オバマ大統領は2030年代半ばを目標として有人火星旅行を行うと発表しています。1969年人類が初めて月面に着陸してから40年以上、最後の有人月探査ロケットアポロ17号が打ち上げられたのは1972年です。現在にいたるまで有人宇宙飛行は地上から数百キロの高度の衛星軌道に限られています。
宇宙飛行は夢をかきたてるプロジェクトです。映画「2001年宇宙の旅」が公開されたのは人類の月面着陸の前年の1968年でした。映画では人類以外の知性の確認のために木星へと宇宙船が旅立ちます。1968年頃は2001年の木星旅行は夢物語ではなく、妥当な未来予測に思えました。40年以上も前に月に人間を送り込んだ人類が、その後惑星へと足を伸ばすことができなかったのは一重に人間というひ弱な生物体を宇宙の遠くへ運ぶことが難しいからです。太陽の巨大な引力が支配する太陽系の中で、火星と地球を往復するには二つの惑星の軌道が最適なタイミングを選んでも2年以上かかります。
2年以上宇宙飛行士の生命を維持するための食糧や生活物資は膨大な量になります。有人宇宙飛行とは人間と人間が必要とする物資を遠くに運ぶことに資源の大半を消費するということです。
たとえ大量の物資を運べてもそれだけでは十分とは言えません。2年以上ごく狭い空間で人間が暮らすストレスは大変なものです。衛星での長期間の生活で人間関係が極端に悪化した例が報告されています。
精神的な問題は非常に厄介ですが、肉体的問題が簡単なわけではありません。無重力での生活は筋力、骨量の減少を招きますし、手術が必要な病気を発病しても治療は限定的なことしかできません。
それほどの犠牲をはらって人間を火星や他の天体に送り込んでも、大きな成果が期待できるわけではありません。輸送できる物資の制限から広範囲の探査は困難ですし、岩石など鉱物標本も大量に持ち帰るわけにもいきません。
国際宇宙ステーションには「きぼう」と名付けられた日本の実験棟があります。この中でどんな実験をするか一般募集が行われましたが、結果はそれほど「目からうろこが落ちる」ような案は出なかったようです。
これは当然です。無重力下でどのような現象が起きるか興味深いことはありますが、必ずしも有人の実験棟である必要はありません。無重力であれば物質が非常に均一に撹拌できることで製造が容易になる物質もありますが、高いコストを押してまで無重力空間が有効な生産物はなかなかありそうにありません。
有人宇宙旅行は「有人」ということに資源の大半を使い、その価値も人間がそこに行けたということが大部分、恐らく全てなのです。科学的成果という点では、非常に高度な自動操縦や遠隔操作の装置があれば、人間とそれほど変わらない結果が得られるはずです。
有人であることは人間を送り込むということだけに資源の大半を使用するだけでなく、信頼性を高めるために莫大な費用がかかります。無人であれば100回に一回の打ち上げ失敗は単純に考えればコストを1%かさ上げするだけです。しかし、有人飛行で100回に1回の失敗は許されないでしょう(実際にはスペースシャトルの信頼性はこの程度だった「山崎直子さんの遺書」参照)
つまり有人宇宙旅行は資源の大部分を人間の輸送に費やし、しかも信頼性のためにさらに高いコストを必要とします。それでも太陽系の他の惑星や太陽系外に人間を送り込むことができれば最初のステップとしての意味はあるかもしれません。
しかし、火星以外の天体に人間を送るのは全く不可能でしょう。金星や水星は熱すぎますし、太陽の引力を逃れて地球に戻る宇宙船を作るのは困難でしょう。火星の外側の木星に探査船ガリレオが到達するために重力を利用したスウィングバイという高度なテクニックをつかって6年かかっています。今のところ戻る方法はありません。
まして、太陽系外の探査となると光速でも何年もかかります。現在の技術でできるロケットなら隣の恒星系に行くだけで何百万年もかかるでしょう。
「2001年宇宙の旅」では宇宙飛行士の大半は人工冬眠によってエネルギーを消費を最小限に抑えて木星までいくという設定でしたが、そのような人工冬眠の技術はまだありません。何百万年も旅行するとなると、人間そのものではなく幹細胞やDNA情報だけを送って、到達先で人間を作るような方法しかないでしょう。
これはキノコが胞子を飛ばすようなやり方ですが、それははたして「有人宇宙飛行」と呼べるのでしょうか。そもそもそんなことをする意味はあるのでしょうか。
有人火星旅行は科学的成果はほとんど期待できません。同じ費用を投じるなら、自動機械の開発に使った方が応用分野という点でもより役に立つでしょう。
人類は広大な宇宙を飛び回るほどの進化はまだ遂げていません。物理法則が変わらない以上、将来人類文明がどれほど進歩しても隣の恒星系に人間を繰りこむことは永久に不可能でしょう。それならば火星旅行だって諦めても良いのではないでしょうか。少し寂しいですがこれが現実というものです。
宇宙飛行は夢をかきたてるプロジェクトです。映画「2001年宇宙の旅」が公開されたのは人類の月面着陸の前年の1968年でした。映画では人類以外の知性の確認のために木星へと宇宙船が旅立ちます。1968年頃は2001年の木星旅行は夢物語ではなく、妥当な未来予測に思えました。40年以上も前に月に人間を送り込んだ人類が、その後惑星へと足を伸ばすことができなかったのは一重に人間というひ弱な生物体を宇宙の遠くへ運ぶことが難しいからです。太陽の巨大な引力が支配する太陽系の中で、火星と地球を往復するには二つの惑星の軌道が最適なタイミングを選んでも2年以上かかります。
2年以上宇宙飛行士の生命を維持するための食糧や生活物資は膨大な量になります。有人宇宙飛行とは人間と人間が必要とする物資を遠くに運ぶことに資源の大半を消費するということです。
たとえ大量の物資を運べてもそれだけでは十分とは言えません。2年以上ごく狭い空間で人間が暮らすストレスは大変なものです。衛星での長期間の生活で人間関係が極端に悪化した例が報告されています。
精神的な問題は非常に厄介ですが、肉体的問題が簡単なわけではありません。無重力での生活は筋力、骨量の減少を招きますし、手術が必要な病気を発病しても治療は限定的なことしかできません。
それほどの犠牲をはらって人間を火星や他の天体に送り込んでも、大きな成果が期待できるわけではありません。輸送できる物資の制限から広範囲の探査は困難ですし、岩石など鉱物標本も大量に持ち帰るわけにもいきません。
国際宇宙ステーションには「きぼう」と名付けられた日本の実験棟があります。この中でどんな実験をするか一般募集が行われましたが、結果はそれほど「目からうろこが落ちる」ような案は出なかったようです。
これは当然です。無重力下でどのような現象が起きるか興味深いことはありますが、必ずしも有人の実験棟である必要はありません。無重力であれば物質が非常に均一に撹拌できることで製造が容易になる物質もありますが、高いコストを押してまで無重力空間が有効な生産物はなかなかありそうにありません。
有人宇宙旅行は「有人」ということに資源の大半を使い、その価値も人間がそこに行けたということが大部分、恐らく全てなのです。科学的成果という点では、非常に高度な自動操縦や遠隔操作の装置があれば、人間とそれほど変わらない結果が得られるはずです。
有人であることは人間を送り込むということだけに資源の大半を使用するだけでなく、信頼性を高めるために莫大な費用がかかります。無人であれば100回に一回の打ち上げ失敗は単純に考えればコストを1%かさ上げするだけです。しかし、有人飛行で100回に1回の失敗は許されないでしょう(実際にはスペースシャトルの信頼性はこの程度だった「山崎直子さんの遺書」参照)
つまり有人宇宙旅行は資源の大部分を人間の輸送に費やし、しかも信頼性のためにさらに高いコストを必要とします。それでも太陽系の他の惑星や太陽系外に人間を送り込むことができれば最初のステップとしての意味はあるかもしれません。
しかし、火星以外の天体に人間を送るのは全く不可能でしょう。金星や水星は熱すぎますし、太陽の引力を逃れて地球に戻る宇宙船を作るのは困難でしょう。火星の外側の木星に探査船ガリレオが到達するために重力を利用したスウィングバイという高度なテクニックをつかって6年かかっています。今のところ戻る方法はありません。
まして、太陽系外の探査となると光速でも何年もかかります。現在の技術でできるロケットなら隣の恒星系に行くだけで何百万年もかかるでしょう。
「2001年宇宙の旅」では宇宙飛行士の大半は人工冬眠によってエネルギーを消費を最小限に抑えて木星までいくという設定でしたが、そのような人工冬眠の技術はまだありません。何百万年も旅行するとなると、人間そのものではなく幹細胞やDNA情報だけを送って、到達先で人間を作るような方法しかないでしょう。
これはキノコが胞子を飛ばすようなやり方ですが、それははたして「有人宇宙飛行」と呼べるのでしょうか。そもそもそんなことをする意味はあるのでしょうか。
有人火星旅行は科学的成果はほとんど期待できません。同じ費用を投じるなら、自動機械の開発に使った方が応用分野という点でもより役に立つでしょう。
人類は広大な宇宙を飛び回るほどの進化はまだ遂げていません。物理法則が変わらない以上、将来人類文明がどれほど進歩しても隣の恒星系に人間を繰りこむことは永久に不可能でしょう。それならば火星旅行だって諦めても良いのではないでしょうか。少し寂しいですがこれが現実というものです。
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