あわやバラバラ！急降下全日空機が背面飛行

　今月６日、浜松市沖の上空で高度約１万２５００メートルを飛行中、約３０秒間に約１９００メートル急降下するトラブルを起こしていた那覇発羽田行き全日空１４０便が一時、ほぼ上下逆さまの背面飛行をしていたことが２８日、国土交通省運輸安全委員会の調査で分かった。旅客機が背面飛行状態に陥ったのは日本の航空史上初。ひとつ間違えれば大惨事につながる危険な状態だった。

　１１７人の乗客乗員を乗せた旅客機が、小型機のアクロバット飛行で披露される「背面飛行」の状態に陥っていたことが発覚した。

　定例会見した安全委・後藤昇弘委員長によると、フライトレコーダー（飛行記録装置）の解析から当時の状態が明らかになった。機体は高度約１万２５００メートルから最初に少し右に傾いた後、左に傾きながら約１９００メートル急降下。機首は最大３５度、下向きになった。左への斜度は最大１３１・７度となり、背面飛行に近い状態となった。傾きが９０度を超えた時間帯は約５秒間。副操縦士が機体を立て直し終えた時、機首の方位は当初の進行方向とはほぼ反対だった。安全委は、立て直しの操作にも問題がなかったかを調べている。

　急降下の間、機体の内外には最大で地上の２・６８倍の重力がかかっていた。乗客乗員１１７人は一時、頭を下にした状態で座席に着いていたことになり、調理室にいた客室乗務員２人が軽傷を負った。

　１４０便は全日空グループのエアーニッポンが運航。全日空の長瀬真副社長は２８日、国土交通省で会見し「お客さまに多大なご迷惑とご心配をかけ、深くおわび申し上げます」と謝罪。乗客１１２人のうち１０２人と連絡が取れ、うち６人が首の痛みなど体調不良を訴えたと明らかにした。

　両社は、トラブル翌日に乗員の話や飛行記録から「通常を大きく逸脱した飛行姿勢」（エアーニッポンの忍田俊史副社長）と把握していたが公表していなかった。

　後藤委員長は「遠心力がかかっていたため、乗客への影響が少なかったのでは。夜間で外の景色が見えず、背面飛行に気付かなかった可能性もある」と説明。安全委の知場勝・首席航空事故調査官は「高度があったから良かったが、低ければ（機体の状態を）回復できなかった可能性もあった」とし、ひとつ間違えれば大惨事となった可能性もあったことを指摘した。旅客機が背面飛行状態に陥った例は世界では数件報告され、墜落事故を招いたこともあったというが、日本では初のケースだという。

　航空ジャーナリストの青木謙知氏は「旅客機は戦闘機などと違い、強い加重に耐えられるように設計されていない。今回は２・６８Ｇだったが、３Ｇを超えていれば機体が破損した可能性もあった」と話した。

　◆全日空機急降下　６日の那覇発羽田行き全日空１４０便ボーイング７３７―７００（乗客１１２人、乗員５人）は同午後１０時５０分ごろ、浜松市沖で高度約１万２５００メートルを飛行中にトラブルに見舞われた。機長（６４）がトイレから操縦室に戻る際、副操縦士（３８）が操縦室のドアの解錠スイッチと、方向舵の調整スイッチを取り違えて操作したため機体が傾き、約３０秒間に約１９００メートル急降下した。ドアの解錠はスイッチレバーを左に切り続けると作動する構造のため、副操縦士は誤って方向舵を左に操作し続けたものとみられる。２つのスイッチは十数センチ離れている。