第78回 大賀 典雄 氏

3. 音楽家でありながらパイロット

−−しかしお2人ともジェット機のパイロットというのがすごいですよね。音楽家でありながらジェット機を操縦される方は大賀さんとカラヤンさん以外にいらっしゃるんでしょうか?

大賀:いや、それはいないんじゃないでしょうか(笑)。

−−ジェット機はいつごろから乗り始められられたんですか?

大賀 典雄3
大賀:この会社の役員になる前なので30代の前半からですかね。

−−それはアメリカで免許を取られたのですか?

大賀:いえ。私が自慢できるのは全部日本で試験を受けたということなんです。アメリカの試験官は「これができたらここまではいいよ。次はこれをやろう」というやり方なんですが、日本の試験官というのは省略するということを知らないので、免許取得は日本が一番難しいんです。ファルコンの三発の試験を釧路の飛行場で受けたときは、いきなり一万フィートまで急上昇し、万一そこで機体のガラスでも割れて中の気圧が外気と同じように低くなったら、という想定で、今度は千フィートまで急降下で降りてこなきゃいけないんです。試験をやってるのを知らない人が見ていたら「飛行機が墜落してる!」って思ったんじゃないでしょうか。

−−そう思ってもおかしくないですよね。

大賀:そういう過酷な試験をファルコンの双発と三発、それとサイテーションというジェット機の双発の3つの試験を受けたんですね。その他に、どんなに曇って視界がない日でも飛ぶためには計器飛行証明という免許が必要なんです。その免許を取るためには双発以上の試験を受けなきゃいけないんですが、計器飛行証明の免許を持たないと実際には何の役にも立たないんです。

−−試験を受けるには飛行時間何百時間以上とか必要なんですか?

大賀:何百時間操縦しないと試験を受けてはいけないなんてどこにも書いてないですよ。できればいいんですよ(笑)。だけど、相当飛んでなきゃできませんからね(笑)。

−−(笑)。

大賀:その上やっかいなのが、ジェット機にはレーダーが付いていて、それが非常に強い電波を出すんですね。レーダーを使うには郵政省(現在は総務省管轄)の試験を受けなきゃいけないんです。その試験を受けて初めて飛ぶことができるんですね。よくあれだけ多くの免許を取ったものだなと思います(笑)。

−−取得には長い時間がかかったんですか?

大賀:そうですね。最後の試験を受けたのが60歳を過ぎていましたから。

−−でも、お仕事や指揮者としての活動に加えてのことですものね。

大賀:私は普段夜中の2時頃起きるんですよ。2時から4時までの間に集中して色んな書物を読んだりするんです。これが一番頭にスムーズに入ると自分で信じているだけで、本当はどうなのかはわかりませんが(笑)。

−−それが何十年来の習慣なんですか?

大賀:もう習慣になっていて、不思議と2時になると今でも目が覚めちゃうんです。

−−免許は全部でいくつ取得されたのですか?

大賀:免許は7つ持ってるんです。

−−それはやはり夜中2時に起きて2時間毎日みっちり勉強して取られたんですか?

大賀:ええ。教官はみんな分厚い本を4冊ぐらいもってきて「これだけ読んでおいてください」って言うんですよ(笑)。やはり自分の人生の中で一番頭を使ったのが飛行機の試験でしたね(笑)。

−−(笑)。

大賀:あとは一級小型船舶操縦士の免許を持っているんです。

−−ええ!船舶ですか? それもまた大変な労力のかかることですよね。

大賀:一級船舶がないとヨットに乗って伊豆七島に行くのに、下田と大島を結ぶ線より外に出られないんですよ。ある意味ではこれが一番時間がかかりましたね。一級船舶の資格を取るために4週間ぐらい毎週土日に朝早くから夜遅くまで。それをやらないと試験を受ける資格がないんですよ。

−−ヨットも操縦されるんですね。

大賀:ヨットで西伊豆に行くためには絶対それをもってないと下田の沖で捕まってしまいます(笑)。それでCBSソニーの中にヨット部を作ったんですよ。考えてみたら本当に遊んでばかりいました(笑)。