愛知県日進市の花火大会で、福島県川俣町内で製造された花火の打ち上げが中止された。放射性物質の汚染を心配した市民の苦情に、大会の実行委員会が中止の判断を下した。
事なかれ主義の対応が風評被害に加担し、福島の人々の心を傷つける結果を招いた。川俣町が怒るのは無理もない。
主催者は、苦情に対しては丁寧に説明したうえで、予定通り開催する心構えが必要だ。今後の教訓としたい。
花火大会は18日夜に行われた。目的は東日本大震災の被災地支援にあり、岩手、宮城、福島3県の花火を含め、2千発を打ち上げる予定だった。ところが、実行委は川俣町の煙火店で造られた80発を愛知県内のものと差し替えた。
同市によると、「汚染された花火を持ち込むのか」といった苦情が、20件ほど寄せられた。川俣町の花火店は計画的避難区域の外にあり、花火は屋内に保管していたことなどから問題はないと説明した。だが、「科学的な根拠はあるのか」と問われ、最終的に断念したという。
中止が報じられると、今度はそれに対する抗議が殺到した。川俣町は実行委に抗議の文章を送り、日進市が謝罪している。復興支援のはずが、逆の結果になってしまった。悔やまれてならない。
8月には、京都の「五山の送り火」で、岩手県陸前高田市の松の表皮から放射性セシウムが検出され、使用が取りやめとなる“事件”が起きたばかりである。風評被害が各地の催しにまで広がるようでは、復興どころではない。
まず、主催者が正確な知識を持つことが大事になる。
松から放射性セシウムが検出されたからといって、中止するのは早計だろう。皮の部分を取り除いて使用する方法もあった。
長野市の善光寺は、陸前高田市の倒木から作った木札の販売を続けた。県内の研究機関から、放射性物質が内部まで染み込んでいる可能性は極めて低いことを確認したうえでの決定だった。参考にしたい姿勢である。
花火問題について、村松康行学習院大学教授(放射化学)は「通常の条件では、花火に原発由来の放射性物質が混入することは考えられない」と述べている。主催者側が専門家の協力を得るなど万全の備えで臨めば、一部の苦情に振り回されずに済んだはずだ。
催しは人々が大勢参加する公の場である。主催者には影響の大きさを自覚してもらいたい。