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2011-09-27

[]ニセの論点とニセの二項対立

自民党の参議院議員、片山さつきが「従軍慰安婦」問題について語った「客観的事実」なるものについてはブクマで簡単にコメントしておきましたが、日本の保守派、右派は一体いつになったら客観的現実に直面することができるのでしょう? まあ現実を回避するためにこそ「主観的事実」にしがみついているわけなので、言っても詮無きことなのかもしれませんが。

ところで、すでに昨年刊行されていた本に最近気がつきました。

  • 倉橋正直、『従軍慰安婦と公娼制度―従軍慰安婦問題再論』、共栄書房

「性的奴隷型」と「売春婦型」──2つのタイプの検討を通じて従軍慰安婦問題の核心に迫る。

中国戦線の日本人町全体に日本人売春婦が一万五千人もいた。日本軍と共生して中国各地で「日本人町」を形成した日本人商人、日本の公娼制度との関連など、日本近代史の恥部に光をあてながら、従来の画一的な「従軍慰安婦像」を排し、「自虐的」でも「ねつ造」でもない「実像」に迫る。

(http://kyoeishobo.net/books.html)

著者についてのネットの情報を参照すると明らかに「慰安婦問題」否認論者たちから誹謗されていることからも、著者の主張が否認論に与するものでないことは明らかなのですが、ちょっと立ち読みしただけでも納得しがたい点がありました。著者は「商行為」論等の否認論の対局に“すべてを性奴隷で説明する議論”なるものを想定しており、前者はもちろんのこと後者も自身の発見によって成立しなくなったと主張しています。しかし20年近く前ならともかく、「慰安婦」のすべてが著者の言うところの「性的奴隷型」に属する被害者であったと主張している論者を私は知りません。例えば、1995年刊の吉見義明著『従軍慰安婦』(岩波新書)の主張の少なくとも大部分は、「中国戦線の日本人町全体に日本人売春婦が一万五千人もいた」かどうかによって影響を受けません。「日本人慰安婦の多くは、貸座敷(遊郭)などから集められた」(同書、88ページ)ことは当初から左右を越えた共通認識であったはずです。

もちろん、「慰安婦問題」否認論者にきっぱりと対立する立場の人間が「性的奴隷」という概念を重視している(「性奴隷」という表現についてはそれを積極的に支持しないこともあるでしょうが)ことは確かです。しかしそれは、時期や出自、地域やさらには偶然的な事情により「慰安婦」となった/とされた経緯や「慰安婦」であった期間の待遇に大きな違いがあったことを否定しているからではありません。問題なのはそうした違いが、「慰安婦」となった/とされた人びとの尊厳という観点から見た時にどのような意味をもつかであって、「中国戦線の日本人町全体に日本人売春婦が一万五千人もいた」かどうかではありません。自身の立場を新鮮に見せるために他の論者の主張を単純化しすぎているのではないか、という疑念が拭えません。

かず色かず色 2011/09/27 23:09 >Apemanさん

先日、近所の図書館で大沼保昭編『慰安婦問題という問い――東大ゼミで「人間と歴史と社会」を考える』(勁草書房、2007年)を読んだのですが、多様な論点を網羅した討論記録に引き込まれました。
和田春樹、秦郁彦、吉見義明、上野千鶴子、長谷川三千子等々、よくもこれだけ従軍慰安婦問題に対して異なる見解を持つ論者をゼミに招聘したものだと感心しましたが、講義記録および学生との質疑応答内容も素晴らしかったです。
見解の異なる論者同士がこの問題を真摯に議論できることを、本書を読み、改めて認識した次第です。

bathrobebathrobe 2011/09/27 23:50 正しい論点とは何なのか、伝わってこない・・・

rawan60rawan60 2011/09/28 02:06 この著者は1994年に「従軍慰安婦問題の歴史的研究―売春婦型と性的奴隷型」という本を同じ出版社から出していますね。

>自身の立場を新鮮に見せるために

というより、当時と同じような内容を書いているだけなら、その後の研究や書籍についてどのように認識しているのかがまず疑わざるを得なくなります。

Bill_McCrearyBill_McCreary 2011/09/28 02:48 以前の高岡某のフジテレビは韓国ドラマがどうしたこうした発言で、片山がツイッターでそれを支持する発言をしたということを知って、この人こんな馬鹿なことを発言するんだとおどろきました。田母神や中山成彬、中田宏らなら「馬鹿が馬鹿いっている」と思うだけですが、片山は意外でした。案外片山も安易で軽薄な人間です。私も人を見る目がありません。

http://d.hatena.ne.jp/Wallerstein/20110803

ApemanApeman 2011/09/28 09:11 かず色さん

>和田春樹、秦郁彦、吉見義明、上野千鶴子、長谷川三千子等々、よくもこれだけ従軍慰安婦問題に対して異なる見解を持つ論者をゼミに招聘したものだと感心しましたが

むしろ大久保氏が集めたらこういうメンバーになるだろうな、というメンバーではないかと思いますが。
ちなみに長谷川三千子氏が比較的最近「慰安婦」問題について書いた文章は、右派による現実逃避のお手本のような代物ですね。元記事がすでになくなっているので法華狼さんによる紹介をリンクします。
http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20101013/1286985850

bathrobe さん

「求めよ、さらば与えられん」です。

rawan60さん

時間がとれれば新旧の両著作で議論に大きな違いがあるのかどうかも確認してみます。

Bill_McCrearyさん

Wallersteinさんのところで「彼女はこういう馬鹿なことは(頭で考えても)口には出さないと思っていた」と書いておられますが、むしろ「彼女はこういう馬鹿なことを(頭では考えないかもしれないが)口には出すだろう」ということだったのではないでしょうか。まあこの手の発言で有権者の支持を集めようとしているのは彼女1人ではないわけで、それは自民党の危機でもあるとともにもちろん日本社会の危機でもあると思います。

坂本真一坂本真一 2011/09/28 13:51 法華狼さん
rawanさん

倉橋正直氏の「従軍慰安婦問題の歴史的研究」については、女性史家の鈴木裕子氏が「女性史を拓く3 女と「戦後50年」」にて批判されています。もう一つ、女性史家の藤目ゆき氏が「性の歴史学」の注釈にて少し批判していました。

rawan60rawan60 2011/09/28 15:50 Bill_McCrearyさん

>案外片山も安易で軽薄な人間です。私も人を見る目がありません。

むしろわたしは、高市、片山、小池らの違いってわかりません。

坂本真一 さん

「売春・商行為」→OK
「強制(性奴隷)」→不可

「売春・商行為」→OK
「強制(性奴隷)」→嘘・言いがかり

「どうしようもない」という意味では、どっちもどっちですな。

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