東京都暴力団排除条例が10月1日から施行される。注目されるのは、水面下でつながっていると言われてきた芸能界と暴力団の関係がどこまで断ち切れるか。条例で何がどう変わるかを追った。
暴力団幹部との親交で島田紳助さん(55)が芸能界を引退して23日で1カ月がたった。その前日の22日、吉本興業の元女性社員が島田さんと同社に損害賠償を求めた暴行事件の訴訟で和解が東京高裁で成立した。
紳助さんは2004年10月、大阪の放送局の控室で、女性社員に「口の利き方が悪い」と怒鳴り、髪をつかんで壁に頭を打ちつけ、つばを吐くなどして約2カ月のけがを負わせた。
昨年9月の一審で東京地裁判決は、島田さんと同社に連帯して約1000万円を支払うよう命じていたが、具体的な慰謝料の額などは、明かされなかった。
「長期化していた裁判が、急転した背景には、『暴力団排除条例』の施行前に、少しでも心証を良くしたいという思惑があるのではないか」と指摘するのは芸能リポーター。
では、その条例にはどんな狙いがあるのか。『警視庁捜査第四課マル暴刑事』(音羽出版)の著者で、元警視庁広域暴力団対策官や竹の塚警察署長を務めた暴力団対策のエキスパートの狩集紘一氏は言う。
「これまで芸能界と暴力団との関係は“持ちつ持たれつの関係”だった。タレントは芸能プロダクションで仕事を取り、指示されれば、暴力団の席でも出演しなければならなかった。契約も口約束などいい加減な実態であった。しかし、これからは芸能プロダクションが暴力団排除条項を導入して、きちんとした契約をすることによりタレントもプロダクション救われます」
特に興業面ではこれまで慣例化されていた暴力団関係者の興業に利益供与すれば芸能プロダクションだけでなくタレントも処罰されることもある。現在もASF(反社会的勢力)対策アドバイザーを務める狩集氏は暴力団対策のポイントを次のように指導している。
(1)暴力団主催のコンサートや演劇などに芸能プロダクションやタレントは協力してはならない
(2)暴力団名を隠ぺいして他人の名義を利用して興業はできない
(実は現在このケースが多く、具体的には暴力団が他人の名義でコンサートを開くことが多かったが、今後できなくなる。その場合タレント、芸能プロダクションは協力してはならない)
(3)花火、興業等の祭礼等の主催者は、行事の運営を暴力団関係者に関与させない
(4)暴力団にチケットを売ってもらい、その代金を暴力団にバックするのは利益供与にあたる
(5)興業先に出かけて、初めて暴力団主催のイベントだったことが判明した場合も、今後は所属タレントとの契約書の暴力団排除条項を基に契約を解除できる
狩集氏が指摘するように、この条例はタレントを保護する条例でもある。芸能プロダクションに所属するタレントは弱い立場にあり、指示されれば暴力団の席に出演しなければならなかった。これからは断ることができるのだ。
一方で、今後は暴力団組長の誕生パーティー、結婚式などに出演してギャラをもらうと大きな問題になる。
「タレント、芸能プロダクションが暴力団の行事に出演させて相当のギャラを受け取ることは、暴力団の活動を助長し、運営に協力することになり、条例に触れることになります」(狩集氏)
暴力団幹部とのツーショット写真だけでも、紳助さんと同じ道をたどることを覚悟すべきだろう。