幅広いジャンルの映画で活躍している加瀬亮さん。
素朴で繊細な青年役の印象が強いが、最近は狂気を内に秘めた男を演じることも多い。
作品ごとに毎回違った「色」で私たちを魅了し続ける彼が
演じること、映画の世界と出会ったきっかけなどについて語ってくれた。
「登場人物はみんな行き詰まっていて、現実の流れに対して心は止まったまま。そんな人たちが東京という街で偶然出会い、短いけれど静かで濃密な時間を過ごす。マイナス×マイナスで心をプラスにしていく、そんな物語だと思います」
加瀬亮さんがそう話すのは映画『東京オアシス』のこと。『かもめ食堂』を皮切りに場所と人との関わりを独特の空気感で描き続けてきたプロジェクトの新作だ。加瀬さんは2作目『めがね』からこのプロジェクトに出演している。
「このチームはいい意味で非常識なんです(笑)。例えば、もしも泣いている人がいたら『クヨクヨするなよ』ではなく『ちゃんとクヨクヨしなさい』って言う。今作の登場人物についても、社会人として仕事で逃げてはいけないけれど、まあ1回ぐらいはいいんじゃないと許してしまう。なんかそういう独自の美学というか、雰囲気があって。それが人を前へ進ませもするから不思議」
もともと、落ち込んだ時は「頑張れよ」とポジティブに言われるより、何も言わず横に居てくれる方が励まされるタイプだと言う。「だからかもしれないですが、常識や世間体にとらわれず、静かな柔らかいもので大切な何かを伝えていこうという、このチームの空気感が僕はとても好きなんです」
現場では、小林聡美さんやもたいまさこさんなど共演者から毎回様々な刺激を受ける。
「特に今回は海辺のシーンで、小林さんの非常に軽やかで、かつ深さのある演技に圧倒されました。女優としてすごい方だと改めて思いました」
加瀬さん自身にも迷い、戸惑った時期がある。ちょうど就職活動の頃だ。大学ではボードセーリングに熱中し、部活中心の生活だった。それが引退となった途端、周囲は人が変わったように気持ちを切り替え、熱心に就活を始めた。
「僕もサラリーマンになるんだろうなとは思っていたのですが、すぐに切り替えることができずポカンとしていました」
そんな時、地元の先輩の舞台を観(み)に行った。一生懸命芝居に打ち込む姿に心が動いた。
「たぶん、新たに打ち込める何かを探していたからこそ揺さぶられたんだと思います。すぐに彼が演技を学ぶ劇団を聞いてオーディションを受け、何度か舞台にも立ちました」
だがなぜかしっくりこない。違和感を感じた加瀬さんは、同じように舞台になじめずにいた共演者と友達になった。彼の家へ行くとそれまで自分が観たことのない映画のポスターが貼ってあるのを見つける。この出合いが結果的に映画の道を志すきっかけとなった。
かせ・りょう 1974年神奈川県生まれ。2000年『五条霊戦記 GOJOE』で映画デビュー。以降、『硫黄島からの手紙』『それでもボクはやってない』『重力ピエロ』など数多くの作品に出演。10月22日(土)から出演映画『東京オアシス』が公開予定。
12 |