報道発表資料 [2008年3月掲載]
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イヤホンの使用が聴覚に及ぼす影響についての調査結果【概要】

1 調査の目的

 近年、ポータブルオーディオ機器の高性能化が進み、場所を選ばず、長時間の音楽鑑賞等が可能となっている。必然的に、聴取時に使用するイヤホンの使用時間も増加していると考えられる。
 イヤホンの使用においては、大音量、長時間の聴取による聴覚障害の危険性だけでなく、屋外での使用での外部音情報の欠落による事故等の危険も想定され、実際にイヤホンの使用が原因の1つと思われる事故も発生している。
 そこで、ポータブルオーディオ機器とイヤホンの普及・使用状況や消費者の意識に関するアンケート調査、及びイヤホンの使用に起因する聴覚障害等に関する文献調査とともに、イヤホンの使用によってどの程度周囲の音が聞こえにくくなるか、周囲のうるささによって聴取レベルがどのように変化するか等、被験者を用いた実機調査により定量的に求め、その結果に基づいて、国や自治体、業界団体等への情報提供・要望と消費者への情報提供・注意喚起を行うこととした。

2 調査方法

(1)アンケート調査・文献調査

ア アンケート調査
(ア)調査手法:インターネットアンケート
(イ)調査期間:平成19年1月24日(水)〜平成19年1月30日(火)
(ウ)調査対象:都内在住の16歳から39歳までの男女個人
(エ)有効回答数:1,145名

イ 文献調査
(ア)調査期間:平成19年1月15日(月)〜平成19年3月30日(金)
(イ)調査内容:
 a 聴覚障害についての概要
 b ポータブルオーディオ、イヤホンの使用と聴覚障害に関する調査・研究
 c 海外での規制・啓発活動等
 d ポータブルオーディオ、イヤホンの警告・注意表示

(2)実機調査

ア 調査期間:平成19年7月26日(木)〜平成20年1月31日(木)
イ 調査実施機関:独立行政法人産業技術総合研究所
ウ 聴覚閾値※1)測定
 イヤホンの装着やイヤホンからの音楽聴取により、周囲の音がどの程度聞こえにくくなるかを調べるため、以下のとおり、被験者の純音※2)聴覚閾値を測定した。
(ア)測定対象:耳覆い型※3)(開放型※4))、耳載せ型※5)(密閉型※6))、イントラコンカ型※7)、挿入型※8)のイヤホン、各1機種
(イ)被験者:20歳から24歳までの男性25名、女性16名の計41名
(ウ)測定方法:無響室にて、次のA、B、C各条件で、被験者の正面に設置したスピーカーから提示される純音の聴覚閾値の測定を行った。
 A 被験者にイヤホンを装着させない状態(裸耳条件)
 B 被験者にイヤホンを装着させるが、イヤホンからの音を出力しない状態(装着条件)
 C 被験者にイヤホンを装着させ、装着したイヤホンから擬似音楽雑音※9)を提示する状態(駆動条件)
エ 快適聴取レベル測定
 イヤホンから音楽を聴取する場合、周囲が静かな場合とうるさい場合で、被験者が快適と感じる聴取レベルがどのように変化するかを測定した。
(ア)測定対象:イと同じ、耳覆い型(開放型)、耳載せ型(密閉型)、イントラコンカ型、挿入型のイヤホン、各1機種
(イ)被験者:イと同じ、20歳から24歳までの男性25名、女性16名の計41名
(ウ)測定方法:無響室にて、次のA、Bの条件で、被験者にポータブルオーディオプレーヤーから音楽信号を提示し、最適と感じるボリュームに設定させた。ボリューム値に対する音楽信号の音圧レベルはあらかじめ測定しておき、被験者が設定したボリュームを音圧レベルに換算した。
 A 被験者の前方に設置したスピーカーから何も提示しない状態(静寂条件)
 B 被験者の前方に設置したスピーカーから雑踏を想定した環境騒音(73.2デシベル)を提示し続ける状態(騒音環境条件)
オ 聞き取り調査
 日常でのイヤホン、ポータブルオーディオの使用状況等について、アンケート形式での聞き取り調査を実施した。
(ア)調査対象:イ及びウの測定に参加した、20歳から24歳までの男性25名、女性16名の計41名

※1)聴覚閾値:ある音を認識するために必要な音圧の下限値(これより小さな音は聞こえず、これ以上の音は聞こえる)
※2)純音:単一の周波数のみによって構成される音(通常の聴力検査で使用される音)
※3)耳覆い型イヤホン:完全に耳を覆って使用する大型のイヤホン(図1)
※4)開放型イヤホン:外耳道と外部周辺との間に意図的に音響通路を設けたイヤホン
※5)耳載せ型イヤホン:耳を覆うことなく、耳の上に載せて使用するイヤホン(図2)
※6)密閉型イヤホン:外耳道と外部周辺との間の音量的漏洩を妨げるようにしたイヤホン
※7)イントラコンカ型イヤホン:耳介にはめ合わせて使用する小型のイヤホン(図3)
※8)挿入型イヤホン:外耳道に挿入して使用する小型のイヤホン(図4)
※9)擬似音楽雑音:一般に市販あるいは配信されている楽曲を4つのジャンルに分類し、各ジャンルごとに無作為に16曲を選び、それぞれの特性を模擬して作成したもの

イヤホンのイメージ   イヤホンのイメージ   イヤホンのイメージ   イヤホンのイメージ
図1 耳覆い型 図2 耳載せ型 図3 イントラコンカ型 図4 挿入型

注)図1〜4は形状のイメージを示したもの。

3 調査結果

(1)アンケート調査・文献調査

ア アンケート調査
(ア)ポータブルオーディオ、イヤホンとも、回答者の70%以上が使用しており、年代が若いほど使用率が高くなる傾向にあった。(図5)

グラフ

図5 ポータブルオーディオ、イヤホンの使用状況

(イ)1日あたりのイヤホン使用時間は、2時間未満という回答者が86.5%で大半を占めたが、4時間以上という回答者も3.2%いた。
(ウ)イヤホンの使用頻度については、「ほぼ毎日」が28.0%、「週4〜5日」が28.6%で、半数以上が週4日以上使用していた。
(エ)ポータブルオーディオ、イヤホン使用者の70%以上が、道路を歩きながら使用しており、すべての年代で高い割合であった。(図6,7)
(オ)自転車に乗りながら使用している割合は、ポータブルオーディオ、イヤホン使用者の30%以上であり、特に10代では男女とも50%を超えていた。(図6,8)

グラフ

図6 ポータブルオーディオ、イヤホンの屋外での使用状況(複数回答)

グラフ

図7 ポータブルオーディオ、イヤホンの歩行中の使用割合

グラフ

図8 ポータブルオーディオ、イヤホンの自転車乗車中の使用割合

(カ)ポータブルオーディオ、イヤホン使用者の84.2%が乗り物(交通機関)で使用しており、年代を問わず高い割合であった。(図9)

グラフ

図9 ポータブルオーディオ、イヤホンの乗り物での使用状況(複数回答)

(キ)屋外での使用者の8.0%(53人)が、屋外でイヤホンを使用しているときに危険な状況に遭遇したことがあった。「自動車や自転車と接触しそうになった」という回答が最も多く、実際に「ぶつかった」という回答者もいた。中には「救急車に気付かなかった」という回答者も2名いた。(図10)

グラフ

図10 屋外でイヤホン使用中に遭遇した危険な状況

(ク)最もよく使用しているイヤホンは、イントラコンカ型(インナーイヤー型)が60.1%、挿入型(カナル型)が20.0%で、この2種類で8割を占めていた。
(ケ)自分の聴覚に何らかの異常を感じている回答者は全体の16.5%であり、具体的な症状としては「人の声が聞き取りにくい」が最も多く、56.1%であった。
(コ)難聴についての知識を聞いた設問では、「大音量の音を聞き続けると騒音性難聴になる危険性が非常に高くなること」が43.1%で最もよく知られていた。しかし、半数近くの回答者は「このアンケートではじめて知った」と回答した。
(サ)回答者の約30%が難聴に対する不安を持っており、そのうちの約半数は「特に理由はないが、漠然とした不安がある」と回答している。
(シ)ポータブルオーディオの使用により難聴にならないようにするための対策としては、「大きな音にならないように自分で音量を調節する」という回答が最も多く、約70%であった。
(ス)難聴予防に有効な機器が発売された場合、購入者の80%近くは何らかの条件が合えば購入してもよいと考えている。
(セ)ポータブルオーディオやイヤホンの使用による難聴を防止するための規制を行うべきかどうかについて、回答者の61.1%が「行うべき」と回答している。

イ 文献調査
(ア)フランスにおいては、ポータブルオーディオの最大出力が100デシベルに規制されている。
(イ)国内外とも、大音量の音への曝露による騒音性難聴に関する調査・研究では、その危険性を判断する際に労働安全衛生上の騒音曝露基準が用いられている。
(ウ)欧米では、イヤホンの使用や大音量による難聴を防止するため、特に子どもや若年層を対象とした、各種団体によるキャンペーンの実施やテレビコマーシャルの放映、ホームページでの啓発活動などが行われている。

啓発活動のイメージ   啓発活動のイメージ

(エ)イヤホン、ポータブルオーディオ機器の取扱説明書等の警告・注意表示
 a 屋外等での使用による事故等の危険性について、調査した取扱説明書等のほとんどに記載があったが、中には記載の無いものもあった。
 b 大音量、長時間の使用による聴覚障害の危険性については、すべてに何らかの記載があったが、「大音量」「長時間」の基準を具体的に例示しているものは1つしかなかった。
 c 同じ内容について警告や注意などのレベルが事業者間で統一されていないものがあった。
 d 国内におけるイヤホン及びポータブルオーディオ機器の注意表示については、社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)デジタル家電部会傘下のオーディオネットワーク事業委員会でガイドラインが策定されている。

(2)実機調査

ア 聴覚閾値測定
(ア)イヤホンを使用して70デシベル程度の音量で音楽等を聴取するとき、周囲の音に対する聴覚感度は、イヤホンを使用していないとき(裸耳条件)に比べて、広い周波数にわたり30デシベル以上低下した。
(イ)密閉型や挿入型のイヤホンの方が、開放型やイントラコンカ型イヤホンよりも聴覚感度の低下が大きく、挿入型イヤホンの場合、最大65デシベルの感度低下がみられた。
(ウ)イヤホンで70デシベル程度の音量で音楽等を聴取している場合、携帯電話の着信音はほとんど聞こえないと思われる。(図11)
(エ)70デシベルを超えるような音量で音楽等を聴取している場合には、自転車のベルも聞こえないケースがあると考えられる。(図12)
(オ)今回の測定条件と測定結果から考えると、日常生活の騒音環境下で、80デシベルを超える音量で音楽を聴き、音楽に注意が向けられている場面では、乗用車のクラクションも聞こえるとは限らない。

グラフ

図11 携帯電話着信音のパワースペクトル例と挿入型イヤホン駆動条件の閾値との比較

グラフ

図12 自転車のベル音のパワースペクトル例と挿入型イヤホン駆動条件の閾値との比較

注)図の見方(図11、図12)
 図中の点線(×点)は、挿入型イヤホンで70デシベルの音楽を聴いた場合の聴覚閾値を示す。この聴覚閾値を超える音の成分があれば、その音が聞こえるものと考える。
 図11では、携帯電話及びPHSの着信音に聴覚閾値を超える音の成分がなく、この状態では着信音は聞こえないと考えられる。図12では、自転車のベル音の一部の音成分が聴覚閾値を超えているため、この状態であればベル音はなんとか聞こえると思われる。しかし、さらに大きな音で音楽を聴いた場合や、同じ音量でも音楽に注意が向けられている状態では、自転車のベル音を認識することは困難であるといえる。

イ 快適聴取レベル測定
(ア)73.2デシベルの騒音環境条件では、静寂条件に比べて、耳覆い型、耳載せ型、イントラコンカ型、挿入型いずれのイヤホンでも、快適と感じる音量が増大した。
(イ)静寂条件では、被験者の3分の1近くが60デシベル未満の聴取レベルを快適と感じたのに対し、73.2デシベルの騒音下では、95%が60デシベル以上、70%が70デシベル以上を快適と感じ、80デシベル以上とした被験者が34%に上った。(図13)
(ウ)周囲のうるささによる影響が最も小さかったのは挿入型イヤホンだが、それでも平均で5デシベルのレベル上昇がみとめられた。最も大きな影響を受けたのはイントラコンカ型イヤホンであり、レベルが平均で10デシベル上昇した。

グラフ

図13 ポータブルオーディオ快適聴取レベル(全イヤホン合計)

注)4機種のイヤホンについて、それぞれ41人の被験者により行った測定結果を合計したもの。

ウ 聞き取り調査
(ア)ポータブルオーディオやイヤホンの使用率、使用時間や使用場所等については、(1)のアンケート調査と同様の結果であった。
(イ)ポータブルオーディオ使用者36名中33名が「周囲がうるさい場合にはボリュームを上げる」と回答し、そのうち25名は「気付くと思ったより大きな音で聞いていた経験がある」と回答した。
(ウ)ポータブルオーディオ使用者で「できるだけ大きな音で聴かないように普段から注意している」と回答した24名のうち、3分の2の16名が「気付くと思ったより大きな音で聞いていた経験がある」と回答した。
(エ)屋外でのポータブルオーディオ使用時、車のクラクションや自転車のベルが聞こえなかった経験を持つ回答者が20%以上いた。

4 イヤホンの使用を取り巻く社会環境

(1)イヤホンの使用に起因すると思われる死亡事故等の発生

ア JR東中野駅での死亡事故
 平成19年12月、JR東中野駅で男子大学院生がホームで倒れており、死亡。イヤホンでラジオを聴いていて、後ろから進入してきた電車に気付かず接触したものと考えられる。
イ 大分市城東町の踏切での事故
 平成19年1月、大分県大分市城東町のJR日豊本線の踏切で、男子高校生が列車にはねられて重傷を負った。イヤホンで音楽を聴いており、警報音に気付かなかったらしい。

(2)イヤホンの使用方法に関係する法令等

ア 自転車運転中の使用規制
 東京都道路交通規則第8条では、車両等の運転者は「高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと。」と規定されており、これに違反した場合には、道路交通法第120条により、5万円以下の罰金に処せられる。
イ 警察庁「交通の方法に関する教則」の改正
 「自転車の安全な通行方法等に関する検討懇談会」において、自転車の通行ルール等に関する教則の見直しが検討され、平成19年12月にまとめられた報告書の中で「ヘッドフォンの使用等外部の音が十分聞こえないような状態での運転など、運転中に周囲の交通状況への注意がおろそかになるような行為をしてはならないこと」が示された。
 この報告書に基づき、「交通の方法に関する教則」が平成20年3月に改正される予定。
ウ 京都府「自転車の安全な利用の促進に関する条例」の施行
 平成19年10月に公布・施行された同条例において、自転車運転中のイヤホンの使用禁止を励行事項として規定。

(3)その他

ア Apple社に対する訴訟(アメリカ、2006年1月)
 「115デシベルの音量で毎日28秒間音楽を聴くと聴力が低下する可能性があることを示唆する研究結果が出ているにもかかわらず、iPodはそうした音量での再生が可能となっている。」として、ルイジアナ州在住の男性がApple社を相手取り、集団代表訴訟を起こした。2008年2月現在も係争中である。
イ iPodへの音量制限機能の追加(Apple社、2006年2月)
 ユーザーが自分のiPodの最大音量を設定し、それ以上の音量が出ないようにできるソフトウェアを追加した。ただし、当該ソフトウェアは新しい世代の製品にのみ対応し、古い世代の製品には対応していない。
ウ 自動音量制御機能の開発(Apple社、2007年12月報道)
 iPodの利用者がどの程度のボリュームで、どのくらいの時間聞いていたかを自動的に計算し、音量を徐々に下げる機能をApple社が開発し、特許を取得した。さらに、この機能では、iPodの電源が切られていた時間も計算し、再起動時に安全なレベルまでしか音量が上げられないようにする、とのこと。報道では、この新しい機能がiPodの新しいバージョンに搭載されるかもしれないとされている。

5 まとめ

(1)屋外等でのイヤホンの使用に伴う事故の危険性について

 今回、被験者を使った実機調査で、イヤホンの使用による周囲音に対する聴覚感度の低下を定量的に示した。イヤホンで70デシベル程度の音を聞いているとき、聴覚感度は広い周波数にわたり30デシベル以上低下し、挿入型イヤホンでは最大65デシベル低下した。
 この測定結果と各種の音の比較により考察すると、自転車のベルの音は聞こえない場合が十分想定され、状況によっては乗用車のクラクションも聞こえるとは限らないといえる。これは、アンケート調査で、自動車や自転車と接触した、もしくは接触しそうになったという回答が多かったこととも一致すると思われる。
 これらのことと、現実に屋外でのイヤホン使用による死傷事故が発生していることから、屋外でイヤホンを使用する行為に大きな危険が伴うことは明らかであるといえる。
 しかし、アンケート調査によると、ポータブルオーディオ、イヤホン使用者の多くが屋外で使用しており、特に歩行中の使用が多く、その使用率は70%を超えていた。また、イヤホンで音楽等を聴きながら自転車に乗っている人も多く、若い世代ほどその割合が高かった。
 従って、イヤホン使用者が、屋外での使用の危険性について十分に理解していない恐れがあるため、その危険性について周知・啓発する必要がある。
 また、あわせて、使用者以外の人に対しても、使用者が周囲の音に鈍感になっていることを知らせる必要があると考えられる。

(2)イヤホンの使用による聴覚障害の危険性について

 今回の実機調査において、調査対象としたイヤホン4種類すべてで、騒音環境条件では、静寂条件よりも快適聴取レベルが大きくなった。80デシベル以上の音を好んだ被験者は、静寂条件では5分の1以下であったのに対し、騒音環境条件では3分の1を超えていた。
 また、実機調査での聞き取りから、周囲がうるさい場合にはボリュームを上げる使用者が多いこと、その結果、気付かないうちに大きな音で聞いてしまっている場合が多いことがわかった。さらに、普段できるだけ大きな音で聴かないように注意している使用者でも、気付くと大きな音で聞いてしまっていることが多かった。
 アンケート調査で、大きな音を聞き続けると騒音性難聴になる危険性が高いことについて比較的認知率が高かったことや、騒音性難聴にならないための対策として「自分で音量を調節する」とした回答者が最も多かったことなどとあわせて考えると、大音量での聴取による危険性については、利用者にある程度理解されていると考えられる。
 しかし、普段気をつけている人でも意図せずに大きな音で聞いてしまっている場合があることや、音量を気にしないで使用している人も少なからずいることから、イヤホンの使用による聴覚障害等の危険性についても、使用者に対し、十分な周知・啓発活動を行う必要がある。

(3)イヤホン形状の違いによる危険性の差異について

 聴覚閾値の測定では、密閉型や挿入型の方が、開放型やイントラコンカ型に比べて閾値の上昇が大きかった。この差はイヤホンの遮音性の違いによるものと考えられる。仮にこの結果だけから判断すると、屋外等で使用する場合には、挿入型など遮音性の高いイヤホンはイントラコンカ型など遮音性の低いイヤホンよりも周囲の音が聞こえづらく、危険性が高いといえる。しかし、あくまでこれは同じ音量で聴取した場合の比較である。
 一方、快適聴取レベルの測定で示されたように、開放型やイントラコンカ型は、密閉型や挿入型よりも騒音環境下での快適聴取レベルの上昇が大きかった。つまり、開放型やイントラコンカ型では遮音性が低い分、周囲がうるさい場合にはより大きな音量で聴取してしまう傾向があり、それによって聴覚閾値が上昇することが推定される。
 従って、屋外等での使用を考えた場合、開放型やイントラコンカ型は、遮音性が低いからといって、密閉型や挿入型に比べて必ずしも安全だとはいえない。
 また、開放型やイントラコンカ型を使用している場合、密閉型や挿入型よりも、騒音環境下で大きな音で聴いてしまう危険性が高いため、騒音性難聴にならないよう、聴取音量等に十分に注意する必要がある。

〔参考資料〕

音のレベルの目安
120デシベル 飛行機のエンジンの近く
110デシベル 自動車の警笛(前方2メートル)
100デシベル 電車が通る時のガード下
90デシベル 騒々しい工場の中
80デシベル 地下鉄の車内
70デシベル 騒々しい街頭
60デシベル 普通の会話
50デシベル 静かな事務所
40デシベル 図書館
出典:環境規制法の解説(環境庁大気保全局編)