をしているのは明らかな矛盾」と批判。「せめて子どもと教師だけでも、一定の期間を決めて線量の低い地域に避難させるのが望ましい」と持論を説く。
内部被ばくで懸念されるのは放射性物質ストロンチウム90の影響という。骨に蓄積されやすく、体外に排出されにくい性質を持つ。「ガンマ線を出すセシウムなどと違い、普通の測定器で計りにくいベータ線を出すので、チェックするにはより緻密な作業が必要」と注意を促す。内部被ばくの総量について「シミュレーションをすればある程度分かるかもしれないが、現時点では細かく把握できていない」という。
大量かつ広範囲に放出された放射性物質。雨などで川にも流入し、堆積しているとみられる。「これから時間をかけて少しずつ線量レベルが上がっていく地域が出てくるかもしれない」として、計測ポイントをできるだけ増やすよう提案。事実、福島市内では、表土を除去しても線量が高いままの広場があったという。
「今後、劇的に線量が下がることは考えにくい。移住となると、地域の存続という社会的な問題はあるが、避難を考える状況は依然として続いている」と話している。
(2011/09/15 12:15)
Copyright© 2011 神戸新聞社 All Rights Reserved.