映画のポスターを見せてくれた友人に『こわれゆく女』と『クーリンチェ少年殺人事件』のビデオを借りた。「こんなインデペンデントな世界があるんだと衝撃を受けました。それからはハリウッド以外の映画を片っ端から観(み)ました。邦画もいろいろ鑑賞し、作品の中で存在するたたずまいがすごくいいなと印象に残ったのが俳優の浅野忠信さんでした」
加瀬さんはすぐに浅野さんの所属事務所を調べ、手紙と履歴書を送った。面接を受け、最初の1年は浅野さんの付き人として働くことになる。
「でも、付き人を始めてすぐにこの人は参考にならないなと理解しました(笑)。なぜなら天性のものが備わった特別な人だからです、浅野さんは。ただ、たくさんの現場へ行かせてもらえたのはよかった。それと演技のことだけでなく、人とのコミュニケーションでも何でも、まず自分で考えることの大切さを浅野さんから学びました」
やがて、役者としてオーディションを受けるようになり映画『五条霊戦記 GOJOE』でデビュー。その後も積極的にオーディションを受け、着実に映画出演の機会を増やしていく。2004年には『アンテナ』で初主演を果たし、クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』や周防正行監督の『それでもボクはやってない』を始め、国内外の話題作に出演し続けている。
そんな加瀬さんの転機となった作品をたずねると「全部です。世間的に僕の節目と評価される作品はあるのですが、僕にとっては全てが転機だった。常に、これでよくなかったらもうダメだ、次はないという気持ちだったから。それだけにどんな作品に対しても絶対余力を残さず、がむしゃらに取り組んできました。今もそれは変わらないですね」
最近は『海炭市叙景』『アウトレイジ』などこれまでのイメージとは全く異なる役にも積極的に挑戦している。
「自分には無理かもしれないと思う役でも、実際にやってみることで今までの自分とは違った側面が開けていく。その瞬間は何よりうれしいし、そんな機会を与えてもらえることに本当に感謝しています」
役によって自身の世間的イメージが変わってもそれは全然かまわないと言う。「自分を表現したくて役者をやっているわけではないですから」
今後はと聞くと「映画の仕事を続けていくことが目標です。10年以上続けているものが、僕には映画しかないので」と答えてくれた。一つひとつの質問にじっくりと考え、うそのない言葉で返す。温和ながら、心に秘められた強いものを感じた。
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
具体的にはわかりませんが、やっぱりサラリーマンになっていたんじゃないかと思います。
人生に影響を与えた本は何ですか?
映画監督のヴェルナー・ヘルツォークの著書「氷上旅日記 ミュンヘン−パリを歩いて」です。大学時代に読みました。自分の信じるところへ向かっていけばいいんだということを教えられた1冊です。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
僕の場合は神頼み、ですね。
10月22日(土)より、加瀬亮さん出演映画
「東京オアシス」が公開!
映画「かもめ食堂」「めがね」「プール」「マザーウォーター」と、人と場所との関係をシンプルに見つめてきたプロジェクトチームが新作の舞台に選んだのは、東京。現実の人生で迷子になった女優の主人公が、この街の別々の場所で3人の男女と出会いながら少しずつ変化していく様子を静かに描く。「心が淋しくなった時に、ぜひ観てもらえたら」と加瀬亮さん。
キャスト/小林聡美、加瀬亮、黒木華、原田知世 他
監督・脚本/松本佳奈、中村佳代
脚本/白木朋子
公式HP/http://www.tokyo-oasis-movie.com/
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