東日本大震災の復興費をまかなうための増税をめぐり、ようやく政府と民主党の合意案ができた。納税者の負担をできるだけ軽くする努力は当然必要だが、欧州の債務問題に端を発した昨今の世界的な市場の動揺など、財政をとりまく環境にも十分、注意する必要がある。スピード感も大事ということだ。焦点は野党との合意形成に移る。迅速で建設的な議論を与野党双方に求めたい。
増税の対象は、所得、法人、住民の各税にたばこ税を加え、所得税の上げ幅の圧縮を図った。開始時期は所得税を13年1月とする一方で、増税反対派に配慮し、住民税を政府案の13年6月から1年先送りした。
増税の開始時期はできるだけ早い方がよいというのが私たちの主張だ。「景気が回復してから」という意見がよく聞かれるが、いつその時期が来て、いつなら増税できるのかが分からないのでは、財源としてあてにすることはできない。
むしろ、復興需要による景気の押し上げ効果が大きいうちに増税した方が影響は小さくてすむだろう。復興作業と同時進行での増税ならば、目的がはっきりして納税する側としても納得しやすい。
所得税の増税期間を当初の「10年」から「10年を基本」に変更し、長期化に含みを持たせたことも心配だ。期間を長くすれば、その分、年度ごとの負担は軽くなるが、今の子どもたちが大人になっても増税が続いているというのでよいのだろうか。
高齢化と労働人口の減少により、将来世代の負担増はすでに避け難いものとなっている。可能な限り、追加をなくすことが今の政治を担う者たちの任務というものだ。
一方、増税額をさらに圧縮するため、政府が保有する株式などの売却を拡大し、税外収入を2兆円上積みすることも目指すという。
単年度の増税額を抑える策としては、復興債の償還期間を赤字国債なみに延ばす案も、野党内で根強い。
だが、ここで出発点に戻って考えてみたい。今回のような災害に対する歳出は、やむを得ない緊急事態ということで赤字国債や建設国債を発行してもよさそうなものだ。それができないのは、すでに震災前の時点で、国の借金がとてつもなく大きくなってしまったからである。
多額の財政支出を必要とする不測の事態は今後も起こりうる。それを考えれば、追加の借金は早期に完済することを原則とすべきだろう。
長期金利が1%近辺という歴史的低水準にとどまり続ける保証もない。財政・金融面においても、「想定外」を排除し、早め早めに手を打つのが責任ある政治だ。野党も当然、その一翼を担う。
毎日新聞 2011年9月29日 2時32分