説明会であいさつに立ったシャープ執行役員AVシステム開発本部長の寺川雅嗣氏は、「アナログ停波後のテレビ市場は停滞気味。3Dテレビやスマート化など、さまざまな試みで活性化しようとしているが、今回は一度テレビの本質に戻り、改めて臨場感や実物感を追求しようという試み」と説明する。
ICC 4K 液晶テレビは、60インチ以上の画面サイズを想定している。すでに60インチ以上の製品も珍しくはないが、画面が大きくなると視野に占める割合が増え、「画面から2〜3メートルという通常の視聴距離で“臨場感”が生まれることが分かった」という。一方、映像がきめ細かい(精細)になると人は“実物感”を感じるが、60インチクラスになると1980×1080ピクセルのフルHDを表示しても解像度は不足するという。「60インチ超で精細度を感じるには、4K×2K(3840×2160ピクセル)が必要だ」(寺川氏)。
しかし、4K×2Kの解像度を持つコンテンツはまだほとんど存在しない、このためI3研究所のICC(Integrated Gongnitie Creation)を採用し、現在のフルHDコンテンツをアップコンバート。「光クリエーション技術」をうたうICCによって映像の精細感を増すとともに、奥行きや立体感が与えられ、物体の存在感すら感じる映像になる。「テレビのさらなる進化を促すためには新しい価値が必要だ。新しい映像表現ができる製品を作り上げてこそ、新しい液晶テレビといえる」(寺川氏)。
i3研究所の近藤哲二郎社長は、実際の処理について多くを語らなかったが、従来のアップコンバート技術とICCではアプローチが違うと指摘する。既存の技術は、4KパネルにフルHDをアップコンバートして映し出す際、4Kカメラで撮影した映像を予測し、それに近づけるのがゴール。「では、4Kカメラで撮影した映像信号を4Kテレビに映し出せば、自然の画と同じになるかといえば、そうではない」(近藤氏)。
“光クリエーション技術”というように、ICCは光とそれを受け取る人間の視覚認知過程に着目した。「カメラで撮影するのは、光の世界を電気信号に置き換えること。では、それをいかに戻すのか。物体に反射した光を目でとらえるときの刺激を再現すればいい」。ICCは、そのためのルックアップテーブル(データベース)を持ち、映像を置換する。その結果、ディスプレイの映像でも自然と同じような見方ができるという。
例えば人間が景色を見るとき、そこにある木や山に反射した光が網膜に刺激を与える。さらに脳の命令によって目は対象物を追いかけ(Look)、ピントを合わせる(Watch)。さらに脳内で対象物同士の関係性を合成し、それぞれの位置関係などを含めた認識(See)が可能になるという。
ICCで処理した映像では、これと同じことができる。桜の木に目を向ければ(Look)、しっかりとピントが合い、舞い散る花びらの1枚1枚まで見える(Watch)、並木の位置関係が自然に認識できて奥行きを感じる(See)。「ディスプレイが60インチクラスまで大きくなり、対象物を目で追うこと(Look)が可能になった。楽に認知できるということは、脳の負担も少ないということだ」(近藤氏)。
シャープとI3(アイキューブド)研究所は、映像信号処理による高画質化だけでなく、パネルやパネル制御技術を組合せた高画質テレビを作り出すために共同開発を進める。ICCはすでにLSI化されているが、単にテレビに組み込んだだけでは良い結果を得られないと寺川氏。「こうあってほしいという信号を入れても、思った光が出てこなかった。逆にパネルが進化したとき、その力を引き出すため信号処理にフィードバックしなければならない。両社の技術を統合したものを作り、商品にしていく」(同氏)。
シャープでは、「ICC 4K 液晶テレビ」の試作機を10月4日に幕張メッセで開幕する「CEATEC JAPAN 2011」の同社ブースに参考出品する予定だ。
■関連記事
4K×2Kに舵をきるテレビとプロジェクター、IFA報告
2Dで実現する立体映像、シャープが「ICC」を採用する理由
4K×2Kがやってくる
【シャープ】に関連する最新記事
【4K2K】に関連する最新記事