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国会に東電福島第一原発事故の調査委員会を設ける法律が、きのう成立した。民間の有識者による調査機関が国会にできるのは憲政史上初めてだ。三権分立のもと、行政府をチェックする[記事全文]
震災からの復旧・復興財源を賄うため、公務員給与を2年余りで6千億円削る。そんな法案を政府が国会に提出している。いずれ国民に復興増税を求めるのだから、身を削るのは避けられ[記事全文]
国会に東電福島第一原発事故の調査委員会を設ける法律が、きのう成立した。民間の有識者による調査機関が国会にできるのは憲政史上初めてだ。
三権分立のもと、行政府をチェックするのは立法府本来の仕事であり、その機能を果たすべき舞台をしつらえた格好だ。
政府には、「失敗学」を提唱する畑村洋太郎東大名誉教授をトップとする調査・検証委員会がある。12月に中間報告を予定している。
ただ、法律で権限が保障されているわけではない。相手方の協力を得るため、これまで延べ275人からのヒアリングも非公開でやっている。
自民党など野党からは「政府がつくった委員会が、本当に政府の失態に踏み込み、追及しきれるのか」という懸念が示されていた。私たちも同意見だ。
これに対し、国会の事故調は上部機関として設ける国会議員20人による協議会を通じて強制的に証人喚問ができる。国政調査権に基づき、うそを言えば偽証罪での告発もできる。議事は原則公開される。
強力な権限と透明性を武器に、政府の調査・検証委の成果を踏まえつつ、真相に迫ることが期待される。
だが、大きな懸念がある。
野党の設置要求に、民主党が応じてこなかったのは、菅前首相らの初動対応などに絡めて、政権批判を展開されることを警戒したからだ。
一方で、与党は大津波や全電源喪失に十分備えてこなかった自民党政権下の原発行政の問題点に矛先を向けたい。
こんな与野党の思惑が、ねじれ国会で激突すれば、責任の押しつけ合いや非難合戦になってしまう可能性がある。
ここは明確にしておこう。
事故調が最優先で取り組むべきは、誰が悪いのかという犯人捜しではない。綿密にデータを検証し、二度と今回のような惨事を起こさないための教訓をくみ取ることだ。
それは、国際社会に対する重い責任でもある。
まず、この認識を与野党が共有し、視野の広い学識経験者10人の委員選びから協調すべきだ。各党は「党派的な立場から委員会を政治的に利用してはならない」という申し合わせを守らねばならない。
事故調が、後世の歴史家の検証に堪える成果を残せるかどうか。国会の実力が試される。
うまく行けば、国民の政治不信を和らげるだけでなく、新しい国会の役割を切り開く貴重な先例になる。
震災からの復旧・復興財源を賄うため、公務員給与を2年余りで6千億円削る。そんな法案を政府が国会に提出している。
いずれ国民に復興増税を求めるのだから、身を削るのは避けられまい。
ただし、真っ先に身を削るべきは国会議員である。震災後の4月から月々の歳費を50万円減額してきたが、10月から満額の月129万円余に戻している。
自分たちは満額を受け取り、公務員給与は減らす。こんな理屈が通るはずがない。まずは議員歳費の減額を強く求める。
その次に、公務員給与をどれほど減らすのかという難しい問題がある。法案に沿えば、平均で7.8%減らすことになる。
ところが昨日、もう一つの削減案が示された。人事院が年間給与を0.23%減らすよう勧告したのだ。民間の動向を踏まえて勧告することを定めた法律に従って出してきた。
さて、法案通りに削るか、勧告に従うか。私たちは法案を成立させるべきだと考える。
勧告を採るだけでは、想定している復興財源が不足するからだ。さらに「官の身をろくに切らずに増税するのは許せない」と、国民が復興増税への反発を強めることも考えられる。
だが、法案成立のめどは立たない。6月に提出されたのに、まだ審議に入れない。
理由は「給与削減」と、公務員が制約を受けている労働基本権のうち「協約締結権」を回復する問題が密接に結びついているからだ。
基本権が制約されているため、人事院勧告に沿って給与などの労働条件を決めてきた。協約締結権を回復すれば、民間のように労使交渉で決められる。
だから連合系の労組は権利の回復を宿願としてきた。それがかなうならと、人事院勧告方式から踏み出して、削減法案をのんだ経緯がある。
なのに締結権回復の法案を先送りしたのでは、連合系との合意が崩れ、給与削減もおぼつかなくなる。政府は、両法案をあわせて成立させることを迫られている。
だが、国会では自民党などに、労組の立場が強まる締結権の回復に反対が根強い。
国会の外では、連合とほぼ拮抗(きっこう)する加入人員がいる全労連系が、勧告に基づかない賃下げは憲法違反だと主張している。
自民党と全労連の理解を、それぞれ得るのは容易ではない。だが、政府は誠意を尽くして打開策を探るしかない。
その出発点としても、国会議員の歳費削減が必要だ。