henrychanの譜記

2009-01-08 ハコの反対語はトラ

henry_chan2009-01-08

”ハコ”という音楽用語(?)がある。意味は”演奏のできる環境が整った場所”といったところか。ときに生演奏を提供するバーやクラブだったり、あるいはライブハウスを指したりする。”ハコバン”という言葉があって、要するに”ハコ”で演奏する”バンド”の略だが、この言葉には”ハコで定期的に演奏する契約を得たバンド”とう意味を持つ。経営者に認められ、レギュラーのポジションを得ることは、この上なく名誉なことだ。定期的な演奏契約を得た際に、それを”ハコで入る”と使う。


”トラ”とは”エキストラ”を語源にする。”代役”という意味だ。例えばハコバンのメンバーが風邪か何かでダウンした際、誰かが臨時でステージにたつとする、このことを”トラで入る”という。


去年は、女にトラブり、音楽仲間とトラブり、何かと散々だった。その逆、昔からの友との再会にあふれかえった年でもあった。そんな去年の初夏、失意の中にある僕を拾ってくれたのが、今のバンドのリーダーだった。僕がハモンドオルガンで参加している例の四十路シャリコマバンドである。リーダーは近所のミュージックバーのマスターで、現バンドはそこの”ハコバン”だ。ただしアマチュアだから契約もギャラも無い。その店のイベント事には必ず参加するというポジションだ。



ここ数ヶ月のあいだ、愚痴も言い、話も相談も聞いてもらった。とある日”ピアノ用意するから、お前弾きに来い”と言われた。プロじゃないから、契約もギャラも無い。当然バーのマスターだから拾ったピアノ弾きを取り込むことに、経営面でのいやらしい赤黒の勘定もあるに違いない。このご時世、タダで雇えるピアニストなぞ、損益の天秤にかけたら、経営者側にニッコリ傾くに違いない。


でもいい。僕のためにピアノを用意してくれるなんて、それは一生の内で何度聞けるセリフなのだろうか。すでにピアノは確保したらしく、あとは店までそれを運ぶボランティア配達員を募集中だそうだ。


僕は初めてハコに入る
僕のために用意されたピアノを弾く。それを想像すると、気迫で体温が上がる。