韓国在住の外国人登録者数は1990年に5万人弱だったのが、20年後の昨年は92万人弱と約18倍に増えた。経済成長とグローバリズム進展に加え、国際結婚で韓国へ来る女性たちや外国人労働者の急増も大きな要因だ。韓国はこれまで単一民族意識が強いとされてきたが、04年に単純労働に従事する外国人の合法的受け入れを始め、今年から「結婚移民」の女性たちに二重国籍を認めるなど、近年は大胆な政策転換が目立っている。【ソウル澤田克己】
韓国全体の婚姻数のうち、国際結婚が占める割合は90年が1・2%だった。しかも、米国人や日本人の男性と韓国人女性の結婚が圧倒的に多く、韓国人男性と外国人女性は全体の0・2%にすぎなかった。
90年代半ばから韓国人男性と外国人女性の結婚が増え始めたが、00年までは多くても3%台。移民政策に詳しい薛東勲(ソルドンフン)全北大教授によると、92年の中韓国交樹立に伴って中国朝鮮族の女性が韓国人男性と結婚するケースが増えたことと、宗教団体主導で日本人女性が集団で韓国人男性と結婚したため増えたが、どちらも限定的な動きだった。
韓国の農村男性と中国や東南アジアの女性の結婚が急増した契機について、薛教授は、97年の通貨危機後に行われた大規模な規制緩和だと指摘する。この時、結婚仲介業に対する規制が撤廃されたため中小業者が乱立。00年代に入ってから、大手が手を出さない国際結婚の仲介に群がったのだという。この結果、04年以降は韓国全体の婚姻数の10%超が国際結婚となっている。
一方、経済成長に伴って韓国国内で低賃金の単純労働を嫌う傾向が高まったため、韓国政府は93年、日本を参考に「産業研修生」を制度化し、事実上の外国人労働者受け入れを始めた。だが、「研修生」名目で労働者を受け入れる制度には問題が多いとして、04年には「単純労働者」を認める政策に転換。ベトナムやタイなど15カ国と政府間協定を締結し、政府管理下で最長4年10カ月の就労を認める「雇用許可制」に移行した。
韓国が現在、受け入れている外国人労働者は約22万人。昨年7月に初めて期間満了を迎える人が出たものの約4割が帰国しなかったという報道もある。ただ、薛教授は「現状では雇用許可制をやめることは不可能だ」と、期間満了者を帰国させる努力を続けながら外国人労働者を受け入れていくしかないという見方を示す。
一方、韓国人の専門家も首をひねるのが、結婚移民にしろ、外国人労働者にしろ、大規模な受け入れに対する世論からの反発が大きくないことだ。
ソウル郊外にある国際移住機関(IOM)移民政策研究院の鄭基仙(チョンギソン)研究教育室長は「韓国人は単一民族であることに誇りを持っていた。だから、政府も多文化家族の子供たちが差別されるのではないかと心配したのだが、『移民受け入れも仕方ない』という考えが意外に増えている」と話す。
鄭室長は、農村での国際結婚がすでに20万組以上になったことの影響が大きいのではないかと指摘する。日本より親戚付き合いの範囲が広い韓国では、ソウル居住者でも一族内に国際結婚した人がいるケースが珍しくなくなってきたのだという。
韓国が外国人政策の転換に踏み切った背景について、多文化共生を専門とする山脇啓造明治大教授は「金大中政権(98~03年)、盧武鉉政権(03~08年)と人権重視の政権が続いたことが大きいだろう。また、国内市場が小さいため、97年の通貨危機後にグローバル化への対応を真剣に取らざるをえなかったという点も指摘できる」と話している。
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■ことば
今年1月施行。韓国籍取得時に、兵役を含む国民の義務を果たすことなどを条件に外国籍を放棄しなくてもよいとされた。主な対象は、結婚移民者や、幼い時に養子として国外に渡った人々。在日韓国人が日本国籍を取得した場合には二重国籍は認められない。
毎日新聞 2011年9月29日 東京朝刊