How to overcome depression
ball うつ病の症状と経過 ball



 うつ病には、さまざまなデータがあります。たとえば、生涯のうちに1度はうつ病にかかる人の割合で考えると、10パーセントから20パーセントにもなる、と言われています。つまり、5人に1人から10人に1人という割合です。
 「うつ病は心のカゼ」という言葉も、それだけありふれた病気だという意味でなら、まさにそのとおりだと言えるでしょう。
 しかし、カゼと比べると、うつ病は、長い治療期間が必要となります。重くなると、仕事や学業など、社会生活に与える影響も比べものにならないくらい大きくなります。
 さらにうつ病には、もっとも重い症状である「自殺」があります。適切な治療を行わないと、10人に1人は自殺してしまう、という統計値もあります。
 「うつ病は心のカゼ」とは言っても、適切な治療がもっとも必要な病気の1つだと考えるべきでしょう。

 精神医療は、日進月歩です。以前は治りにくかった1部のうつ病でも、治療成績がかなり良くなってきました。うつ病患者の80パーセントは、1年以内にほぼ発病前の状態に戻ることができます
 また、およそ半数の人が陥ると言われていた「再発」(再燃)についても、さまざまな治療を併用することで、かなり防げるようになってきています。

 それではまず、うつ病の症状について、細かく見ていくことにしましょう。

ball うつ病の主な症状
1.抑うつ(精神的な苦痛)
  気分が落ち込む
ゆううつである
気分が晴れず、すっきりしない
悲しい、さびしい、むなしい、泣けてくる
不安が頭から離れない
過去や将来にとらわれて暗くなる
朝の気分が悪い(日内変動
イライラする、あせる、いたたまれなくなる(焦慮焦燥感
感情が抑えられない、または、感情がわいてこない(感情認識障害
死や自殺について考える、死にたくなる、自殺の方法について調べる(自殺念慮
実際に自殺しようとする(自殺企図
2.精神運動抑制(精神運動制止)
  考えがまとまらない
アイデアが浮かばない
何かをしようという気になれない(無気力
決断できない
仕事や家事に集中できない(集中力低下
誰とも会いたくない
出かける気になれない
誰かと話すことが苦痛に感じる
動くことがつらく感じる、家に閉じこもる、1日中寝ている
3.思考と認知のゆがみ
  何でも自分が悪い、または、他人からそう思われていると感じる(自己関連づけ自責の念
自分の能力が劣っていると思う、劣等感が強い(極端に低い自己評価
何でも悪い結果になると感じる、または決めつける(悲観的思考
成功してもまぐれだとしか感じない、次は失敗すると思う
少しでも不幸なことがあると、すべて不幸だと感じる(過度の一般化
うまくいったか全然ダメかどちらかしか認めない(二分割思考両極端な思考
自分は貧乏になったと思いこむ(貧困妄想
悪いことの責任はすべて自分にあると思いこむ(罪業妄想
悪い病気にかかっていると思いこむ(心気妄想
4.身体症状
  朝早く目がさめる(早朝覚醒)、途中で目がさめる(中途覚醒)、寝つけない(入眠困難)、眠りが浅いなどの「睡眠障害」
疲れがとれない、疲労感が続く、体がだるい
食欲や性欲が低下する、体重減少がある
頭痛、腰痛、頭重感、肩こり、首の痛み
めまい、立ちくらみ、耳鳴り
息苦しい、胸が圧迫される、声が出にくい、胸が苦しい、動悸、息切れ(循環器症状
手足がしびれる、力が入らない
吐き気、腹痛、便秘(消化器症状
全く動けず、意識も希薄となる(うつ病性昏迷
 うつ病では、上記の症状がよく見られます。細かな症状の組み合わせは、ひとりひとり違ってきますが、たいていは「抑うつ」「精神運動抑制」「思考と認知のゆがみ」「身体症状」の4つの症状が現れると考えていいでしょう。

 もし、この4つの症状が1週間以上続いていて、どうにも治まりそうもない、と感じる場合には、1度、精神科、神経科(精神神経科)、心療内科、メンタルクリニックを訪れてみた方がいいと思います(うつ病の診断の詳細につきましては、「うつ病の診断(大うつ病性障害、気分変調症、軽症うつ病)」のページをご覧ください)。

 周りの人たちに、このような状態の人がいたら、さりげなく勧めてみた方がいいでしょう。うつ病などの心の病気では、「病識」(自分が病気だとわかること)のない人も多く、まわりの人から言われて、はじめて気がつく、というケースもよくあります。

 うつ病も、ほかの病気と同じで、ある時突然重い症状が現れる、というわけではありません。やはり、本格的な症状が現れる前段階として、心身にさまざまな変調があります。
 それでは、一般的な「うつ病の経過」について、順番に見ていきましょう。

ball うつ病の症状の一般的な経過
体がだるい、疲れがとれない、気分が落ち着かない、といった心身の変調を感じる。
食欲がない、楽しさが感じられない、眠れない、追いつめられた気分になる、焦り(焦慮)が出てくる、仕事や家事がうまくできない。
そんな自分自身に嫌気がさしてくる、自分を責める、目に見えて体重が減ってくる、朝起きるのがつらい、便秘がちになる。
誰かに相談したり、かかりつけの医者に診てもらったりするが、原因がわからない、焦り(焦慮)が強くなる、出勤できない、起きられない。
何もかもうまくいかないのは、甘えているからだ、自分はなまけものだ、と自責の念が強くなる。
つらさや苦しさを感じるようになる、自責の念もますます強くなる、じっとしていられない、いたたまれないような強い焦慮が現れる。
まわりの人に迷惑をかけている、自分などいなくなった方がいい、と感じ出す。
こんなに苦しいなら、死んだ方がいい、ほかの人に迷惑をかけたくない、と考え出す。
  一般的には、このような形で、うつ病は進んでいきます。
 このうちの2番目から3番目くらいの状態で治療を始めることができれば、軽いうつ、または「軽症うつ病」といった程度で、かなり早く回復できるはずです。
 また、4番目か5番目くらいなら、治療を続けながら少しまとまった休養を取れば、回復できるでしょう。

 6番目以降になると、入院治療も考えなくてはいけない段階です。特に8番目の自殺念慮が出てきたら要注意です。最悪の事態も充分に考慮しながら、長期にわたって治療を続けなくてはなりません。

ball 注意が必要な「激越型うつ病」
 もちろん、すべてのうつ病が上記のような順番どおりに経過していくわけではありません。特に焦りの気持ち(「焦慮」)が強く出る「激越型うつ病」の場合、ほかの症状が強くなくても、危険が大きくなります。
 いたたまれない気分に支配され、発作的に自殺行為に走る(「自殺企図」)ことがあるからです。リストカットなどの「自傷行為」となる場合もあります。
 危険な状態ですから、緊急の保護入院や措置入院も考慮すべきです。

 さて、このように見てくると、うつ病も、ほかの病気と同様、早期発見、早期治療が重要だということ、おわかりいただけたと思います

 初期の段階で、気の持ちようとか、気合いが足りないとか、「精神論」に走ってしまう人が多く見受けられます。
 しかし、「精神論」では、うつ病は治りません。「自責の念」が強くなったり、「焦慮」が強くなったりして、かえって病状が悪化してしまいます。
 うつ病の人を励ましてはいけないというのは、このような理由があるからです。

 うつ病は、治療が必要な病気です。本人もまわりの人も、「精神論」などで、かえって追いつめるようなことがないよう、心がけるべきでしょう。






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