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野田政権が、東日本大震災の復興策を盛り込む第3次補正予算の編成について、その財源案をまとめた。増税額を11.2兆円としたうえで、歳出の見直しや政府資産の売却でまかなう金[記事全文]
民主党は、政権交代を果たした2年前の総選挙のマニフェストに「企業・団体献金禁止」を掲げていた。だが、そのための法案はちっとも出さない。だから、なおさら小沢一郎元代表の資[記事全文]
野田政権が、東日本大震災の復興策を盛り込む第3次補正予算の編成について、その財源案をまとめた。
増税額を11.2兆円としたうえで、歳出の見直しや政府資産の売却でまかなう金額を当初計画から2兆円増やし、増税を9.2兆円に抑えることを目指す。法人税の減税を12年度から3年間見送る一方、消費への影響を考えて所得税の増税は13年1月から、住民税増税は14年6月からに遅らせる。
「増税外」の2兆円上積みでは、日本たばこ産業(JT)の政府保有株をすべて売却することをかかげ、政府が持つ資源開発会社の株も売却候補とする方針だ。それぞれ国内葉タバコ農家の保護策やエネルギー政策に波及する問題である。所得税や住民税の増税開始を先に延ばす必要があるかどうかを含め、詰めるべき課題が少なくない。
ただ、財源の概要を固めないと補正予算の編成も遅れ、被災地の復興に影響が出かねない。与野党はすぐに協議を始めるべきだ。「震災復興に伴う負担増を将来の世代に先送りしない」という政府の方針に沿って、さらに工夫の余地はないか、知恵を出し合ってほしい。
気になるのは野党、とりわけ自民党の姿勢である。
石原伸晃幹事長は衆院予算委員会で、「現役世代だけで復興費用を負担するべきなのか」と疑問を呈した。再建する道路や港湾、防波堤などからは将来の世代も恩恵を受ける。60年かけて返済する通常の建設国債を発行して将来世代にも負担してもらえばよい、という考え方だ。
自民党からは同様の主張が相次いでいるが、日本の財政難を思い起こす必要がある。国債を含む債務残高は国内総生産の約2倍に達し、欧米各国より深刻だ。借金頼みの財政運営は限界に来ている。政府債務問題が世界経済の焦点となる中、日本の財政規律も問われている。
「復興のために発行する国債は従来の国債と区別して管理する」「復興債の償還(返済)の道筋については第3次補正予算の編成までに検討する」。民主、自民、公明3党はすでに、こうした内容を盛り込んだ合意文書をかわしている。その趣旨が「負担を将来につけ回さない」ことにある点は、石原氏もよくわかっているはずだ。
被災地の復興を最優先に、与野党が協力する。そのために財源にもきちんと向き合う。当然のことだ。石原氏の主張が、臨時増税への反対論が根強い民主党を揺さぶることを狙ったとすれば、あまりにさびしい。
民主党は、政権交代を果たした2年前の総選挙のマニフェストに「企業・団体献金禁止」を掲げていた。だが、そのための法案はちっとも出さない。
だから、なおさら小沢一郎元代表の資金管理団体・陸山会をめぐる有罪判決への腰が引けた態度は許し難い。民主党への失望感を倍加させる。
3人の元秘書に有罪判決が出た以上、野党が小沢氏の証人喚問を求めるのは当然である。
だが、野田首相は「政治家の出処進退は本人が判断する。証人喚問は国会で議論いただく。司法の判断へのコメントは差し控えたい」と繰り返す。自民党政権と何も変わらない「言い逃れ原則論」を並べるだけだ。
さらに、小沢氏の刑事裁判が近いことを理由に挙げているのも、法廷で問われる刑事責任と、国会議員が果たすべき政治責任を、混同しているとしか思えない。
秘書が逮捕されてから2年半あまり、ずうっと国会での説明を拒み続けてきておいて、この言い分は通じない。
公共事業の談合で「天の声」を出した。受注希望のゼネコンから献金を集めていた……。
判決が指摘した数々の問題は、政治と行政の公正をゆがめるもので、重大である。小沢氏の政治力なしに、秘書が勝手にできることなのか。
首相は小沢氏にきっぱりと国会での説明を求めるべきだ。
さもなければ、首相が築いた「挙党態勢」は、実は「疑惑隠し」のためだったのか、と皮肉られても仕方あるまい。
「秘書3人が有罪となり、責任をとらなかった政治家を思い出せない」。自民党の谷垣禎一総裁の発言に、多くの人々がうなずいている。
野党の攻勢は強まり、与野党協議の行方も怪しくなりかねない。それで政策を遂行できなくなるのなら、せっかくつくった「挙党」の意味がない。
大震災や原発事故への対応に総力を注ぐべき時に、こんな問題を国会で取り上げていること自体が情けない。民主党は「たるんでいる」の一言に尽きる。
一方で野党には、冷静かつ理性的な対応を求める。
小沢氏の問題を追及するのはいい。だが、「政治とカネ」を理由に、政治をまたも迷走させてはならない。震災対応の第3次補正予算案だけでなく、経済対策や社会保障と税の一体改革も滞らせないでほしい。
追及の先に目指すべきは衆院解散ではなく、山積する課題を解決していく国会論戦でなければならない。