元毎日新聞記者の西山太吉さん(80)ら25人が、72年の沖縄返還を巡る日米間の密約を示す文書の開示を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は29日、国に開示を命じた1審・東京地裁判決(昨年4月)を取り消し、原告側の請求を退けた。青柳馨裁判長は密約と文書の存在を認める一方、「不開示決定(08年10月)の時点で文書は無かった」と判断。同決定までに文書が廃棄された可能性があると指摘した。
西山さんらは08年9月、沖縄返還に絡み日米高官が▽米軍用地の原状回復費400万ドルと米短波放送の国外移設費1600万ドルの日本による肩代わり▽沖縄返還協定の日本側負担(3億2000万ドル)を超える財政負担--に合意(密約)したことを示す文書など7点を開示請求。外務・財務両省は翌10月、「文書不存在」を理由に不開示とした。
高裁は、日米高官が密約の内容を記載した文書を69~71年に作成し、外務、財務両省が保有していたと認定。控訴審で国が新たに証拠として提出した外務省有識者委員会の報告書(昨年3月公表)が「広義の密約」を認めたことにも言及した。
その上で、有識者委の調査でも文書を発見できなかったとし、「その後に歴代の事務次官らから聴取するなど国の探索は網羅的で徹底しており信用性は高い」と指摘。「日本政府は肩代わりを国民に秘匿する必要性があったと考えられ、外務、財務両省は文書を通常とは異なる場所で、限られた職員しか知らない方法で管理していた可能性が高い」とした。
さらに「情報公開法の制定により、文書を公開してそれまでの説明が事実に反していたことが露呈するのを防ぐため、両省が同法施行前に、秘密裏に廃棄した可能性を否定できない」と述べた。
こうしたことから「(文書作成から三十数年以上経過した)不開示決定の時点で、両省が文書を保有していたとは認められない」と結論づけた。
文書存在の立証責任に関しては「原告側が過去のある時点で文書が作成されたことを証明した場合、国が廃棄を立証しない限りは文書保有が続いていると推認される」との1審判断を踏まえつつ、密約文書の特殊性から「保有は推認できない」とした。【和田武士】
・密約文書の開示と慰謝料支払いを命じた1審判決を取り消す
・国は過去に密約文書を保有していたと認められるが、現存しない。秘密裏に廃棄したか、保管外にした可能性を否定できない
・文書を発見できなかったとする10年の外務、財務両省による調査は信用できる
毎日新聞 2011年9月29日 21時01分(最終更新 9月30日 1時01分)