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きょうの社説 2011年9月29日
◎中央防災会議 日本海側の津波調査も必要
東日本大震災を受け、中央防災会議の専門調査会が決定した最終報告は、地震や津波の
想定規模について、従来は発生確度が低いとして除外してきた「歴史地震」も考慮し、千年に一度の最大クラスに引き上げた。これに伴い、従来の津波対策は抜本的な見直しを迫られるが、物足りなさを感じたのは 、調査会の議論が、発生確率の高い東海、東南海、南海地震を想定して太平洋側に集中し、日本海側への踏み込みがなかった点である。 日本海側については、調査会メンバーの間からも、調査が手つかずの海底活断層が多数 存在することや、沿海州、朝鮮半島付近で地震が起きた際の津波発生など、太平洋側とは異なるリスク要因が指摘された。 東北を襲った津波では、防波堤や防災教育の浸透で犠牲者を出さなかった事例が報告さ れているが、日本海側はハード、ソフト両面にわたって対策は貧弱である。津波発生の頻度は低いのかもしれないが、そうした無防備さは発生時のリスクを著しく増大させる。 北陸の自治体でも津波対策を中心に地域防災計画の見直し作業が始まるなか、被害想定 や避難対策は手探り状態である。科学的なデータが増えれば、より具体的な立案が可能になり、住民の意識向上にもつながるだろう。 最終報告をもとに、政府は国の防災基本計画を年内にも修正する方針である。防災対策 の前提となる調査の徹底にも力点を置き、手薄な日本海側の津波調査については早く体制を整えてほしい。 日本海側では1983年に秋田沖で日本海中部地震があり、100人が津波の犠牲にな った。それまでは日本海には津波がこないというのが定説で、三陸海岸のような津波の災害文化もみられない。 だが、大震災以降、「歴史地震」への関心が高まり、江戸時代には輪島を約8メートル の津波が襲うなど、古文書から複数の大津波が確認されている。千年単位でみれば繰り返されてきた可能性があり、津波の痕跡を把握する堆積物調査など、やるべきことは多い。政府に望みたいのは、調査の空白域を着実に埋めていく視点である。
◎「春蘭の里」世界発信 「農業遺産」生かす弾みに
能登町の農家民宿群「春蘭(しゅんらん)の里」が、英BBC放送の企画を通じて世界
に発信されることになった。能登の風景や農業体験を観光資源として過疎化の抑制に取り組んでいる点などが評価されたとみられ、「春蘭の里」と合わせて、世界農業遺産の「能登の里山里海」の認知度向上が期待される。「能登の里山里海」は自然を生かした農林漁業の営みや景観、文化・祭礼、生物多様性 などが総合的に評価されて世界農業遺産に認定された。「春蘭の里」の取り組みが海外からの強い関心を呼んでいることは、「能登の里山里海」の価値や活性化への可能性をあらためて示したといえる。「春蘭の里」をけん引役として、能登各地で世界農業遺産を生かした地域振興に弾みをつけたい。 「BBCワールドニュース」が主催する「ワールドチャレンジ」は世界各地の草の根事 業を公募し、表彰するもので、今年は世界中から600以上の応募があり、「春蘭の里」が最終候補12組に選ばれた。日本から初ノミネートとなった「春蘭の里」や「能登の里山里海」が、特集番組などによって世界に紹介されることから、能登に関心を持ち、訪れたくなる人が一人でも多く増えてほしい。 1997年に農家民宿を始めた「春蘭の里」は、稲刈りや山菜採りなどの体験メニュー 、地元食材を使った食事などが好評で、昨年の宿泊客数は前年比約1・5倍の約4800人に上った。民宿の数も約30軒に増え、全国からの視察も相次いでいる。里山の恵みを生かして、地域の活性化と里山保全を目指す取り組みが着実に実を結んでいるといえるが、過疎地が抱えるさまざまな課題を地元が共有し、アイデアを具現化していった「春蘭の里」の歩みから学ぶ点は多いだろう。 里山里海の保全、活用を後押しする県の「いしかわ里山創成ファンド」には能登地区か らの応募が目立ち、足元の資源を掘り起こそうという動きが広がっている。地域と関係機関が連携を強めて、能登活性化の芽をしっかり育ててもらいたい。
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