20年夏季五輪の招致レースは、東京を含む6都市の争い。2大会連続の立候補である東京は、「前回計画をたたき台にすればいい」(都幹部)としているものの、東日本大震災や福島第1原発事故の影響で、新たな課題も浮上している。【柳澤一男】
各立候補都市は、来年2月までに開催計画の概要を記載した「申請ファイル」を国際オリンピック委員会(IOC)に提出しなければならない。大きな課題の一つが、大会を象徴するメーンスタジアムをどこにするか。08年の北京大会では、外観から「鳥の巣」と呼ばれた国家体育場が経済発展ぶりを世界に印象付けた。04年アテネ大会の「アテネ・オリンピックスタジアム」での開会式では、古代ギリシャを再現したパフォーマンスが「聖地回帰」をアピールした。
東京は前回立候補した際、1000億円で中央区晴海の埋め立て地に新設することにしていた。だが今回は「五輪のために莫大(ばくだい)な経費で新設することは都民の支持を得られにくい」(都幹部)と判断。国による大規模な改修を前提に国立競技場(新宿区)を活用する案が浮上している。
1958年完成の国立競技場は老朽化しているうえ、2019年開催のラグビー・ワールドカップ(W杯)に向けて収容人員を現在の5万4000人から8万人規模にする必要がある。超党派の国会議員による「ラグビーW杯2019日本大会成功議連」も大規模化を求めており、所管の文部科学省は財務省に予算化を求めていく方針だ。
文科省の担当者は「W杯に間に合わせるには、来年度が調査費用を計上するギリギリの時期。しかし収容能力を7万人にするには800億円弱、8万人なら約1000億円かかる。震災の復旧・復興財源を考えると、財務省に『そんな金、どこにあるんだ』と言われてしまうかも」と不安を漏らす。都スポーツ振興局幹部は「もし改修されなければ、メーンスタジアムは暗礁に乗り上げてしまう」と、国の動向を注視している。
原発事故に伴う「日本は危険」というイメージを払拭(ふっしょく)できるかも課題だ。
前回の立候補時にマウンテンバイク会場に予定された東京湾の埋め立て地には、原発事故後、1キロ当たり8000~10万ベクレルの放射性セシウムを帯びた下水処理施設の汚泥焼却灰が埋められている。馬術のクロスカントリー会場予定地近くでも、8月、保管中の堆肥(たいひ)4700立方メートルから、堆肥の暫定許容値(1キロ当たり400ベクレル)を29ベクレル上回る放射性セシウムが検出された。
放射性物質が放出された影響で食品汚染への不安も続く。東京では、10月に世界体操が、11~12月にもバレーボールのW杯の一部試合が予定されている。都幹部は「世界大会を通じ、東京に来てもらい、安全なんだと実感してもらうことが大切だ」と期待を寄せる。
開催地を決定するIOC総会はわずか2年後。都幹部らは「原発事故の収束の見通しが来年中には立たないと、計画にもIOC委員の投票行動にも、大きな影響が出るかもしれない」と懸念する。前回約150億円を投じて果たせなかった五輪招致。今回も道のりは甘くない。
毎日新聞 2011年9月28日 11時49分(最終更新 9月28日 12時02分)