全日空が世界で初めて導入する最新鋭旅客機ボーイング787の納入1号機が羽田空港に到着した28日、別の全日空便が高度約1万2500メートルの上空で「背面飛行」していたことが発覚した。専門家は「一歩間違えれば大惨事だった」と指摘するが、機体がここまで傾いた事実について、全日空側はトラブル翌日に把握しながら公表していなかった。同社の安全への姿勢が問われそうだ。
国土交通省運輸安全委員会の会見で「背面飛行」が明らかになったことを受け、全日空の長瀬真副社長とエアーニッポンの内薗幸一社長は同日夕、急きょ国交省で記者会見。質問は事態をいつ把握したかに集中したが、全日空側が3週間前の「7日午後」と認めたのは、会見開始から約1時間後だった。
全日空によると、副操縦士がドアスイッチを動かそうとして誤作動させたラダートリムコントロールスイッチは、尾翼にある方向舵(だ)を動かし機首の向きを変えるもの。同社は「単純ミス」と説明するものの、二つのスイッチは十数センチ離れている。同社は再発防止策として、操縦士らに「スイッチは目で確認した上で操作する」などの指導を徹底しているという。
機体の傾きは旋回で上下30度、機首はプラス20度からマイナス10度の範囲で動かすのが通常というが、今回トラブルを起こした140便は左側への旋回が131.7度、機首の角度は35度で、いずれも大きく逸脱していた。さらに傾くと翼の揚力が下がり失速していた恐れもある。安全委のある委員は「機体は一時、制御不能に陥っていた」と明かし、「低い高度で発生していたら大変な事になっていた」と深刻さを強調する。
元全日空機長(68)も「30秒間で2000メートル近くという降下率は、通常あり得ない。機体にかかった圧力は損壊ギリギリだったのではないか」と指摘。さらに「静岡付近は日本の空のメーンロード。時間帯によっては他の航空機と衝突する危険もあり、軽傷2人の被害ですんだのは奇跡だ。スイッチの誤操作はあり得ないミスだが、単純なだけに再発防止は難しい。確認を徹底するしかない」と話す。
航空評論家の鍛治壮一さんは「民間大型機でこれほど背面飛行に近づいた例は聞いたことがない。機長が平衡感覚を失って墜落していた危険性もあり、今回は不幸中の幸いだ。過去にも同じような誤操作がなかったか調べ、何例もあるようなら操縦室の設計も考えなければいけない」と話す。【川上晃弘、石川淳一、喜浦遊】
毎日新聞 2011年9月28日 22時59分(最終更新 9月29日 0時55分)