2010年10月26日 (火)アジアを読む 「躍進する韓国経済 FTA戦略」

(VTR)
自動車や液晶テレビなど、日本が得意とする分野で、今、韓国メーカーが躍進しています。かつて日本企業が上位を独占していた記憶用半導体DRAMの市場では、1位と2位の韓国のメーカーだけで世界市場の6割を占めています。韓国メーカーの国際競争力を支えているのがFTA・自由貿易協定です。韓国は、ASEANに続いてことし1月から成長著しいインドとのFTAをスタートさせました。来年からはEUとのFTAも始まります。世界中に張り巡らされたFTA網で、韓国製品の価格競争力を高めています。韓国のFTA戦略を読み解きます。

     「躍進する韓国経済 FTA戦略」

ここからは出石 直(いでいし・ただし)解説委員とお伝えします。
Q1、韓国の経済、好調のようですね。

A1、韓国もリーマンショックの波を受けましたが、いち早く危機から脱却してV字回復を遂げています。去年のGDP=国内総生産の成長率も、各国がマイナスとなる中で0.2%とプラスを維持しました。今年はさらに高い成長が期待されています。

Q2、最近は、海外に行っても韓国の家電製品や自動車が目立ちますね。

A2、日本では韓国製の自動車はほとんどみかけませんが、日本はむしろ例外です。世界中どこに行っても韓国車は日本車と肩を並べるくらい、場所によっては韓国車の方が多いところも珍しくありません。

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こちらをご覧ください。2010年第2四半期の記憶用の半導体DRAMの世界シェアでは、韓国のサムスン電子が35.4%でトップ、2位も韓国のハイニックスで、この2社だけで6割近いシェアを誇っています。DRAMはかつては日本のメーカーが上位を独占していた分野です。

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液晶テレビでもサムスン電子が20%近いシェアを占めてトップ、2位も韓国のLG電子です。

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さらに携帯電話の市場でも、韓国メーカーがフィンランドのノキアに迫り、2位と3位につけています。

Q3、日本企業はすっかり韓国メーカーに抜かれてしまった形ですが、韓国経済が好調な原因は何でしょうか?

A3、輸出が好調だからです。韓国の経済は輸出に大きく依存しています。GDPに占める割合は45%ほど。日本は15%程度ですから、日本の3倍も輸出に依存しています。ウォン安が続いているために、韓国製品は価格競争で優位に立っており、内需が増えなくても好調な輸出が韓国経済を元気にしているのです。それに何と言っても韓国政府の積極的な対外戦略、具体的にはFTA戦略です。

Q4、FTAというのは最近良く耳にしますが、どのようなものなのでしょうか。

A4、Free Trade Agreement 自由貿易協定と訳されます。

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自由な貿易を促進しよう、つまり互いの関税をなくしたり、非関税障壁と呼ばれる様々な制限をなくしたりすることによって、互いの貿易を盛んにしようというものです。

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例えばEUは10%の関税を自動車に課しています。日本から1万ユーロの自動車を輸出すると、EUでは1000ユーロの関税がかかって1万1000ユーロになってしまいます。この関税がなくなれば価格が下がって輸出はしやすくなります。できるだけたくさんの国とFTAを結んで輸出をしやすくしよう、輸出を増やして経済を元気にしようというのが韓国のFTA戦略なのです。

Q5、韓国は、どのくらいの国とFTAを結んでいるのですか。

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A5、2004年にチリと結んだのが最初です。その後、シンガポール、ASEANと続き、
ことし1月からは成長著しいインドとのFTAがスタートしました。すでにFTAが始まっている国は、ASEANなどの加盟国も数えますと16か国あります。さらにすでに署名は終わっていて発効を待っているのがEU、アメリカ、ペルー。このうちEUとのFTAは来年から段階的にスタートすることになっています。このほか現在、交渉中、あるいは検討中の国も合わせますと、ご覧のように世界のほとんどすべての地域を網羅しています。
日本をはるかに上回るスピードで、各国とのFTAの締結を進めているのです。各国とFTAを結ぶことによって貿易圏を広げ、輸出の拡大を図っているのです。

Q6、FTAの拡大が好調な経済につながっているのですね。

A6、その通りです。しかも韓国のFTAは非常に戦略的だと思います。

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まず地域的に偏りがない。世界のほぼすべての地域を網羅しています。さらにインドや中国、ASEAN、中南米など新興国と呼ばれている国、これから大きな成長が期待できるところをターゲットにしています。さらに中東やペルー、チリ、オーストラリアなど資源大国も対象になっています。韓国は日本同様、資源のほとんどを輸入に頼っています。輸入関税がなくなることは資源確保にも有利です。

Q7、日本にとっては大きな脅威ですね。

A7、韓国とFTAを結んで、日本とは結んでいない国と貿易をする場合、日本は、関税のかからない韓国製品と価格競争をしなければなりません。また韓国にも関税のかからない製品が入ってきますから、韓国でも日本製品が売れなくなるというマイナスもあります。

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JETRO・日本貿易振興機構アジア経済研究所の奥田聡(さとる)主任調査研究員が試算したところ、韓国とEUの間のFTAが発効すれば、EU市場で日本の自動車が韓国車に取って代わられるなど日本からEUへの輸出が7億6600万ドル減る恐れがあるということです。また韓国市場にも、EUから関税のかからない機械や電気製品などが入ってくるので日本製品が売れなくなり、韓国への輸出も17億7500万ドル減る見通しだということです。日本が受ける影響は、初年度だけでもあわせて25億ドルあまりに達するということです。一方、韓国のEU向けの輸出は60億ドル増えると試算されています。EUも韓国向けの輸出を100億ドル増やします。双方にとってメリットがあるというわけです。その分、日本からの輸出が影響を受けるのです。

Q8、日本でもいろいろな国とFTAを結ぼうとしていますが、国内に反対も強いと聞きます。

A8、日本はFTAではなくEPA・Economic Partnership Agreement経済連携協定という言葉を使っています。チリ、タイ、メキシコ、インドネシアなどとのEPAはすでにスタートしていますが、韓国に較べるとペースが遅いことは事実です。日本国内の反対、特に価格競争力の弱い農産物が被害を受けるという声が強いからです。

Q9、しかし農産物が被害を受けるのは韓国も同じですよね。

A9、例えば韓国とEUのFTAでもコメは対象外となっています。トウガラシやニンニクなどの関税は現行のまま据え置かれ国内産業の保護を図っています。韓国とアメリカとのFTAでは、アメリカ産牛肉の輸入再開をめぐって韓国で大規模な反対運動が起きました。どの国でも、FTAというのは賛成ばかりではありません。韓国政府は、特別融資制度を作るなど国内農業保護策をとっています。

Q10、国内に反対があっても、積極的にFTAの拡大を進めているのはどうしてですか?

A10、韓国の人口は5000万人、日本の半分以下です。国内の市場だけでは経済は立ち行きません。北には中国、東には日本と大国のはざまにあって、ぼっとしていると呑みこまれてしまうという危機感も非常に強いものがあります。また韓国は、アジア通貨危機の際、国家が破産するデフォルト・債務不履行の寸前まで追い込まれIMFから緊急支援を仰いだことがあります。その時の痛い経験が危機感につながっています。「国際競争の中で韓国経済が生き残っていくためにはFTAしかない」という強い覚悟と決意にもなっているように思います。厳しい国際競争に晒されているという点では日本も同じです。韓国のFTA戦略には学ぶべき点も多いように思います。

投稿者:出石 直 | 投稿時間:19:12

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