東日本大震災の復興財源などを賄う臨時増税の規模を巡り、政府・民主党の説明が迷走している。政府・民主党は27日に増税以外の財源を2兆円上積みして7兆円とし、増税額を9・2兆円に圧縮する方針で合意したが、28日に政府内から増税圧縮に慎重な発言が出たため混乱。野田佳彦首相と民主党の輿石東幹事長らが同日急きょ会談し、最終的な増税額は9・2兆円とする方針を確認したが、増税以外の財源を2兆円上積みできる保証はない。【小倉祥徳、野口武則、野原大輔】
「2兆円は将来の予備費ということだ」。五十嵐文彦副財務相は28日朝、記者団に対し、増税以外の財源上積みが必ずしも増税圧縮につながらないとの認識を示した。27日の政府・民主党の合意は、増税以外の財源を政府案の5兆円から7兆円に上積みし、増税規模を11・2兆円から9・2兆円に圧縮するとした。一方、合意では、原発事故被災地の除染などの費用が膨らんだ場合、上積み分を充てる方針も示されており、五十嵐氏の発言はこれを踏まえたものだ。
だが、党側は増税圧縮を否定するような発言に不快感を示し、28日昼に首相も交えた会談を急きょ国会内で開いて認識をすりあわせた。結局、当初は11・2兆円で増税の制度設計を行い、増税以外の財源上積みが実現した段階で増税を9・2兆円に圧縮すると説明することで収拾を図った。増税法案は政府案通りに準備しつつ、党主導の「増税圧縮」も強調する苦し紛れの折衷案といえる。
ただ、2兆円上積みのハードルは高い。上積みの内訳は、日本たばこ産業(JT)の全株売却▽エネルギー特別会計の保有株売却▽財政投融資特別会計の剰余金活用。だが、JT株をすべて手放せば、JTに対する国産葉タバコ買い取りの義務付けが難しくなり、葉タバコ農家の地元議員の反発は強い。株式市場では「JTの経営自由度が高まる」との期待感の半面、「復興財源確保のたばこ増税が経営を圧迫する」との見方も出て、28日のJT株価終値は前日比2・9%下落し、狙い通りの株式売却益を確保できるとは限らない。
また、エネルギー特会が株式を保有する企業は、国際石油開発帝石や石油資源開発などで、海外の石油・天然ガスの鉱区を取得し、開発・生産を行っており、日本のエネルギー政策の一翼を担う。株式を売却すれば、資源国に「日本政府の権益確保の意欲が低下した」と受け止められかねない。国際的な資源獲得競争が激しくなる中、日本の権益維持に支障が出る懸念もある。
毎日新聞 2011年9月29日 東京朝刊