戦後民主教育を破壊してしまったために生じた国家の困難
2011年09月26日15時01分
でも、問題は収入が増えたか減ったかではありません。このレベルでしか反原発問題をとらえられない記者の低水準、このような意地悪な記事を書こうという発想の愚劣さ、人格の低劣さ、そしてそれを記事として報道してしまう雑誌の下劣さ、全てがマスコミの劣化を象徴しています。
かつて、自民党と文部省の教育政策は日教組攻撃を主眼とするものでした。その結果、教職員組合への加入率はどんどん低下し、1960年前には8割を超えていた日教組の組織率は27.1%となってしまいました。
日教組から分かれた全教も組織率は6%で、これらを含めた教職員団体全体の加入率は42.3%です(いずれも、2009年10月1日現在の数字)。つまり、先生の半分以上は労働組合などの教職員団体に入っていません。
これでどうして、労働組合の意義や役割を子供たちに教えることができるのでしょうか。自分自身が、そのような団体に入っていないのに……。
そればかりではありません。教育の現場では、先生への管理強化を狙って校長などの権限を強め、上意下達の体制を採り入れてきました。
その結果、職員会議は形骸化し、民主的な討論の場ではなくなりました。必要事項を伝達する場にすぎないというのです。
これでどうして、民主主義や討論の重要性を子供たちに教えることができるのでしょうか。自分自身が、そのような場を保障されていないのに……。
政治は教育に介入して意のままにしようとし、文科省は教科書検定を通じて教育内容を歪め、ついには、「日本は悪くない」とする歴史教科書も現れ、その採択率が高まっています。「日の丸・君が代」を強制しないという約束は反故にされ、どのような教育がなされているかよりも、「君が代」斉唱で起立しているかどうかの方が、より大きな問題とされるようになりました。
「君が代」を歌っているときに起立しなかったという理由で処分され、再雇用を拒まれた先生も出てきました。独自の性教育を行っていることを目の敵とする都議まで現れ、裁判で争われました。
大阪では、君が代起立斉唱を想定した職務命令違反の教員の分限免職や首長が設定した目標を実現する責務を果たさない教育委員を罷免できるなどの「教育基本条例案」が提案されています。とうとう、こんな馬鹿げた憲法違反の条例案が、堂々と議会に提案されるような時代になったということです。
このようななかで、先生は萎縮し、苦悩し、精神を病み、やる気を失い、情熱を持って子供たちに接することが難しくなってきました。今日の『朝日新聞』に、教員の感じる働きがいはベテランになるほど落ちているという調査結果が報じられています。
それによれば、男性だと、年齢が高いほど「職場の仲間がいるから楽しい」「児童・生徒たちから必要とされている」の設問に「そう思う」と答える率が低下し、職場や教室で関係が結びにくくなっている傾向がうかがえたそうです。
先生の危機は、教育の危機を意味します。「失われた20年」とともに、日本の教育も失われつつあります。
このように、日本の教育は政治や行政の誤った介入によって、破壊され続けてきました。戦後民主教育を目の敵にし、「期待される人間像」を具体化するために精を出してきた自民党や文部省(文科省)による「教育改革」の「成果」が、このような形で結実しつつあると言うべきかもしれません。
その結果、日本の教育は大きく歪んでしまいました。時代の要請に反する人間類型が続々と生み出されてきています。
政治と政治家の劣化をもたらしている背景の一つがここにあります。それは、このような政治家を選ぶ有権者が増えている要因の一つでもあるでしょう。
こうして、自主性を持たず自分の頭で考えない、たとえ理不尽な支持や要求でも従う、使いやすい「指示待ち」人間が増えてきました。ビジネス社会では、創造力豊かな「問題解決型」のビジネスマンが求められているというのに……。
また、自分の意見や主体性を持たず、政治への関わりを避けようとする消極的な人間が増えてきました。現代社会では、政治への発言力を持った民主的な人格が求められているというのに……。
さらに、日本の戦争責任や植民地支配の過ちを認めず、周辺諸国を貶み、民族的な差別に鈍感な「愛国者」が増えてきました。国際社会では、アジアの周辺諸国との友好を前提に、マイノリティに共感して民族の共生を尊重する地球市民こそが求められているというのに……。
教育は国家の基礎であるといわれます。その教育が、このような形で破壊され、「期待されざる人間像」が排出されるようになってきたところに、日本がこのような酷いことになってしまった根本的な原因があるのではないかと、しみじみ考えてしまう今日このごろです。
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